17 『悪名名高き皇帝たち (1)』 その2 | 元広島ではたらく社長のblog

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六本木ヒルズや、ITベンチャーのカッコイイ社長とはいきませんが、人生半ばにして、広島で起業し、がんばっている社長の日記。日々の仕事、プライベート、本、映画、世の中の出来事についての思いをつづります。そろそろ自分の人生とは何かを考え始めた人間の等身大の毎日。

ローマ帝国 2代皇帝 ティベリウスの話


ローマに帝政を敷くという、大業をなしたアウグストゥス。しかし、大改革のあとには、揺り返しが必ずある。政治でも、会社でも。このアウグストゥスの偉業を磐石のものにしたのが、2代皇帝ティベリウス。後世の歴史家は、同時代人タキトゥスが、書き記した『年代記』という記録を元に、『悪帝』というレッテルを貼ったのだが、塩野さんは、かなり評価している。また近年は、この2代皇帝ティベリウスの評価は高まっている。


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神君アウグストゥスは、バランス感覚の取れた優れた政治家。人類史上、最高の政治家であるが、自分の跡継ぎには恵まれなかった。孫であるルキウス・カエサル、ガイウス・カエサルを養子にし跡継ぎにするつもりだったが、相次いで夭折。実直で、軍隊経験も豊富、政治的手腕もある娘婿(元妻の連れ子)以外に選択肢が無くなったが、ティベリウスを後継にした。しかし、同時に姉の子どもゲルマニクスを、ティベリウスの養子に迎えさせているので、ティベリウスは中継ぎだよ、という位置づけだった。


一方ティベリウスは、年齢55歳。アウグストゥス死亡時には、カプリ島で半分隠遁生活。偉大なる先代社長から、「私と血のつながりのある姉の子が、大きくなるまで、この会社を頼むよ」と明確に言われたわけではないが、とりあえず、皇帝を継ぐことにした。


しかし、この2代目ティベリウス社長。めちゃくちゃ有能だった。会社経営にたとえると・・

ゲルマン民族、イングランドとの軍事問題。→会社の勢力圏の拡大。

パルティアとの外交問題。→ライバル企業とのアライアンス。

軍の反乱鎮圧。→待遇改善が激化した労働運動の沈静化

緊縮財政。→コストダウン。不採算部門の整理

ティベリウス門下の総督、軍団長、官僚のすぐれた帝国運営。→優れた人事政策。社員の育成、適材適所の配置。


特に、人材の発掘と、配置は優れており、歴史家がティベリウス・スクール(ティベリウス門下)と呼ぶ人たちは、ティベリウス、先代のアウグストゥス、さらには英雄カエサルの帝政とは何たるかという薫陶をしっかり受け、ローマ帝政を磐石にしていく。


と、優れた手腕を発掘したが、ローマの市民や元老院には人気が無い。能力の高さはあるのだけど、これまで度々市民に送られたボーナスである賜金は、出さない。体育競技会は、開催しない。人気取り政策は一切しないため、国民の受けは悪い。ゲルマニクスが成長するまで中継ぎなんだから、誰になんと思われてもかまわない。しかも、能書きばかりの元老院、自分の責務を果たそうとしない議員連中には、ほとほと愛想が尽きているティベリウス。「社長やっててもちっとも面白くない」と愚痴が2000年のときを超えて聞こえてきそうである。


さらに、ゲルマニクスが33歳で死に、数年後には実子ドゥルーススが死に、ゲルマニクスの妻アグリッピーナが、次期皇帝にネロ・カエサル(5代皇帝ネロとは別人)にしようと策動するに当たって、とうとう皇帝に嫌気がさしてしまった。再びカプリ島に隠遁し、後は、お前たちしっかりしろと、自分はのんびりした生活に入った。しかし、この人の有能さは、ローマから2日の行程ではあるものの、離れた場所から万端滞りなく、政務をこなす。競技場の崩落事故、ローマの大火に迅速な後処理を実施する。地震や大事故が起きてあたふたする現代の首相官邸と大違いである。


その後、アグリッピーナと、ネロ・カエサルのクーデター未遂事件、その弟、ドゥルース・スカエサル(似たような名前がたくさん出てくるけど別人)の国家反逆罪の処理、その3人を告発したセイアヌス自身の断罪と、後世では恐怖政治と言われる政治を経て、気がつけば23年に及ぶ統治。最晩年には、現代の不良債権処理のような、金融政策を発動し、金融業者を救済し、金融危機を脱した。そして、77歳、老衰での死。ショートリリーフのつもりが、ロングリリーフ。最後まで巧みな政治手腕で、帝国の繁栄をゆるぎないものにした。


政治も会社組織も創業者の意を受けて、あるいは受けるまもなく継いだ人間であっても、あるいは、後継の誰かが、跡を継ぐまでの、”つなぎ”の任命であっても、2代目とは、こういう生き方、という好例が、ティベリウス。人気なんかなくて良い、創業者がやってきたことをしっかり根付かせ、次の世代に、早々にバトンタッチをして、自分たちのDNAが、連綿とつながっていくことを内外に知らしめる、そういった役割が2代目には重要。そして何よりも能力と実績が居るのだが。ティベリウスは、そのバトンタッチが、うまく行かないのと、生来の不器用さ、無愛想さ(私の勝手な想像)が、後世の悪評を読んだのかもしれない。

現代の人に、たとえると、楽天の野村監督かな。


来週5月12日、広島で塩野さんの講演がある。楽しみ!