『国家債務危機 ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?』 ジャックアタリ 作品社 を読んだ。
ちょうど1年位前に出た本。ギリシャが、破綻するかどうかの瀬戸際。EUが、その救済融資をするか否かで、全世界が注目している。日本も対岸の火事どころか、隣家の火事。延焼するかどうかの心配をしなくてはいけない。
ギリシャを火事にしているのは、ギリシアの国債だ。債務残高3000億ユーロ。日本円で30兆(3600億ユーロという説もあり)。大変な金額だが、もっと恐ろしいことに、日本には約1200兆円の債務残高がある。バブル崩壊後、税収の落ち込みを補填するため、また建設国債のような形で経済を活性化するために次々に発行。金利が雪だるまのように膨れ上がり、ヨーロッパにくすぶる火を見て、内には、莫大な量の火薬を抱えている状態なのだ。
そもそも、国債とは何か?
この本は、前半が、これまでの人類の国債の歴史。国債の発明と、国債に急き立てられるように、政治や戦争を繰り返し、翻弄されてきた歴史。後半は、公的債務の功罪、アタリ氏の祖国フランスの、そして世界の想定される最悪のシナリオ、そして、アタリ氏の人類史的な史観からの、未来への提言となっている。
冒頭、公的債務への解決策を8つ提示している。
①増税
②歳出削減
③経済成長
④低金利
⑤インフレ
⑥戦争
⑦外資導入
⑧デフォルト
⑥に戦争という言葉が普通に入っているのは、なんともショッキングだが、この本の前半には、公的債務と戦争の密接な関係がわかる。ある国が戦争をするためには、通常の税収以外の収入が必要となる。この戦費を、承認から借り、国債を発行することになる。これが歴史上、国債が誕生した原因だ。国債=戦時国債なのである。この返済は、戦争に勝った後の戦利品、賠償金、割譲地からの税収をもって支払われる。戦争はただではできない。国債あってこそ戦争ができる。戦争は国債の生まれた原因であり、戦争に勝つことが目的でもあるのだ。
そして、債務不履行(デフォルト)になれば、政権交代、革命にもなる。
世界史を見れば、啓蒙主義、自由主義、民主主義と自由と博愛の精神で、人類が進歩し、その時々には人々の血を必要としてきたという、それぞれの事件、革命は時代精神の表れであるかのようだが、実は、この国家債務から歴史を見れば、債務を返済するために四苦八苦した政治がその時々の歴史を動かしてきているといっても過言ではないのだ。
フランス革命
世界恐慌
ニューディール政策
ヒトラーの台頭
アメリカの第二次世界大戦参戦
ブレトンウッズ体制
歴史上の有名な事件の陰に国家債務あり。借金を返さんがために多くの血が流れ、多くの人が惨苦を味わってきたのだ。国家債務に苦しんでいない国はなく、人類に戦争が絶えない理由のひとつがこの国家債務問題といっていいだろう。(もちろん、ほかにもいろんな理由がありますが)
この本のここ200年間の過去のデフォルトの歴史一覧がある。ギリシャは、デフォルトの常連で、もう国民性かなというレベル、アメリカ、イギリス、イタリアを除いて、デフォルトしていない国は無いくらい。
今回のギリシャだが、まだ、財政再建プランを国内で承認を得ていない状態。EUは、半ば厭きれ気味だが、追加融資をしなくては、自国の金融機関が連鎖破綻してしまうため、しぶしぶながらも融資できる状態にはある。この経済低迷が続く中でも、がっぽがっぽ手数料収入を得ている金融機関のために、無い袖を一生懸命振ろうとしている現在の銀行は、まさしく現代社会の「鬼っ子」なのだ。
日本は1200兆円の累積債務を持っている。長期の低金利であることと、その95%以上を国内金融機関、個人が保有していることで破綻しないといっている。返済に甘い自国民という優良なお客さん(お人よしの国民)が債権者のためだ。この債権者の中にはまだ見ぬ未来の日本人もいる。福島原発の放射能のように未来への負の遺産である。しかし、少子高齢化、経済成長のかげり、人口減がいつ、この潮目を変えることになるかもしれない。
橋下徹氏の船中八策を見ると、プライマリーバランスの黒字化という項目がある。この項目は、むしろ船中八策の大目的であり、統治機構の再構築、教育、公務員スリム化、社会保障改革、経済、税制改革は、その細目といったところ、常に先進国を悩ましているのはこの公的債務問題なのだ。
アタリ氏は、また思想家、歴史学者一面もあり、示唆に富む内容がたくさんあり、ここに書きたいことは尽きないけど、このレビューで気になった人はぜひ読んでほしい。
公的債務問題を理解し、政治や経済、社会に対して、新しい視点を得るのは最良の書です。古本屋にも出回っています。ぜひ手にとって見てください。
