『ふぉん・しいほるとの娘』 | 元広島ではたらく社長のblog

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六本木ヒルズや、ITベンチャーのカッコイイ社長とはいきませんが、人生半ばにして、広島で起業し、がんばっている社長の日記。日々の仕事、プライベート、本、映画、世の中の出来事についての思いをつづります。そろそろ自分の人生とは何かを考え始めた人間の等身大の毎日。

ふぉん・しいほるとの娘』 吉村昭 新潮文庫 を読んだ。


ふぉん・しいほるとの娘

文庫で上下巻、1300ページ以上、5センチくらいの厚さ。時間がかかったけど、途中からは一気に読めた。

日本史で習ったシーボルト事件、それと、以前読んだ、おなじ吉村昭さんが書いた『間宮林蔵』に出てくるくらいの知識で読んだ。

タイトルは、シーボルトが、日本滞在中に遊女に生ませた娘イネのことで、イネが主人公の物語。しかし、遊女となり、シーボルトの愛妾となった母、お滝、娘お滝を遊女にしなくてはいけなかった祖父母から、イネの子供、ただ(タカ、高子)、その息子、娘までの5代に渡る物語。

教科書に載っている軍服を着たシーボルトの肖像画はつとに有名で、色男が、はずみで、国禁の日本地図を国外持ち出しをしてしまった、くらいに思っていた。

しかし、本当はドイツ人で、欧米列強がアジアに侵食するなか鎖国政策を採る未知の国日本の実情を調査しに来たスパイ。ただし、長崎の出島の中に居て、たった地図を持ち出すくらいどうってことないのではと思っていた。が、日本の国情を調査するその方法、視点、策略はすごいの一言。教科書だけでは、疑問しか残らないシーボルト事件を丹念に描くのはさすが吉村昭さん。そして、シーボルトの大胆な行動力、日本を丸ごとおのれに写し取ろうとする貪欲さ、構想力に脱帽。学者であれ、軍人であれ、立身出世、功名心に取り付かれた19世紀の男!の典型みたいな人物。


しいほると

このシーボルトが、長崎滞在中に生まれたのが娘、イネ。イネが2歳のときに事件はおき、シーボルトが日本退去になる。幕末の騒乱にはまだ少し時間があり、容貌、勉学好き、何よりシーボルトの娘と言うことが、彼女を医の道へと進めさせることになる。シーボルトの弟子、二宮敬作に師事するため宇和島に留学、次に産科医になるため同じ門弟、石井宗謙を訪ね岡山に留学。石井に手篭めにされ、娘ただを抱えて故郷に戻る。やがて幕末の混乱期になり、宇和島、長崎、大阪を行ったり来たり、事件当時と状況が変わり、国外追放の処分が取り消され再来日を果たした父シーボルトにも再会。産科医として、市井で妊婦の医療活動をしながら、明治を迎える。