暗い門の奥に鮮やかな緑の芝生が見えふ。正面に2本の塔を持った2階建ての校舎が視界に入った。
14世紀中頃に庶民が庶民の為に創設したケンブリッジでも珍しいカレッジらしい。キリスト聖体ギルドと聖母マリアギルドというギルドが共同で創ったカレッジだけに、何か庶民的で女性的な優しさを持った美しい建物である。ご存知のように、ギルドとは同業たちが団結してつくる組合のようなものだ(もともとキリスト教が起源とされているが)。ヨーロッパの大学の起こりはカトリックの教育が主だったとはいえ、大学にカレッジを贈呈するのは大変に珍しい。ルネッサンス様式風のアーチ型の窓々には赤や白や紫やピンクの可憐なペチュニアの花がブーケのように飾られていて、美しさに対する優しい心遣いが伝わってくるようだ。ここからは、かの有名なクリストファー・マーローがいる。シェイクスピアとは誰なのか、数人の候補者がいるが、その内の一人がマーローで、彼ががシェイクスピアだという他人説と、シェイクスピアはシェイクスピアだとする本人説があるほどに有名な詩人で劇作家だ。
トランピントン通りへ出てさらに進むと、左手に古い教会がある。1320年に建てられたセント・ボトロフス教会である。幅2メートルほど、高さ3メートルほどのアーチ型の正面扉を持った石造りの小さな教会である。何気なしく通り過ごしてしまいそうな小さな建物だが、黒々とした木の扉が半分だけ開いていた。石段を一段降りて中へ入る。堂内は薄暗く、目を凝らして見ると作りは素朴で、丁度、お昼に立寄ったホウィトルスフォードの古いチャペルと同じくらいの大きさだろうか。ケンブリッジのカレッジで一番古い建物がピーターハウスで、その次に古いのがクレア・カレッジ、その次に建てられたのがこの教会だから、いかに古いかが想像できる。身廊と側廊は当時のままで、塔は15世紀に建てられたものらしい。薄暗い堂内はこれといった装飾もなく質素なつくりだ。
半開きの扉を抜けて表へ出ると、西陽の強い陽射しに一瞬目が眩んだ。そのままペンブローク通りを渡り、トランピントン通りのペンブローク・カレッジに立寄った。ここにも小さな中庭があり、その緑はコーパス・クリスティの芝生より一段と鮮やかで、やっとイングランドの緑に逢えたな、という興奮とも安らぎともいえない感激が湧いて来た。
ミネソタの遠い日々
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