ハヤカワ文庫『ブルー・へヴン』C・J・ボックスを読んだ。
舞台はアメリカ、アイダホ州北部の町。登場する町をグーグルで検索すると、カナダに近く、湖の畔に広がる自然は綺麗。林業と鉱業の古い町だが、近年、裕福な白人退職者が大勢住みついている。都会の犯罪と喧騒とは無縁のこの地を、特にロサンゼルス市警の退職者は”ブルーへヴン”と呼び、静かに余生を送っている。
この町に住む12歳のアニーと弟のウィリアムが、ある日森の中で殺人の現場を目撃する。犯人は過去の未解決の現金強奪事件の首謀者4人組で、ロス市警OB。地元保安官に捜査の協力を持ちかけ、先に幼い姉弟を始末しようとする。
ジョン・グリシャムの『依頼人』と似たような展開。『依頼人』の方は、マフィアの自殺現場を見、重大な秘密を知り、マフィアから命を狙われる少年。この少年の全財産、たった1ドルで、仕事を引き受けたのが、私生活にちょっと問題にある女弁護士。『ブルー・へヴン』のアニーとウィリアムが助けを求めたのは、迷い込んだ森の中の牧場の主、60歳を超えた老カウボーイ、ジェス・ロウリンズ。やがて、4人は、姉弟の居所を見つけ、老カウボーイは、幼い命を守るため、ウィンチェスター銃を手に取る・・・・・・・。
都会が舞台のサスペンス小説と違い、隔絶され、孤立無援の自然の中での決闘。インディアンに包囲された砦で、騎兵隊の救援を待ったり、大勢のならず者を相手にするジョン・ウェインの西部劇のようなテイストが、この21世紀の小説にはあり、帯のコピーにある「男が惚れる小説。」に偽りなし。
また、老カウボーイを助けるのは、執念で現金強奪事件を追いかける定年した刑事と、姉弟の母親、老牧場主とただならぬ関係があり、マネーロンダリングの事実を知る銀行家の2人。悪役のロス市警OBにもそれぞれの事情があり、銃社会アメリカが生み出す複雑な問題もにじみ出ている。
文庫の表紙が綺麗で、背景の山々が、映画『シェーン』のラストシーンのようでもあり、西部劇の面白みを知っている人には、またとない小説。
今後、ミステリーガイド本の上位に居続けること間違い無しの本。映画化もされるようで、著者のサイトでは、以下の投票結果だそうです。
1位 サム・エリオット
2位 トミー・リー・ジョーンズ
3位 ハリソン・フォードとロバート・デュバル(同率)
5位 クリント・イーストウッド
マフィアのイメージ強いけど、アル・パチーノなんてどうでしょう。
