後期高齢者安楽法 1 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい







                    
 「 そろそろ ワシも 頃合いだと 思う 、、、 」

   老人は 呟いた

   私は 壁に掛けられた写真を見ている

   中年の 女性が 写っている


 「 もう友達も みな 先に 逝ってしまった

   妻は 遙か昔に 亡くした

   ワシら 夫婦には 子供はいなかったのだが 

   君くらいの 歳の 孫がいても いい年だ 」


   私は あいまいに 相づちを打つ


 「 苦痛は ありません 

   薬剤と脳波コントロールマシンにより            

   天国に昇るイメージの

   開放感と 安らぎに 包まれて

   呼吸停止 心停止 脳機能停止になります 」


 「 なるほど そうなのか 

   苦しくないのは 助かる 

   長年 持病に苦しめられてきた

   保険制度も 破綻してからは

   病院にも 通えなくなった  」


 「 勿論 異議を申し立てる

   権利も あります 」


 「 いや 、、 けっこうだ

   もう 十分 生きた

   早く 妻の元へ 行きたい 」


   よほどの 有力者との 『 コネ 』 が無ければ 

   一般民間人の異議申立てが 認められる事はない

   まぁ 権力者に近い者 大金持ちなどは別だが




   20XX年 この国は 65歳以上の高齢者に

   安楽死を認める 法案を成立させた

         
   国内産業の空洞化 長く続く少子化

   何十年にも渡る 財政不均衡 税収不足

   しかし軍事費は 他国に歩調を合わせるように

   年々 増加していった

   生活保護法は 撤廃され 

   TPP参加により 国民皆保険制度も廃止された

   すべて 『 自己責任 』 の麗しい言葉のもとに 

   セーフティネットは無くなった





   国民年金 厚生年金は ほぼ破綻してしまっていた

   積立金は 取り崩され続け 

   天下り役人の投資会社の 株式運用の失敗の連続

   天文学的な 巨額の損失が発生し 

   税収不足との理由で 毎年のように切り下げられ

   もはや 子供の小遣いと言われるほどだった


   しかし 公務員共済年金だけは別だ

   役人は手抜かりが無い 上手くすり抜けた

   一時期 厚生年金 国民年金と統合されたが

   いつの間にか また分離されていて

   国民年金や厚生年金のような危険な運用はしなかった

   自分の身分だけに汲々として

   官僚の反抗を恐れる 腑抜けの国会議員に

   公務員改革 年金一元化など

   もともと出来るはずもなかった 

   国民の大多数が 貧困層に転落したのを

   まるで 嘲笑うかのように

   相対的に 実質的に 年金額は増加し 

   彼らの可処分所得は増加し 特権階級化した 


   そして いつの間にか 公務員試験の条件に

   一親等の親族が公務員という 条件が付帯され

   正規公務員は 事実上 世襲制になった 


   被選挙権も同様だ

   三等親以内に 議員経験者がいなければ
           
   立候補が できなくなった

   ほとんどが二世三世の政治家にも

   子どもを公務員にしたい既得権益者の役人にも

   都合が良いからだ 

   権力は身内で移譲するに限ると考えたのだ

   社会制度は 時代を逆行し封建時代のようになった

   一般国民は パスポートも制限された
   
   相当額の金銭財産を 国に供託できないかぎり

   観光目的では 出国を許されなくなった 

   ビジネスの場合 企業の保証と連帯保証人と 

   やはり高額の 供託金が必要になる
 
   もちろん 国籍離脱も許されない 
     

   経済団体は なりふり構わない献金やロビー活動により

   法人税を タックスヘブンの国並みに減税させていた

   国内に企業を誘致するという名目だったが

   それは さらなる国家間での

   減税競争を 行なわせることになった
  
   反目し合う国家間で 税制の調整はつかず

   もう法人税は 国の税収のあてにできなくなった

           

   脆弱な国土に度重なる 巨大災害が発生した           

   しかし 充分な工事費は手当できず

   なおかつ 談合 入札不正した業者に中抜きされ 

   手抜き工事され 災害対策は不十分なままだった

   既得権益者による圧力で 見切り再稼働された発電所は 

   不十分な安全対策で 予期されていながら

  『 想定外 』 という事故が多発して

   広範囲に人の住めない地域が増えた




         続 く