
スカフォルドの前で若い女性のガイドがフランス語で連れの旅行者達に大声で解説している。そばへ行って立ち聞きする。奥様は「やめなさい」とおっしゃる。でもフランス語でも少しは分かる。京都や奈良でも団体客の一員になりすまして、ガイドの話に耳を傾ける。旅行案内の小さな文字を読む煩わしさが省けるだけ有難い。
北側のウォータールー・バラックスの前には長い行列ができていた。そして一向に進まない。ここの行列は有名らしく、英国版のロンドン案内書にも「夏場は行列覚悟のこと」と注意書きがある。この建物は1845年にデューク・オブ・ウエリントンによって建てられた。古いものだらけのロンドン塔内では比較的新しいのである。

バラックスの西側の棟は英国王室の王冠、宝石、刀剣、衣装等の財宝の展示室になっており、1967年以来一般に公開されている。1850年に東インド会社からビクトリア女王に献呈された『コーイヌーア』とか、有名な『アフリカの星』などのダイアモンドがある。1972年にここへ来た時にはこの展示館に入って全て見学した。美とか趣味とかを通り越して、単純に驚異の世界としか感じなかった。今回大英博物館も覗いてみて、ここはまさに世界中に覇権を広げた大英帝国の世界略奪の歴史そのものの証であるとの確信がますます拭えなくなった。これを献上と捉えることも可能だろうが、その判断は自由だ。とてもこの行列に加わる気力も忍耐力も無いので、今回はスキップすることにした。
ミネソタの遠い日々
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