隣のトテナム・コート駅で降り、地下から地上へ出た。通り名も方角も分らない。方向音痴なので、日本では馴れない土地へ行くと地上に出た瞬間によく迷子になる。大阪の地下街などは行くたびに迷子になる。欧米では路線方式を採用しているので、通りには全て名前が付いている。パリがいい例で、通り名表示に関しては完璧な街だ。地図さえよく見ていれば迷子にならない筈だが、ロンドンでは通り名表示がない箇所が意外と多い。
土曜日のお昼前とあって、トテナム・コート界隈もオックスフォード・サーカスと同様大変な人混みで、立止まって地図など覗き込んでいると押し飛ばされてしまう。ところが、方向音痴では自他共に認めるノッコが地図を脇から覗きながら突然叫んだ。
「あっち!」この夫婦は片方が間違えても喧嘩なしの旅行を旨としているので、路上で口角泡を飛ばすことも、口を尖らせてブツブツ言うこともしない。不愉快になることと醜い言動はできるだけ避けることを信条としている。半信半疑でノッコについて行った。交差点でトテナム・コート・ロードを渡り、左へ折れ、1ブロック行って右に曲がった。
「ここを真直ぐ!」
ノッコが叫んだ。
「はい、分りました。行きましょう!」
ここにもグレーター・ラッセル通りの表示が見当たらない。前をアメリカ人の夫婦らしい中年のカップルが歩いている。ノッコは彼等の後について行けば間違いないと言う。シャーロック・ホームズとワトソン気取りである。
ブルームスベリー通りまで来て、大英博物館の門柱が見えてきた。前の夫婦は門内に消えた。ご宣託の通りであった。非常時に運を呼寄せ力を発揮する才能。既にチャオが今まで幾度も証明してくれた。これも遺伝と思うしかない。
ミネソタの遠い日々
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