しばらく中断していた塩野七生さんの『ローマ人の物語』再開、25 『賢帝の世紀』(中) 新潮文庫を読みました。
世界史の教科書で、出て来る帝政ローマの五賢帝。その3番目に出てくるのがこの巻の主人公ハドリアヌス帝。
幼い頃に親を亡くし、若き先帝トライアヌスと後の近衛軍団長官アティアヌスの加護の元、2人の出世と共に順風満帆のエリートコースを進む。「至高の皇帝」と呼ばれたトライヤヌスの、パルティア(現在のイランイラク)遠征中の突然の死より、皇帝の位がまわってくる。トライヤヌスという偉大な皇帝の跡を継ぐには物足りなかったが、他に適任者は無く、経歴は申し分ないハドリアヌスをローマ人民は受け入れていく。実際、ハドリアヌスは有能で、何でも自分でやってみないときがすまないタイプの天才だった。三国志で言うと曹操、戦国時代だと信長タイプのような人のようだ。
治世21年のうち3分の2を帝国各地の巡行に費やす。北はイングランド。有名なハドリアヌスの長城を作る。ライン河、ドナウ河という北東方面の蛮族に対する2大防波堤の再整備。南は北アフリカに渡り、ここでも帝国の最前線で踏ん張る各軍団の強化を実施。東は再びきな臭くなったパルティアと見事和平にこぎつけ、小アジアから憧れのギリシアにも立ち寄る。そして行く先々で会堂や、街道、神殿、インフラ設備という公共工事を行っていく。なんでも自分で見て、自分で考えて、自分で解決しないときがすまない皇帝。帝国の隅々にまわりローマの繁栄を頂点に導いた。
のが、彼の業績。そのハドリアヌス帝が、ライン河沿いに構築した防護壁、リメスゲルマニクスの修理と再整備について著者、塩野さんが次のように言っている。「ローマ史に接していて、最も強く感じるのは彼らローマ人の一貫した持続性である」と。皇帝が変わってもアッピア街道が次のものに受け継がれて完成されていくことや、このリメスゲルマニクスもカエサル、ティベリウス、ハドリアヌスと修復され改修され、ローマの来たの防衛線を堅持することに驚嘆している。そして、ローマ皇帝最大の責務ローマ人の安全保障のために必要としたこの防衛線や街道を維持し、又、改める必要があるものは改めるという態度こそローマ人に備わった「真正の保守主義」であると。
「保守主義」という言葉は政治に使われる。日本の政治というか、自民党の政治はこれを標榜している。小泉構造改革で多少変わってはいるものの自民党の政治を保守と呼ぶ。諸外国からはアンフェアといわれようが産業界を保護しながら、経済的な豊かな国を作る戦後一貫した設計図が、保守であるならば、今はそれがぐちゃぐちゃになっている。ころころ変わる政権と、一貫性の無い政策。前政権批判をしたり、首相が以前の政策を否定したり、否定された小泉さんが、意趣返しのように現政策に反対したり、子供のけんかのようで、笑っちゃう。
そこへ行くとローマ人はぶれない。帝国の安全保障という最優先課題を実行するための施策は、改めながらも次世代のものに受け継がれていく。
今の自民は拠り所とする保守政治のあり方がわからなくなっているのだろう。いやなくなってしまっているの家も知れない。
ハドリアヌス帝は、まず自分の目で確かめるところから始めた。何を引き継ぎ、何を残し、何を改めるのかを決めた。日本の保守主義を標榜する人には是非本書を読んで、保守を再定義して欲しい。「チェンジ」がはやった去年、流行不易の不易部分が何か!今年はそういう議論をしてもいいかもしれない。
