塩野七生:『読者との集い』 | 元広島ではたらく社長のblog

元広島ではたらく社長のblog

六本木ヒルズや、ITベンチャーのカッコイイ社長とはいきませんが、人生半ばにして、広島で起業し、がんばっている社長の日記。日々の仕事、プライベート、本、映画、世の中の出来事についての思いをつづります。そろそろ自分の人生とは何かを考え始めた人間の等身大の毎日。

GW前、昨年、15年、毎年1冊づつ書いてきた『ローマ人の物語』全15冊を刊行し終えた塩野七生さんの、講演会が広島であると案内状が来ていた。

今日2時から市内の予備校のホールであったが、あの塩野さんが来るのに、予備校生には遠い世界らしく、覗きに来るようなことは無く、広島の街も、一目見たさに大混雑、するでもなく平穏な土曜日の午後だった。


会場には予想どおり、年配の男性が200人弱。女性はちらほら。


まずは、新潮社の担当さんが挨拶。冒頭10分くらい塩野さんが挨拶、後は全部質疑応答です、と説明。そういえば、講演のタイトルは、『読者との集い』、一般の告知は無かったようで、来た人は純粋に読者のよう、でも質疑応答がメインとは・・・。


そうこうしている内に、ご本人登場。


siono

水曜日に来日したばかりで、時差ぼけ調整の寝起きとは言うものの、すっと伸ばした姿勢、鋭い視線には緊張を感じた。15冊刊行後、このような各地を回る催しは広島で4つめ。15年続けてこられたのは、読者があってこそ、その御礼を兼ねての『読者との集い』ということ。講演会と題しても、いいたい事は書き尽くしたし、サイン会は、書店の思惑で読者に再度本を買わすには忍びないということで、なるべく対話できる形として、この質疑応答が出来る形を選んだそうです。

常々、本を書くことは作家と読者の共同作業、のようなことをおっしゃっていた塩野さん。15年前、書き始めるに当たって、一番心配したことは経済的なこと。新潮社が保証した初版3万部では、心もとなかったが、ふたを開けると、予想外に部数が伸び、数年後は仕事をこれ1本に集中することも出来た。読者あっての『ローマ人の物語』。ということで、今回の講演は、本当に純粋な『お礼参り』という気がした。

本を買うということは、筆者に良い仕事をさせるということなのですと。私も本はたくさん買うけど。作者にお礼を言われたのは生まれて初めて。あの大作『ローマ人の物語』を書き、私は作家よ!って威張らず、なおかつ、読者に向かって「ありがとう」という塩野さん、かっこよすぎます。


その後質疑応答に入った。


質問① 以前、塩野さんが「来世では専業主婦になりたい」と言っていたが、今でもそう思うか?


回答① 塩野さんは、特に何かなりたいものの話はしなかったが、女性が仕事を持つと言うこと、子どもを持たずに仕事をするクロワッサン症候群の頃の女性のこと、離婚はしたけど、結婚することの人生での意味のようなことを話された。


質問② 『ローマ人の物語』の英訳作業が進んでいるそうだが、欧米では受け入れられると思いますか?


回答② 欧米の出版社に持ち込んで喜ばれるのは、いかにも日本的な文学、純文学や村上春樹、最近ではホラー物。日本人の書いたローマの歴史なんて出版社は興味ない。しかし、今、現在、自費で英訳し出版する予定である。ホンダもオートバイを海外で売り込む場合、現物を見せて売り歩いたように。私も、自費出版し売り込んでいくと言う。

たとえ話として、イチロー、松井、松坂を上げた。野球と言えば、アメリカが本場。ローマ史も欧米の学者の独壇場。そこに、乗り込んで成功したイチローたちにあやかりたいと。また、全然本場でない日本から来て、「野球の概念を変えたイチロー」のように、ローマ史に、こういう見方があるのかと、既成のローマ史観にサプライズを巻き起こしたいようで、熱く話をされた。今までは実績を作った。本当の戦いはこれからだ!歴代皇帝の評価について逆の評価をしたり、「大帝」と評価の高い皇帝を、ただキリスト教を保護しただけの皇帝、と言ったり、キリスト教信者から排斥運動でも起これば本望と笑っておっしゃった。(ちなみに質問は私ともう一人)


質問③ 今の日本にぴったりの税制改革は?


回答③ 自分の血は半分商人。経済や金儲けは国家にとって、やはり大事。経済がしっかりしてこその国家。ローマの税制は広く浅く、シンプルで分かりやすい。税理士が要らない税制が理想。また、売り上げに対して課税でなく、経費を引いた利益に課税が現代の仕組み。このため、経費を計算するための仕組み、ルールが膨大になり、煩雑になっていると指摘。領収書と格闘している私には神々しい響きだった。


質問④ カエサルに匹敵する現代の政治家は?カエサルが部下にするなら現代政治家では、誰を選ぶか?


回答④ ブレア英首相、サルコジ仏大統領、ヒラリー候補、ロシアのプーチンの名前が挙がり、それぞれを評価。そして、最後にあわてて、日本の政治家についても言及。内容は秘密。


質問⑤ 現在の日本の若者に言いたいことは?


回答⑥ 今息子さんが映画の仕事をしているが正規社員ではないとのこと。ヨーロッパの若い人でも、正規社員になかなかなれない。安定しない世の中であるが、嘆かず、がんばって欲しいと言うようなことをおっしゃった。また以前中国の学生に、なぜ偉くなりたいのか?と聞くと、「金儲け」と即答。日本人の学生だったら、「自分が思うようなことをしてみたい」と優等生的な答えが返ってくるが、明らかに、中国のほうがエネルギーを感じる、とし、そのエネルギーや活力がないのが今の日本であるようなこともおっしゃっていた。


質問⑦ 次回作は?キリスト教史、オスマントルコはどうですか?


回答⑧ キリスト教もイスラムも、どうしてもやりたいテーマではないようで、『ローマ人の物語』の続きも、後進の誰かがやってくれるといいなあ、という感じだった。また、白内障を患ってらっしゃるらしく、健康診断を今度初めて受けようと思う、と話された。『ローマ人の物語』執筆中に、何か病気がみつかり、中断したり、休んだりするのが嫌だったからとの理由からだが、毎年1冊刊行されるのを楽しみにしている読者を裏切らないため、また、気が見つかって、気力、集中力を失うのが嫌だったと、壮絶な使命感を聞き、またしても、頭の下がる思いになった。


会場の読者は、北九州、岡山、高松からもやってこられていたみたいで、招待状が届いた一部の読者限定。外部に秘密と言われたわけではないけど、ブログに書くのは不適切だったかも知れません。しかし『ローマ人の物語』は、現代日本人に、もっともっと読んで欲しいので、このブログ読んでくださった方で、まだ読んでいない方、書店で是非手にとって見てください


そして、欧米のローマ史専門家へ、塩野ローマ史がどこまで衝撃を与えるか!さあ、賽は投げられた!