舞踏会ホールはゴシック様式で、壮麗さで有名なリンカーンの大聖堂からヒントを得て造られたといわれる細長いホールである。決して大きな部屋には見えないが、教会の趣がある。ここには歴代の当主の肖像画が掛けられている。現在の城主のご母堂に当たる第9代の伯爵婦人の絵がいい。絵の善し悪しは別として、モジリアニ風の長い首と極端ななで肩、顔は、うちの奥様みたいに、頬骨の張った感じだが、大きな瞳に憂いと優しさを秘めた、優雅で美しい立ち姿は見る者をその場に釘付けにする。
更に足を進めると、『中国風の部屋』がある。美しい象眼の調度品と周囲には豪華な中国風の黒い漆に金の装飾が施された壁がある。ヨーロッパでは浮世絵とともに日本趣味が広がる以前に、東洋風エキゾシズムとして中国趣味が上流階級に珍重された時代があった。
舞踏会室に接して、『エリザベス・サロン』と呼ばれるルイ14世風のサロンがある。この部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、目が眩むほどの衝撃で、一瞬言葉を失う。それは一種の錯覚がなせる業である。72年に訪れたベルサイユ宮殿の一室に居るのではないかという理性を越えた時空の中に自分を発見する狼狽である。バロック風の白い壁面に大きな鏡がはめ込まれ、天井は鮮やかな色彩のフレスコ画で飾られ、リージェンシー様式のピンクと銀のダマスカス織りの椅子や長椅子が並べられている。少々装飾過剰気味ではあるが、なんとも美しい部屋である。
天井が高くて、明り採り窓がある絵画室では、周囲の真赤な壁に所蔵の絵画が展示されている。絵画の知識が有る無しは別にして、絵を見た瞬間にアレッと驚くことが時々ある。例えば、子供の頃から記憶の底に残っていた絵に思いがけない場所でめぐりあう時の、一瞬のハッとする驚きと感動である。ここにはホルバインが描いたヘンリー8世の肖像画のうちの一点がある。手を腰にあて両足をひろげた仁王立ちの等身大の姿は日本の教科書や歴史書にしばしば採用され、ヘンリー8世の肖像としては馴染み深い絵である。ホルバインはヘンリー8世の肖像をたくさん描いているから、これそのものでは無いのかも知れない。
ミネソタの遠い日々
1970年の夫婦子供連れでのミネソタ大学、留学記録にもどうぞ