9時半になった。いよいよケンブリッジへ出かけることにする。お母さんを1人で残して行くのは心配だった。チャールズは大丈夫だと言うので、チャールズのワーゲンで出発する。お母さんが玄関まで出てきて見送ってくれた。
クィーンズ・ロードをのぼりエッピング・ニュー・ロードを右に曲り、森に沿って走った。
緑の木々がこもれ陽に踊って美しい。牧草地や畑は夏枯れで褐色になっているが、木々の枝にはあふれんばかりの緑の葉が茂っている。車にはエアコンが無いので、窓を開けっ放しの風が頼りの日帰り旅行となった。
ほどなくエッピングの町に入った。道の両側に広い歩道が伸び、歩道に沿って2階建てのイギリス風の店々が続く。朝から通りは町の人達の買物で賑わい、小さな町だが活気にあふれていた。
更に郊外の町々を走り抜け、ソーンウッド・コモンから高速道路へ入った。M11を北に進む。M11はロンドンからケンブリッジまで真北に80キロほどだが、エッピングからは60キロくらいだろうか。路面はコンクリート舗装なので騒音と震動がひどい。高速道路ばかりで単調なので、途中のビショップス・ストートフォードで一般道へ出た。更に針路を北にとってケンブリッジへ向かう。
田舎の道はのどかでいい。しかし真夏だというのに、枯れ草が延々と広がる緑のないイギリスなど夢にも想像しなかった。遠くには焼き畑の煙が空高く舞い上がっている。今は環境に悪いと、焼畑は規制されているらしいが、厳しい人間の営みの現実がそこにある。我がままな旅人と住人のギャップ。日本でも雪国の住人と雪積のない地方の住人の冬に対する受け止め方のギャップ。雪国の人たちは厳しい冬の生活を生き抜かなければならないが、暖かい地方の人たちは雪を美しいとかロマンチックだとか感じる。自然条件が厳しくなればなる程この溝は大きい。
11時になった。サッフロン・ウォルデンの近くを過ぎた頃からチャールズが昼食をどこでとるかイライラし始めた。
「時間は早いけど、お昼はどうしようか」
「いくらなんでも、まだ早いよ」
「でも、ケンブリジではいい店知らないしね」
チャールズはパブ専門なので、ケンブリッジでは気の利いた店を知らないらしい。時間が早いのでそのまま走り続けた。
ミネソタの遠い日々
1970年の夫婦子供連れでのミネソタ大学留学記へもどうぞ