「坊っちゃん。お食事のご用意ができました。」

斎藤は麻琴達がいた応接室に入ってくると誠人に告げた。

ちょうど麻琴の髪を乾かし終えた誠人はドライヤーをテーブルの上に置いて言った。

「わかった。川本も食べて行くだろ?」

「ご飯までご馳走になるなんて悪いよ!!それに家で弟達が待ってるし…」

麻琴は慌てて断った。

「残念でこざいます。今日は坊っちゃんのお友達がいらっしゃってると妻に言ったところ張り切ってご夕食を作ったのですが…」

本当に残念でならないというように言う斎藤がなんだか可哀想になってきた麻琴は結局頂きますと言って頭を下げた。

斎藤は花が咲いたように明るい微笑みに戻り麻琴をダイニングまで案内した。

途中いいのかなという風に誠人を見ると誠人は頷いた。

ダイニングに案内されると麻琴は軽く十人は座れるかというほど長いテーブルに目を奪われた。

誠人が合図をすると斎藤は部屋から出ていき誠人は麻琴をテーブルの奥の席に案内しようとした。

「俺、速川の隣の席がいい。それにこんなに離れてたら話できないだろ?」

そう言った麻琴に少し驚いた表情を浮かべた誠人だったがすぐに誠人の隣の席の椅子を引いた。
「お湯いただきました。」

そう言って麻琴はぺこりと頭を下げた。

「あぁ。服…大きすぎたな。」

ホカホカと熱る身体にダボダボの服を纏った麻琴を見て誠人は言うとふっと笑った。

「俺も早く速川みたいな男になりたいんだけどね。」

麻琴は、はははと笑い誠人の隣に腰を下ろした。

「川本はそのままがいい。」

「へっ!?…あ、ありがと。」

誠人から優しく微笑まれて自分でも何を言ってるかわからなかった。


何だか顔が熱い―


「髪…風邪引くな。」

不意に麻琴のまだ濡れた髪に手を伸ばして誠人は言った。

「ど、ど、どこにドライヤーあるかわからなくて…」

麻琴は誠人の不意打ちにドキッとしたがそれを悟られないように自分の足の爪先を見つめながら言った。

「持ってくる。」

誠人はそう言って席を立ち部屋を出ていった。

『どうしたんだよ、オレ!?速川が優しすぎるから緊張してんのかな?バカだな…頑張れ俺っ!!』

何を頑張るのかは頭の隅に追いやって麻琴は自分の両頬をパチッと叩いた。

しかしその麻琴の気合いは誠人がドライヤーで髪を乾かしてくれている間中、身体と共にガチガチに固まっていた。
「着替えは後で持ってくるから先に制服をくれ。」

そういうと誠人は麻琴に背を向けた。

「川本が入ってる間にやればちょうどいいだろ。」

麻琴が断ろうとするのを遮るように誠人は続けた。

「何から何までごめん…」
しゅんとうなだれて麻琴は言うと制服と下着を脱ぐと下着を制服で丸めてから背中越しに誠人に手渡した。

「気にしなくていい。」

そういうと誠人は出ていった。

1人になった麻琴はおずおずと風呂場に入ると頭を洗い、そして身体を洗った。

湯船に浸かると温かいお湯が全身に染み渡るような気持ちよさに包まれた。

その時、戸が開いた音が小さく聞こえた気がした。

曇り硝子越しに誠人のシルエットが浮かぶ。

「川本、着替え置いておくから。」

「あ、ありがとっ!!」

それだけ言うと誠人はまた出ていった。

「ふふふっ。」

麻琴は広い湯船を見渡すと笑った。

『こんな大きなお風呂を悠弥と亜季が見たら喜ぶだろうなぁ…』

麻琴は弟と妹を想うと不意にバシャバシャと泳ぎだした。

圭介が見たら小学生みたいなことするんじゃないと怒られるとこだか麻琴はこの風呂を隅から隅まで満喫した。