、
< ピタピタ >
遠くの方から 小さな足音が聞こえてきました。
アリスは顔を上げました。
ネズミの気が変わって、話の続きをしようと
戻ってきたのかな、と 思ったのです。
「 ありゃ ! 」
ネズミではありませんでした。
例の あの白ウサギが 戻って来たのです。
あたりを見まわしています、何か探しているようです。
「 公爵夫人が、公爵夫人がぁあ !
かわいい 前足 ! 毛皮やら ヒゲやら !
フェレットが フェレットであるくらい 確実に、
処刑されちゃうよぉおお ~ !
どこで 落としたのかなあ ? 」
アリスは ウサギが探しているのは
扇子と 白い子ヤギ皮の手袋だと気づきました、
「 扇子は捨てたけど、手袋は はめているから、
返さなくちゃ、っと
あれぇ ? ないわ !
泳いだからなのか 脱げて失くしちゃったわ 」
涙の洪水で 何もかも どこかに流されたようで、
長い廊下も、ガラスのテーブルや
きれいな花壇や噴水がある庭に通じる小さな扉も、
まるで芝居の場面転換のため
舞台装置の書割を撤去してしまったように
すべて消えていました。
「 なんじゃ そりゃ ! どういうことなの !
今まで あたし 散々苦労してきたのにぃ~、
ほんとに それでいいのかぁぁああ ~ ? 」
ウサギがアリスに気がついて 怒った声で呼びかけました。
「 おぃ ! メリーアン、
お前は、こんなとこで何してるんだ !?
今すぐに家に帰って、手袋と扇子を持ってこ~い ! 」
アリスは 怒鳴られたのでので、思わずウサギの指さす方に
「 メリーアンじゃないもん 人違いだってばぁぁ ~ 」
と言いながら走りだしました。
「 きっとメイドさんと 間違えたのね
あたしが ウサギの個体を判別しにくいように、
ウサギも 人間の個体を判別しにくいんだわ きっと 」
と アリスは考えました。
「 でも 成り行き上 扇子と手袋をとってこないとね、
もともと あたしにも責任の一端があるのよね、
でも見つけられるかしら ? 」
アリスは 小さい家の前にやって来ました。
その家には 「 白ウサギ 」 と表札がかかっていました。
ノックしましたが、反応がないで家の中に入りました
一回は居間なのでした、手袋と扇子はありません
見まわすと階段がありました、アリスは二階への階段を急ぎました。
「 とりあえず 扇子と手袋を探さなくちゃ
でも 変なのぉ、あたしがウサギのメイドの代わりをしてるなんて
メイド風の服を着ているせいもあるのかしら ?
あたし キュ~トでキャワユイから
ジャポ~ンのアキバのメイド・カフェでバイトできるかもね、
オタクどもに大受けするかも、うふうふうふふふ ♪ 」
と アリスは つぶやきました。
とかく女の子は 自己認識が甘く 自惚れが強く、
妄想が眼を曇らせ 現実が見えないことが ままあるのです。
「 つぎは ダイナに お使いさせられることもあるかもね 」
アリスは 妄像をはじめました。
「『 アリス ! 私は 午後のお散歩に行くから
ネズミが キッチンでイタズラしないように
よ~く 見張っておきなさい いいわね ! 』
『 はい 分かりました ダイナ様 行ってらっしゃ~い 』
でも、ダイナが そんなふうに 人を あごで使いだしたら、
『 この 無駄飯食いの 横柄で尊大な 役立たずの猫め ! 』 といわれ
きっと お家を追い出されちゃうわね うふふ ♪ 」
二階の部屋に たどりつきました。窓ぎわにテーブルがあり、
扇子と子ヤギ皮の手袋が置いてありました。
扇子に手袋を持ち上げ、部屋を出ようとしたとき、
鏡の近くにあった 小瓶が目にとまりました。
こんどは 「 飲んで 」 とは書いてなかったのですが、
勝手に断りなく コルクのキャップをとって飲もうとしました。
「 毎回、何か 食べたり 飲んだりすると、
不思議な事が起きるのよねぇ うふふ ♪ 」
それがトラブルを引き起こすのですが、
学習能力に欠け 懲りないアリスでした。
「 だから、小瓶の中身を飲むとどうなるか、
ためしてみようっと、また巨大化するかしら ?
こんなミニサイズでいるのは、もう あきちゃったわ 」
< ゴ ク リ >
続 く