介護保険の市場規模は、現在、約7兆円。2000年のスタート以来たった7年で一大産業が出来上がってしまった。
既存、新規の社会福祉法人、医療法人、民間企業の参入。シダックスや日清医療食品といった給食サービス、介護タクシー、専門学校、介護関連の資格学校・・・・様々な業態を生んだ。
これをビジネスチャンスと捉え、急成長したのが、グッドウィルグループのコムスンと、ニチイ学館。この2社は数年前から、色々問題が報道され、特に悪質と厚生労働省が判断したコムスンに関しては、今回厳しい行政処分を下した。
2011年まで、
① 新規の事業所の開設を認めないこと
② 一部の事業所の更新を認めないこと
このため、現在、全国の2081の事業所は、順次事業所の閉鎖に追い込まれ、2011年には426の事業所の閉鎖まで追い込まれることになる。
このうち来年4月の時点では、1424事業所に規模を縮小させられることになる。
このため、現在サービスを受けている6万人が、別の施設を探すことに、そして、2万4000人の従業員も別の働き場所を探すことになる。
自分が経営者だったらどう考えるか?
「営業譲渡」。今ある、経営資源、事業所、パソコン、ソフト、移動に使う自動車、そして人的資源や蓄積したノウハウを考えると、また、利用者が難民化しないためには・・・・・と考えると、日本各地のコムスンの閉鎖該当の事業所を、各地域の同業者に分割して「営業譲渡」していくのが、一番社会的な影響を少なくする方法ではないかと、思った。
そして、一昨日グッドウィルグループも同じような結論に達したようで、グループ会社の日本シルバーサービスに事業譲渡を決定した。
しかし、和歌山県知事の発言を筆頭に、処分逃れの大合唱、法的には問題ないものの、閣僚からマスコミまで一斉に非難を始めた。そして、夕方のニュースで、グッドウィルグループの会長折口さんが、謝罪記者会見を開き、「事業譲渡」を凍結すると発表した。(私がグッドウィルグループを率いていたら、同じく謝罪したことになる。)
折口さんの真意、この事業に対する思いがどこにあるのか知らないけど、単にコムスンに制裁を加えたいとする、論調には少し違和感を感じる。スーパーニュースの安藤キャスターは、介護や福祉は利益を求めてはいけないのに、といった考えで、折口氏を糾弾していたけど、介護が利益を出してはいけないというのも、おかしい気がする。
今、介護の現場では、極端な人手不足。医療保険とは違い、介護報酬は低く、従業員は低賃金の過酷な労働を強いられている。介護の専門学校を出て、高齢者福祉への高い理想に燃えている若い人も、結婚、子育てと将来を考えると、この仕事から離れざるを得ないという決断をする人も多い。医師や看護師の仕事に比べても、その困難さは引けをとらないが、賃金は非常に少ない。国は介護報酬を上げ、人員の確保を容易にするのではなく、フィリッピン等他国から安い労働力を当てにするという、逆の政策を考えているのが現状。
介護の事業所では、Aという資格を持つ人が●人、Bという資格を持つ人が▲人、という厳しい要員基準がある。利用者宅でホームヘルパーをしながら、文書仕事、監理監督の仕事もこなさなければならないと、現場は過酷な労働状況。コムスンが行っていた不正の背景には、経営層の営利主義もあるけど、今の介護制度が抱える厳しい現場の問題があると思う。
介護事業も、立派な事業。利用者に喜んでもらい、働く人も喜びが無くてはいけない。これを成立するには、「利」は絶対必要。「利」がなくては、いい施設も、サービスも提供できないし、従業員もいい生活が送れない。「利」を求めず、ボランティア精神で介護事業を続けて行っては、この産業は総崩れになる。
事業所の更新をさせないという、じわりじわりと、企業をつぶしてしまうような処分では、企業は戸惑う。「事業譲渡」という選択肢は、このような行政処分では、出てくる当たり前の判断。
制裁金として1億円。事業所の閉鎖はしないから、際のに設立したときの理念どおり、介護事業にまい進しなさい、その代わり不正が無いように、毎月、監査します。といった処分のほうが、企業は分かりやすい。
閣僚、知事、厚生労働省、今回の問題、あんまコムスンを責めてると、自分たちに跳ね返ってくるかもよ。
今回の問題、コムスンを締め上げるだけでなく、介護事業を根本的に考える機会に発展していけばいいのだけど。