先月起きた香川県での祖母と孫2人が殺害されると言う事件。
深夜の出来事。大量の血痕と、行方のわからない3人。少ない証拠。連日の捜査にもかかわらず、解決の見通しは立たない。祖母の借金、携帯の微量な電波、複数犯をうかがわせる話し声の証言と、わずかな手がかりが、出てくる。が、それにもましてわからない事件の動機。ニュースはミステリー仕立ての報道の仕方で、謎は深まるばかり。
そして、意外にも親戚の男が逮捕される。
いや、意外だったのは、親戚の男が逮捕されたことではなく、犯人が、祖母の息子、姉妹の父でなかったことだ。
ニュースでは、父親が犯人だとは、一言も言っていないけど、いつの間にか、ニュースを見ていると、頭を丸刈りにしていた父親が、犯人だと思っていた。
眼と鼻の先で起きたにもかかわらず事件に気がつかなかったこと。複数犯であることを強調する報道。報道陣にいらだつ父親の声を荒げる場面をそのままTVに流すことなど、秋田県で、実子を殺害した畠山鈴香被告の事件を思い出させ、父親が犯人に違いないと言う印象は、私だけでなく、日本中に与えていたに違いない。
が、その後共犯で逮捕と言うことも無く、時間が過ぎ、自分が誤った解釈をしていたのかなと思っていると・・・・。
・・・・今朝、年末のフジテレビの報道特番のなかで、”犯人にされた父親”として番組に登場していた。
やはり、父親が犯人では?という憶測で報道していたのだ。
この特番、有名事件のその後という内容で、反省の意味を込めて、父親を犯人として扱っていた取材陣の行動を振り返っていた。警察も、犯人として疑っていたようで、度重なる取調べをしており、取材陣も、父親=犯人説で、見込み取材をしていた経緯が紹介される。事件中は放送されなかった、父親と取材陣の言い争うVTRも紹介され、父親を犯罪者扱いしていたマスコミの酷さが、わかった。
父親は、最愛の親、娘を喪っただけでなく、マスコミからこんな酷い仕打ちを受けていたのかと思うと、ぞっとした。ニュースで流されることを真実と思っていた自分も情けない。番組の中では、中継で、父親がそのときの無念を語っていた。
報道等で、人権や名誉が傷つけられたとき、その報道内容を審査し、再発防止のために注意、勧告等をする機関があったはず。みのもんたの番組で、不二家が、不当に名誉毀損された問題をあつかっていたBPOと言う機関。香川の事件は対象外なのかもしれないが、父親の名誉回復を、年末の誰も見ないような時間帯の番組でやってもしょうがない。あるいは、充分悪いことをしたと知っていて、TV局、報道機関は、うやむやにするためBPOでは採り上げないのかも。もし採り上げていて、今、審査中だったらまだ望みはあるのだけれど・・・。
年末、ベストセラー作家、伊坂幸太郎さんの2年ぶりの新作、『ゴールデンスランバー』が出た。
来年の今頃は年間ベストテンに必ず登場しているであろう傑作。
日本版ケネディ暗殺事件とも言うべき、首相暗殺事件。犯人に仕立て上げられた人物の逃避行が、その内容。小説は、まず、その逃避行の三日間を、TVの報道で追いかける。正体不明の暗殺犯から、人物を特定し、過去の素行、状況証拠を積み上げ、完璧に犯人に仕立て上げていく。その一部始終を今度は主人公サイドから、もう一度事件発生から終結までの足取りを辿っていく。そこには報道内容とはまったく別の真実が描かれている。
様々なテーマが織り込まれているこの作品。その一つが、「報道されていることが真実とは限らない」ということ。
読書後は、ニュースで流れることがすべてうそに見えるくらい。うそは無くとも、うらがありそうと。今朝の特番を見て、さらに納得してしまった。名探偵コナンと言う、子供向けのアニメがあり、人が死ぬと言う状況そっちのけで、謎解きを楽しむ。NHKのニュースの冒頭でも、「・・・・深まる謎、この一家に何が起きたのか!」と、火曜サスペンス劇場のようなドラマ仕立てのナレーションで視聴者の興味を掻き立てようとする。最近はワイドショーのレポーター張りの大げさなレポートをするアナウンサーも居る。国民が、実際の事件にフィクションのような劇的なものを望んでいるとしても、報道する側として、脚色は不要なはず。久米宏のニュースステーション以来報道が変わってきたが、今やNHKまで、面白おかしく加工されたニュースを流してしまっている。
『ゴールデンスランバー』は、ビートルズの事実上の最後のアルバム、『アビーロード』の一曲。解散寸前のビートルズに、あの日、あの場所に帰ろう、と懐かしむ曲。昔がいいとは言わないけど、日本の報道も、あるべきところに帰らないとね。