坂の下の角にある銀行を左へ曲り駅まで歩く。赤レンガ造りの駅は薄汚れてはいるが、1972年のままのたたずまいであった。チャールズのお母さんが駅の前の通りを横切る時、「速く道路を渡って!」と息子によく叫んでいたものだ。あの時のお母さんの声と息子の懸命に渡ってくる小さな姿が一緒になって蘇ってくる。
再び
クィーンズ・ロードを戻って、途中のキングズ・プレースで左折し、犬をつれてチャールズと散歩によく来た裏の森へ行ってみた。1972年に妻と息子の3人でチャールスの家に泊った時、朝夕、散歩に来た森である。Epping Forest (エッピングの森) の一部であるLords Bushes (ローズ・ブッシュ)と呼ばれる森の奥には小さな底無し池が有ったはずだ。今回は池までは行けなかったが、ヒイラギが至る所に生茂る森の様子は驚くほど変わっていなかった。イギリスの自然をあるがままに残す努力がよく分かる。「ひいらぎの森」といえば「ハリウッド」と洒落ているが、下手に迷い込んだらひいらぎの葉がチクチクと刺さって大変だ。犬が迷い込むと、痛そううにキャンキャンとわめいていた。帰りの道には犬の散歩の途中にチャールスと立寄ったプリンセスロードのパブ「The Three Colts Ale House」があり、少し薄汚れているがまだ健在であった。早朝で店が閉まっているのが残念だ。
チャールズの家の中の様子は1972年の時と余り変わっていなかった。変わったことといえば、居間の円い食卓が半分たたんで窓際に寄せてあることと、いつも暖炉の前の椅子に座っていた小柄でほっそりとしたお父さんの姿がないこと、後は少々整理整頓が悪く乱雑なくらいだろうか。昔、私達が寝泊りした2階の部屋はチャールズが仕事部屋に使っていた。息子のチャオがお母さんと一緒に入った1階台所の奥のお風呂も、ミントが沢山植わっていた裏庭もそのままで懐かしい。
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