(つづき)

 

「長期的判断の必要性」によって、不可触おじさんへの対応が管理職レベルでは出来ず、人事レベル、あるいは経営レベルで行わなければならない、とはどういう事でしょうか。

 

管理職レベルで行える、「不慣れな仕事を割り振られるのを拒否する」不可触おじさんへの対応は、仕事を割り振らず、低評価を付け、人事に申し送りをする程度に限られます。

 

仮に、人事的な戦略も無く、業務命令を聞かないかどで戒告等の処分を下した場合、後々裁判になった際に「与えられた業務がたまたま不得意だった可能性もあるのに、それだけで処分を行うのは、能力特性の配慮を欠く不当な行為である」という司法判断がなされ、敗訴するリスクがかなり高いです。

 

一時的な能力不足ではなく、一貫した業務拒否の態度がある。どこの職場でも、どの上司の下でもそういった態度である。ということを示すには、管理職レベルの対応では足りず、やはり人事による一貫的かつ長期的な観察と教育が必要となります。

 

 

 

また、例えば「紙ベースでの書類仕事はするけど表計算ソフトが絡む仕事は一切拒否する」といった態度に対して処分を行うのも、司法の場で「紙ベースでの業務は出来ているのだから、別の業務が出来ないという理由で処分を下すのは不当である」と言った判断がなされ、敗訴するリスクが高いです。

 

この場合も、業務として表計算ソフトの使い方の教育を十分な時間と金を割いて行い、それでも業務を拒否する場合に初めて処分が行なえます。これも管理職レベルでの対応は難しく、人事を絡めた戦略的対応が必要になります。そして人事の判断を方向づけるには、必ず経営的判断が必要になってきます。

 

それゆえ、「経営者層が不可触おじさんの存在を認識し、毅然と対応しないと、不可触おじさんは消えません。経営者層の認識を変えるか人間を替えるか、それもダメなら勤め先を換えましょう。」という結論が示されます。

 

 


以上のように、不可触おじさんに戒告や譴責といった小さな処分を重ね、最終的に降格や退職へ持っていくには、人事や経営者層による根気強く長期的な戦略が必要になります。

 

そして、それは一見、時間的にも金銭的にもコストが大きく、楽しくもない仕事なので、大抵の人事や経営者は現状維持を選びたがるかと思います。

 

しかし、職場に不可触おじさんがいるという事実の持つリスクは、一部の若者を超過労働に追いやるだけではありません。不可触おじさんに良い給料をあげている会社に対して慢性的な不信感が持たれる事になり、会社を信頼していない人材が時間をかけて上層部を占めてゆけば、それは必ず経営問題のリスクになります。だからこそ経営者は不可触おじさん問題に真摯に向き合う必要があるのです。

 

 

 

近年、大企業の不正のニュースが世間を賑わせていますが、それらの多くは「会社で役得を貪れる立場に上がるために、不正経理や人権無視などの不正を働く」「見つけた不正を暴こうとすれば、偉い立場になっている原因者によって会社を追い落とされる」という、会社に対する不信感の相乗効果によって不正が雪だるま式に大きくなったものだと推察されます。

 

もし、今あなたの務めている会社の中に会社への不信感が漂っているなら、そこには会社の規模によらず、小さくない不正によるリスクが有ると考えたほうが良いでしょう。

 

それが、自分が不正の被害者になるリスクなのか、自分が不正を作り、あるいは隠蔽に加担するリスクなのか、はたまた不正が暴露した際に単なる社員だった自分へのリスクなのかは分かりません。しかしいずれにせよ、何かに巻き込まれうるという考えは持ち続け、常に転職に備えた人脈なり技能なり実績なりを持っていたほうが良いでしょう。

 

(おわり)