日曜日とはいえ途中の渋滞は殆どない。ロンドン市内を通過しないのでスムーズだ。バックハースト・ヒルまで2時間もあれば行ける筈である。
ノッティンガム、レスターと回ってM1を走って帰る方法もないではないが、途中立ち寄って見物する時間がない。我々だけなら何時に帰っても構わないのだが、家ではチャールズのお母さんが1人で待っており、6時頃までには帰宅しなければならない。
今朝来た道をとって返すことになった。グランサムを回ってケンブリッジまでひた走りに走る。疲労で3人とも無口であった。路面からのこまかい震動とエンジンやタイヤの騒音だけが単調に伝わってくる。外は褐色の乾いた風景が延々と続く。眠気が襲ってくる。ノッコは後ろの席で目をつぶっていたが、私は運転しているチャールズに悪いので、懸命に目を開けていた。チャールズに話かけられても、疲れ果てて英語が言葉になって出てこない。
スタンステッド空港に近づいた。突然、上空にジェット戦闘機の編隊が低空飛行で頭上をかすめていっ
た。右に左に幾度か旋回しながら飛行を続ける。チャールズが突然左の路側帯に車を停めた。高速道路では危険だと思ったが、数台の車が既に道路脇に停まっている。外へ出て上空を見上げる。赤や青や白のスモークを交互に流して、真赤な小型のジェット機が7機編隊でアクロバット飛行をやっている。イギリスが誇る有名なレッド・アローの面々だ。何度も高度を下げ我々の頭上をかすめてゆく。午後の余興としてはなかなかスリルがあって申し分ない。眠気も吹き飛んだ。
クィーンズ・ロードを駆け下りて家に着いたのは6時半頃であった。お母さんはソファーに横になって寝ていた。私達はチャールズに夕食の用意をさせるのは可愛そうなので、この近くのレストランで食事をしようと思った。チャールズが近くの中国料理店へ行こうと誘うのだが、お母さんはそこまで歩くのは嫌だと言って反対する。それでは、改装したばかりの向かいのイタリアン・レストランはどうかと聞くと、ボーイはよいが料理が不美味いと、色々気難しい。多分、疲れていて気が進まないのだろう。私達2人は無理をしないで、早めに帰ることにした。
駅までゆっくり歩いた。チャールズが最後だからと、駅まで一緒に来てくれた。日曜日の夕方、陽はまだ落ちていないが、町は静かで人通りもなく、私達の靴音だけが通りに響いた。プラットホームで別れを惜しみ、「また、すぐ来るよ」と告げて、私達は電車に乗込んだ。電車はバックハースト・ヒルの駅を出て行き、全ての想いが昔の記憶と重なって心の中で交錯した。