『理由』 | 元広島ではたらく社長のblog

元広島ではたらく社長のblog

六本木ヒルズや、ITベンチャーのカッコイイ社長とはいきませんが、人生半ばにして、広島で起業し、がんばっている社長の日記。日々の仕事、プライベート、本、映画、世の中の出来事についての思いをつづります。そろそろ自分の人生とは何かを考え始めた人間の等身大の毎日。

前回に続き、『理由』 宮部みゆき 新潮文庫を読んだ。


広島ではたらく社長のblog-rituu

『火車』で、受賞していてもおかしくない直木賞をこの作品でとる。


バブルの残滓をかき集めた、超高層超高級マンションで、人が飛び降りる。その部屋には後3体の惨殺体。その部屋の住人と思われていた家族は、全く別のところで、発見。惨殺された一家は、ローンが支払いきれなくなったその家の主人と、知り合いの不動産会社社長が画策し住まわせた占有屋だったが、その一家はすべて他人同士。いったいどこの誰なのか?

エレベーターの防犯カメラに映った謎の人物と、警察への誤報。初動のまずさと、マスコミの先走った報道。住民の無責任な証言と、たくさんの家族、人間のかかわりが、事件の謎を深めていく。

事件からしばらくして、その膨大な関係者のインタビューを集めて事件の真相を探ると言う形式で書かれたこの小説。マスコミが書き立てるセンセーショナルで無責任な事件とは別に、それぞれの人間の過去、家族関係、苦悩が、語られ、その行為に至った「理由」が語られる。美恵や外聞を気にする夫婦。家族の温かみを知らない人間の懊悩。昭和の古い因習に縛られた女性。家族との不仲から失踪した人間。

マスコミが書く事件に関わった醜悪な人間像が、インタビューを経ると、ことごとく覆されていく。凶悪な殺人事件など、実は無かったのでは?あるのは様々な人間の事情と理由だけ。


TV・新聞・雑誌が映す事件と、事実は全く違う!という構図は、ちょうど1年前に出た伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』でもあった。『理由』が、過去を振り返ると言う形式だったのに対し、『ゴールデンスランバー』は、現在進行形で書かれる。

(つい最近の「厚生省事務次官経験者連続殺人事件」も、テロや、陰謀説、好き放題推理ゲームをしていたTVも意外な形で収束しようとしている。マスコミの何を信用したらいいのか、考えさせられる。)


小説の面白さは『ゴールデンスランバー』の勝ちだが、丹念に描かれる人間模様は宮部みゆきさんの独擅場。時代の最先端をいく超高層超高級マンションでありながら、事件の底流に『足寄せ婚』や女中奉公まがいの嫁取り等前近代的な因習も配置してあり、さすがのと思わせる。


前回の『火車』と『理由』はお勧め!と言うか自分が読むのが遅すぎたみたいだけど。