台所がすごい - 064 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 大食堂やキングス・ルームもなかなか凝った趣向が伺えて美しい部屋である。しかし、この城の中では、部屋の大きさと豪華さではリージェント・ギャラリーが一番である。中央に半円形の大きな格間があり、金銀のゆりの花模様の赤い絨毯やカーテンで飾られた明るい美しい部屋である。暖炉の上には一段と大きな美しい女性の肖像画が掛けられている。第5代伯爵婦人で、美的センスの勝れた女性だったらしく、この城の建築に当たっては彼女の意見が随所に取入れられたという。その他、豪華なものに、ルイ16世時代にパリで入手したという、ドンキホーテを主題にした、色彩が美しいゴブラン織のタペストリーもある。

遠い夏に想いを-ムリーリヨ
 また、階段を降りると小さなチャペルがあって、ここも簡素で清楚な美しさが漂う。祭壇の中央には聖家族の絵が掛けられている。ムリーヨの作で、わりと小さな作品だが親しみ易く心和む絵である。

 つまらないようで、意外に楽しいのは、豪華絢爛なる生活を裏で支えていた台所や貯蔵庫である。華麗な世界とは無縁の下働きの庶民が働く場所であった大きな台所は、今は使われていない。真白な壁面と高い天井。黄色い扉や収納パネル。銅製の調理器具が並べられている黒い棚。日本の小さな家が一軒まるごと入ってしまいそうな広い台所だ。盛大な夜会が開かれた折に、台所で慌しく動き回る女達、赤い炎をあげる大きな窯、湯気が激しく立ち上がる鍋や釜、甲高く響く声、まるで火事場のような目まぐるしいこの部屋の情景や様子を想像するのは楽しい。


 地下の貯蔵庫は薄暗く、ひんやりと温度が低く、何か羽織らないと寒くて居られない。今は使われていない大きな古い酒樽がそこここにころがっている殺風景なところだ。広い蔵の中から外までの通路にはレールが敷いてあり、トロッコが置いてある。薄暗いが、かなり広く、外が眩しい。

 ミネソタの遠い日々
1970年の夫婦子供連れでのミネソタ大学、留学記録にもどうぞ