※ ネタバレあり、読んだこと無い人は注意!
『死神の精度』 伊坂幸太郎 文春文庫を読んだ。
伊坂作品は3冊目。『重力ピエロ』『ゴールデンスランバー』と”伏線の妙”に酔いしれる作品だった。伊坂幸太郎さんが、”伏線の妙”なんて評価を受けているはわからない。私が勝手に呼ばせてもらっているだけなのだが、登場人物の少し、気にかかる言葉、行動が物語のクライマックスで見事につながっていく。
パズルのピースが完成するたびに、頷いたり、感心したり、ほろっときたり、うまいもんだと思わせる作家さんなのだ。
『死神の精度』は6話の短編集。
主人公は死神「千葉」、8日後に死ぬ運命の人間の前に現れ、その人間が死ぬことについて、「可」あるいは、「見送り」を決定するため調査を行う。この千葉、ドイツの文豪の作品や、ロシアの無情なる小説に出てくるような死神ではなく、仕事には不熱心、人間が使う慣用句を言葉通り受け取り不振がられたり、言動が浮世離れしており(でも結構人間の本質を言い当てていたり)、そして何よりも8日間フルで調査する。(実はMUSICなるものを聞くために少しでも長く人間界にとどまるのが目的)そして、「千葉」が現れると、必ず雨が降る。彼は晴れた空を見たことが無い。短編集なので、伏線よりも、もうひとつの伊坂節、軽妙な会話とちょっとした謎解きを楽しむことにする。
それぞれの短編には、いろんな理由で、「死」を迎えようとしている人間が出てくる。ストーカー行為に悩まされ、人生をあきらめきった冴えないOL。いまどきはやらない義侠心が組どうしの抗争を生み、仲間に裏切られ死ぬ運命の時代遅れのやくざ。初めて本気で好きになった女性と、やっと恋が始まるというときに凶刃に倒れる青年。吹雪に閉ざされた別荘で起きる連続殺人のキーマンとなる女性。突発的に人を殺し、逃避行の末、北の果てで死ぬ運命の少年。そして、身の回りに多くの不幸が起きたにもかかわらず、70を越えた今も、海の見える見晴らしの良い高台の美容室で、小気味よくはさみを握る老女。
いずれも、「千葉」が、その人間がどういう状況にあるのか、どんな理由で死ぬのかを、時々かみ合わない会話で聞き出していく。どういうわけか、彼を派遣した死神中央情報
部は、詳細な状況説明をせずに現場に赴かせている。人間の仕事ぶりと一緒だ。
「千葉」は、”死”を重くは見ていない。いずれ人間は死ぬのだ。ということで、その”死”にたいして、「可」の判断を平然と下す。しかし、「死」を軽くも見ていない。他の同僚と違い、時間いっぱい、その人間に付き合って、その最後を見届ける。
”死”を推理小説の小道具がわりに使っているドラマや、少年マンガともちがい、時折考えさせられるものがあり、いま、「千葉」が目の前に現れたとき、自分はどんな会話をするのか、ちょっと空想してみたりもする。MEMENTO MORI!
最後の短編の、70過ぎの女性。どういうわけか、彼女は、彼が人間でないことを見抜いた。一瞬たじろいだ「千葉」だったが、彼女の身の上話を聞き、”死”についての考えを聞く。彼女は、すべてを達観しているのか、あっさり「千葉」の存在を受け入れ、さらに、奇妙な注文を言い出す。夜中に昔のCDを聞き、疲れて寝入った身を、死神にゆだねるくらい仲良くなる。
ただその奇妙な注文は、最後で謎が解けるのだが、いつのまにか、そのなぞよりも大きな伏線が、この短編を超えて存在しているのに気づく。く~!短編集と侮ってはいけない。やはり、伊坂節の真骨頂が!
やられた!まだ試していないかたは、ぜひお試しを。
