風の声明 五百川紘子(潮)
秋ですね 穂芒われを呼び止むる山路に鎮もる風の声明
かの世にも秋の来てゐむ呼応する桜ももぢり光(かげ)の一瞬
飽和してゐる悲しみを放たむかシャボン玉吹いてわたしが飛んで
波が波追ふを見てをり捉われてわたしは海の藻 夜を眠らず
潮溜まりの鷗とわれを灼く落暉寂しさ分かつに今は声なく
おんおんと霧湧く峠二つ越ゆ 怨嗟のごとき町明かりあり
苦きビール飲み干し語らむあれからを序章にはつか風の動けり
逝きて星になるとふあなたの明るさは届かぬ夜の底ひ虫鳴く
山頭火 過り行きたる幻想の窓辺の秋はほとほと寂し
秋昏をまとふ画布(カンバス)の片隅に私がゐます膝を抱へて