チャールスの家 - 008 | 遠い夏に想いを

遠い夏に想いを

アメリカ留学、直後の72年の夏に3ヶ月間親子でパリに滞在。その後、思い出を求めて度々訪欧。

 お母さんが居間のソファーに座っていた。半分くらいに痩せ細って、まるで別人のようだ。あの頃は62歳だった。気丈夫で元気なお母さんだった。体つきも太っている方だったろうか。いま80歳。再会までには余りにも多くの歳月が流れ過ぎた。もう歳で記憶力が極端に衰えている。それでも私達を覚えていてくれた。遠い記憶を鮮明に思い出してくれた。昔と同じようにタバコを手で巻きながら、チャオについての記憶も次から次にと戻って来る。
「あの時はタバコの手巻きをよく手伝わされましたね」
彼女の手元を見ながら言った。そして私は1972年の時の写真をとりだした。
「フラワーバスケットがあったんだね」
お母さんが写真を指差しながらたどたどしくチャールズに言う。

ヴィオさんの旅行ブログ-チャールスの家
「どこに?」
「玄関の上よ」
 そこにはまだ元気だった頃のヒースロー夫妻と今は亡き隣家のスケルトン氏、ママと小さな息子にビーグル犬が小綺麗に手入れされた玄関の前で写っている。玄関の上には確かに美しい鉢植えの花束があった。更に、ローズ・ブッシュで撮った息子とビーグルの写真。タワーブリッジを背にロンドン塔でお母さんと一緒に撮った写真。
「昔のことはよく覚えているのに、今日起こったことは直ぐに忘れてしまうんだ。不思議だよね」
チャールズが感心したように言う。
そして昔話に花が咲き一つ一つ頷いてくれる。本当に来て良かった。


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