結社【原始林】その一
月光は祈りのようだ何事も終わらぬままに師走近づく 川村悦子
養蚕の成功祈る皇后の筆にガラスの小宝光れり 原田哲男
茹でたての黄身を裏ごしミモザとしサラダの皿に春咲かせをり 岡本優子
外来の患者を見下ろす吹抜けに浮遊してゐる娑婆の片鱗 佐藤美幸
ああ風は神の嗚咽だウクライナに何もできない神の嗚咽だ 井原茂明
戦争をするヒト、椅子より落ちるヒト、土に生きる蟻、いろいろゐるなあ 村田俊秋
雫のやうなピアノの音が響くのみ画面は坂本龍一の背 大朝暁子
さよなかの窓打つ風は亡夫ならん吹雪くガラス戸開けて風吸う 大熊桂子
人のやさしさ身にしむる夜水ほそく流してしばらく眼鏡を洗ふ 台野登代子
北庭にソメノヨシノの玉と咲く日には真青のそらにてあれよ 宮川桂子