函館抒情  日置正博

 

外は雪花瓶に咲いたさくら枝ひと足早い春はほのかに

 

眼下には満開誇るさくら花浮き立つごとし五稜の星は

 

臥牛山すそ野歩めばきらきらと木立の中を光が遊ぶ

 

浜風に一羽のゴメがホバリング思わずカイトを引くリアクション

 

間近にて輝きいたる漁火も今はまばらに沖に灯れり

 

 

 

カメオと湖  樋口智子

 

窓を開ける 誰かの夜とつながって水飴みたい 窓をあけてねむる

 

うす闇は家のどこかに隠されて 否、そこかしこにあるゆえに 家

 

誰も誰も訪うことできぬ湖の深みの街に沈めたき鍵

 

託されたカメオのブローチ陽に透かす うすくてもろくて、そのあたたかさ

 

針葉樹の実それのみだつた昼の星 気後れしないでわたしもれぷりか

 

金物店の奥の暗がり鈍食の釘の角先向き向きに照る

 

 

 

 

 

 

有り体  阪東睦子

 

あと少しやりたいことや見たいこと知りたいことを掴みてみたい

 

Z世代成人となる初孫の記念写真に憂へる未来

 

言葉とは摩訶不思議なる媒体よ翻弄されつつ生かされてをり

 

春あらし唸りをあげて吹き荒ぶ昨日は夏日けふの気温差

 

「ただいま」とわが産みし子が子を育て揃ひて歩む祭り三昧

 

 

 

ことづてならば  柊 明日香

 

水仙も山吹も咲くわが庭にトラ猫一匹訪ねくるなり

 

四十雀のさえずり耳にここちよく編み棒の先にリズムの生まる

 

「くうねる」と名付けて九年のわが猫はねだる仕種に磨きをかける

 

通販の花のカタログ取り寄せて陽の射す部屋に開きていたり

 

雪の上に家並の陰を濃くしつつ三月の陽の移ろいてゆく

 

 

 

 

 

 

 

墓石に語る  原 馨子

 

白鳥の雪の便りを告げる声頭上を低く群れて飛びゆく

 

ひらひらと吾にふりくる桜はな散りゆく姿に陽の和らかく

 

幼子の身をのけぞりて眠りゐるばあばの背なに薄笑み満ちて

 

日盛りに草取りながら独り言「お盆が来るね」と墓石に語り

 

ルピナスで空地一面飾る夢思ひ半ばの夫は逝きたり

 

 

 

豊平川  原田哲男

 

豊平川雪解け水の音立てて濁りわづかに薄らぎきたり

 

コーヒーをサイフォンに入れる店なるが張り紙一枚店を閉ぢたり

 

良しとするも再度書かむと紙に向かふ筆をあらため息を納めて

 

洗濯と米のとぎ方教へくるる妻なりまさかの日のためと言ひ

 

雑な字は雑な思ひより発するぞ残りの生を丁寧に生く