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ネズミが しゃべり初めているにも関わらず、
すでに アリスの頭の中ではネズミについての
勝手な妄想が 渦巻いていました。
とかく少女は 妄想や他人の悲劇話が
三度の サンドウィッチの食事と匹敵するほど好きなのです。
脳内妄想は こんなふうになりました。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
家の中で 出くわした犬と猫が ネズミに言うことにゃ、
「 これから裁判しよう、お前を訴追してやる。
さぁ来い ! 嫌とは言わせんぞ !
住居不法侵入だ ! 食料の窃盗だ !
壁をかじったから器物損壊だ ! とりあえず裁判だ。:
だって 今朝からオレたちは ヒマ
何もすることないんだからな 」
ネズミが 犬と猫に答えて言うには、
「 陪審員も判事もいない、
そんな裁判なぞありえない、せめて弁護士を呼んでくれ ! 」
「 オレたちが 検察で 判事で 陪審員だ 文句あるか 」
と 犬と猫。
「 これは 非合法の 裁判だ 」
「 オレたちが 全容疑を裁く、貴様に死刑を宣告してくれる。」
「 それは 不当な違法裁判で 私刑の 死刑宣告だ ~
オイラ 金がないから 国選弁護士を呼べ ~! 」
「 片腹痛いわ 犯罪人が権利の主張とは、
即時 処刑でもいいんだぞ ! 」
「 それじゃ まるで どっかの三代目
トッチャンぼうや北の将軍様
みたいじゃないかぁぁああ ~! 」
「 それなら 保釈金 1億ポンド出せ ! 」
「 お前ら どっかの テロリストかよ ! 」
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「 おい 嬢ちゃん ! ちゃんと聞いてないな ! 」
とネズミは、きびしい調子でアリスに言いました。
「 あら ごめんなさい 」
とアリスは言いました。
「 せっかく 悲しい身の上を話してるのに ! 」
「 たしか、高等裁判所の判決あたりまで いきましたっけ ? 」
「 何を 聞いていた ! そんなことは 言ってないぞ 」
とネズミは怒り声で言いました。
「 ふざけた事ばかり言って オイラをバカにしてる ! 」
とネズミは立ちあがって その場を離れ歩きだしました。
「 そんな つもりじゃないのよ ! 」
と アリス。
「 オイラの家は もともと
イタリア人みたいに 大家族だったんだ、
だけど 今は天涯孤独なんだ なんでか分かるか ! 」
「 バブル崩壊で 事業経営が傾き 低空飛行、
リーマン・ショックで 青息吐息で
消費税増税で トドメを刺され、
経営破綻して 夜逃げした挙句 一家離散したの ? 」
「 ざっけんな ! おれ以外の家族が
猫や 犬や 猛禽類に 連れ去られたんだ !
後のことは 言わなくても分かるな ? 」
「 でも、ネズミさん あたしに
そんなに怒らなくても いいんじゃない ?
怒りの矛先が違うような気がするわ、
拉致する連中が悪いのよ、
だって あたしたち 拉致事件には
わぁわぁぶぅぶぅ言うだけで 手も足も出ないんだものぉ~。
だからもっと 理性的になりましょう、
そうよ 司法の手に委ねましょうね。
短気は損気よ 心拍数が早すぎるんじゃない ?
ネズミさんの短い寿命が もっと短くなるわよ うふふ ♪ 」
< ギシ ギシ ギリ ギリ ! >
ネズミは 歯ぎしりしました。
「 お前らは いつも高みの見物なんだ、
非難するだけだ ! 当事者じゃないからな、
勝手な議論ばかりで 役に立たない烏合の衆だ ! 」
「 ねぇ 戻ってきて、お話を最後まで聞かせて、
中途半端で尻切れトンボはいけないわ、
ドラマチックな盛り上がりや
どんでん返しや、あっと驚く結末を
みんな 楽しみにしてるのにぃ ~ 」
アリスが ハードルをあげるような事を言うと、
他のみんなも声を上げました。
「 うん、たのむよ ! 」 「 そうだ そうだ 」
「 これから うんと面白くなるんだろう ? 」
「 まだ話は お前さんの生まれる前の
父親ネズミと母親ネズミの ロマンスの途中だぞ 」
でも、ネズミは首を振るだけで、
足早に 去ってしまいました。
ネズミが完全に見えなくなると インコが悪態をつきました。
「 これから面白くなりそうだったのに
話の半ばで帰っていっちゃった、
誰かさんが 真剣に聞かないからだ ! 」
「 話を せがんでおきながら 上の空なんて
なんて いいかげんな 嬢ちゃんなんだ ! 」
お婆さんガニが 孫カニに言いました。
「 あなた 人の話を ちゃんと聞かなくてはいけませんよ
上の空で 適当な返事をしてして
話す方の好意を ないがしろにするような事しちゃだめよ、
誠実さが大切なのよ、カニ脳みそに刻みなさい、わかりましたね 」
孫カニが、答えます。
「 そうね なにかと人間は傲慢だわ、諍いばかりして,
他者の権利を暴力で蹂躙したり 体面を毀損したりするのよ。
あの女の子の 態度を見れば分かるわ。
おまけに わたしたちを茹でて食用にするし、
怖くて恐怖で 泡吹いちゃうわ あわあわ ! 」
「 ちぇ~ ダイナが いたらいいのになぁ 」
と アリスは顔を醜く歪め 憎々しげに言いました。
「 そしたら すぐにネズミさんを咥えて連れてきてくれるのに、
ここの みんなも ひと睨みで恐怖に凍りつかせて
簡単に黙らせることが 出来るでしょうね、
ふふふ ふふふ ふふふ ♪ 」
「 その ダイナとは 誰ですかな ? 」
と インコ。
アリスは 嬉しげに答えました。
「 ダイナは うちの猫なの、
それで、ネズミ捕りは名人級なの、
電 光 石 火 !
するどいツメで グサッ、ザクリとね、
小鳥だって一瞬で捕らえ パクっと食べちゃうんです ! 」
「 うぉおお ~ 」 「 ひゃぁぁ ~ 」
一同は 総毛立ちました。
あわてて 逃げる鳥もいます。
老カササギは、身繕いをして言いました。
「 そろそろ 帰宅せねばなりませんわい、
夜風が きついもんでして
寄る年波には勝てませんなぁ ごほごほ 」
カナリアが 子どもたちを 呼びました。
「 みんな、帰るわよ もう ベッドの時間ですよ ! 」
なんだかんだと、みんな足早に去ってしまい、
アリス 一人だけが残されてしまいました。
「 みんな 勝手に湧いて出て 勝手に帰ってしまったわ、
だいたい どっから来て どこに帰るのよ ?
とりとめのない話だけで 何も結論が出ないなんて、
ちゃんと オチをつけてほしいものだわ、
一体どうなってんの ? わけ分かんない ! 」
アリスは また一人ぼっちで寂しく哀しくなりました。
「 ダイナのこと、言わなきゃよかったのかな ?
変よねぇ 誰もダイナを好かないみたい。
ネズミも 鳥も 簡単に仕留めてしまう、
ミッキー・ローク顔負けの 必殺の猫パンチの使い手で、
あたしの自慢の 良い猫なのにぃ ~ 」
< ピタ ピタ >
遠くから小さな足音が聞こえてきました。
アリスは 顔をあげました。
ネズミの気が変わって 最後まで話をしようと
戻ってきたのかな、と 思ったのです。
続 く