14回『なにせにせものハムレット伝』

 

51

 

今回登場する人物

 

ハムレット・・・・・・・・・・・・クマデン王国の王子

クローディアス・・・・・・・・クマデン王国国王、ハムレットの叔父

ガートルード・・・・・・・・・ クマデン王国王妃、ハムレットの母

レアティーズ・・・・・・・・・ オフィーリアの兄

ホレーシオ・・・・・・・・・・・ ハムレットの親友

オズリック・・・・・・・・・・・ 貴族

 

森の妖精(語り手): ついにやってきました、最終回!えーと、舞台は、エルシナノ城の大広間です。なんとかかんとかという、変な名前のクイズ対決が開かれようとしており、雰囲気を盛りあげようと、きらびやかな飾りつけがされていますね。でも、よーく見ると、けっこう安っぽいような気もしますが・・・。しかも、どれもハムレット様を殺すためのものと考えると、おそろしいですね。あ、そうこうするうちに、我らがヒーロー、ハムレット様が、友人ホレーシオと連れだってやってきました。あとは、観てのお楽しみー。じゃあね、ばいばーい!(退場)

 

ハムレット: 一見すると豪華な飾りつけだが、なんだかうすっぺらだな。客席がわからみれば、きらびやかだけれど、裏側は材木がむきだしで、お芝居の舞台のようではないか。小学校の学芸会を思いだしたよ。

 

ホレーシオ: 突貫作業でつくったのでしょう。

 

ハムレット: だが、これも人生の縮図かもしれないな。

 

ホレーシオ: と、申しますと?

 

ハムレット: 華やかにみえる人生も、裏側はスカスカだったりするのだ。それに、この飾りつけだって、明日にはきれいさっぱり片づけられて、あとかたすらのこらない。人間だって死んでしまえば、すぐに忘れられてしまうじゃないか。この国だっておなじだろう。滅んでしまえば、なかったも同然だ。おれは、できれば忘られたくはない…。だが、今はそんなことより、クイズ対決に集中しなくてはいけない。さあ、行こう。皆、お待ちかねのようだ。

 

クローディアス: (ハムレットに向かって)おお、ハムレット、やっときたか。待っておったぞ(貴族たちに向かって大きな声で)本日の主役、わが最愛の息子、ハムレットが登場した。皆、拍手でむかえてくれ(盛大な拍手)。これで役者がそろった。そろそろ始めることとしたい。 (ハムレットにむかって)ハムレット、準備はいいかな。

 

ハムレット:いつでも始められます。

 

クローディアス: そうか。(厳粛な口調で)えー、すでに、皆も知ってのとおり、我が宮廷の2人の若者が仲たがいをしてしまった。私にとっては、どちらも目に入れても痛くないほど、かわいい者たちであり、是が非でも仲なおりしてもらわねばならない。そこで、かれらの友情の復活をねがって、本日、わが国の国技ともいえそうな、あの伝統行事、伝説のクイズ対決を開催することとした。お互いに知性の限りをつくして競いえば、わだかまりも消え、友情も復活することであろう。

 

オズリック: ブラボー、 ブラボー!

 

クローディアス: そして、この私は、我が息子ハムレットの勝利に、特上豚50匹を賭けた。エルシナノ牧場で育った最高級ポークだ。深みのある味わいとフルーティな香りが、食欲をそそる。ハムレットが勝利したあかつきには、盛大な焼肉パーティを催して祝うつもりだ。フランベしてもおいしいぞ。

 

オズリック: 豚、ボー、 豚、ボー!

 

クローディアス: (オズリックに向かって)オズリックよ、もうすぐ、おまえの出番だぞ。しっかりと、準備をしておいておくれ。(大きな声で)さて。それでは、まず2人で握手をしてくれないか。しっかりとな。うむ、そうだ、よかろう。それから、対決に先だってハムレットから一言あると聞いておるが。

 

ハムレット: (レアティーズに向かって)レアティーズよ、対決を前に、君に一言、謝罪をしたい。

 

クローディアス: なんと、この場であやまるというのか。立派な心がけだ。最近はSNSやツイッターで謝罪をすませる輩(やから)が多いなか、直接あやまるとは、なかなかきとくな行為ではないか。逆に炎上してしまわないよう、しっかりと、仲なおりしてくれよ。

 

ガートルード: (ハムレットに向かって) きちんと仲直りするのよ、ハムレット。

 

ハムレット: (レアティーズに向かって)レアティーズよ、君のお父上には、本当にすまないことをしてしまった。申し訳ない。このところ、私は、ひどい精神不調におちいり、自分がなにをしているかすら、分からない状態にあったのだ。残念ながら、ここですべてを話すことはできない。しかし、いつかは君にもかならず、すべてを説明する。約束しよう。だから、今のところは、これで許してほしい。君はりっぱな紳士だ。きっと分かってくれると信じている。

 

レアティーズ: (傍白)自分がなにをよく分からない状態にあっただと、ちゃんと歩いて、しゃべって、食っていたではないか!ふざけやがって。ますます怒りがこみあげてきた。いますぐ殺してやりたいところだ!だが、いまは落ち着いて、筋書どおりに、ことを進めなくてはいけない。我慢、我慢だ。(ハムレットに向かって落ち着きはらった態度で)今のご立派なお言葉、受け止めさせていただきました。ただ、今はクイズ対決に集中し、万事はそのあとで考えたいと思います。

 

ハムレット: どうもありがとう。君なら分かってくれると信じていた。レアティーズよ 、心から感謝する。ところで、君、からだの具合がわるいのではないか。顔が真っ赤だぞ。熱でもあるんじゃないか。

 

レアティーズ: (傍白)ふざけるなよ!おまえへの怒りをおさえるの苦労しているんだよ!(ハムレットにむかって)いや、心配ない、大丈夫だ。ありがとう。おたがいに、ベストをつくして、正々堂々がんばろう。

 

ハムレット: ありがとう、君もな。

 

ガートルード: 一件落着、よかったわね、ハムレット。そういえば、あなた、ちょっと、太ったかもしれないわね。食欲が回復したおかげね。本当に、私、今日はとても良い気分だわ。(クローディアスに向かって)ねえ、あなたもそうでしょ

 

クローディアス: も、もちろん、とってもうれしいさ。(傍白)ああ、なにも知らないおまえの笑顔をみていると、胸がはりさけそうだ。しかし、われわれ夫婦の幸せのためには、あいつはここで死んでもらうしかないのだ。許してくれ。(貴族たちに向かって大きな声で)そうだ、乾杯を忘れていた。このめでたい、ハムレットの勝利と2人の和解を祝って、まず国王みずから祝杯をあげることとする。 今日は特別に、とっておきの30年ものの赤ワインを用意した。そう、ハムレットが生まれた年のワインだ。この宮殿のワインセラーで大切に保管されていたものを、この日のために用意した。あとで皆にもふるまうので、楽しみにしていてほしい。

 

ガートルード: 今日は本当におめでたい日ですからね。わたしも早く、飲んでみたいですわ。

 

クローディアス: まずは、試飲もかねて、私から乾杯させていただくとしよう。諸君、それではハムレットの勝利を祈って、乾杯!うむ、うまい。なかなかの美味だ。ああ、そうだ、この杯(さかづき)のなかに、わが王家につたわる貴重な真珠を一粒入れて、さらにめでたい杯(さかずき)としよう。しあわせを呼ぶ幸運の真珠だ。(ワイングラスのなかに真珠を落とし込み、傍白)強力な毒がたっぷり塗られた、危険な真珠でもあるがな。(ハムレットに向かって)さあ、息子よ、おまえもこの杯で乾杯してくれ。

 

ハムレット: いえ、今は、結構です。対決が終わってから、ゆっくり、いただきます。

 

ガートルード: そうか、残念だ。(傍白)まことに残念。

 

ガートルード: だったら、この私、ガートルードが、ハムレットに代わって祝杯をあげましょう。(クローディアスの手からグラスを取る) 私、今、とても幸せですし、今日は素晴らしい一日となりそうですからね。それでは、乾杯!

 

クローディアス: (大きな声で)ガートルード!(小声で)飲むな!頼むから、飲まないでくれ・・・

 

ガートルード: いいえ、もう飲んでしまいましたわ。30年もののワインは、独特の味がしますのね。とても苦くて、なんと言うか、体がしびれるような、今までに飲んだことのない・・・、香りも独特で・・・(椅子に倒れ込む)。

 

クローディアス: (小声で)ああ、それは独特なのではない。毒入りなのだ。もう手遅れだ。ガートルード、愛しのガートルード。おまえがいなくては、もはや生きる価値などないではないか。

 

オズリック: (緊張したおももちで、用意した原稿を棒読みする。)えー、それでは、お待ちかねのクイズ対決、「当てて外して、一発逆転、クイズで決闘、あなたがチャンピオン」を始めさせていただきたく思います。さて、このたびの対決の司会進行は、新人研修もかねまして、不肖、私、オズリックが担当することとなりました。なにぶん不慣れなものありますので、ぜひ皆様のご指導ご鞭撻をよろしくおねがいもうしあげます。えー、つぎのページ・・・。えー。

 

ハムレット: どうしたんだい、レアティーズ。やはり顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないか。クイズ対決は延期にしたほうが良いのではないか。

 

オズリック: え、そんな…。

 

レアティーズ: この期に及んで、まだおれを愚弄しようというのか。ええい、もう我慢できない。この剣をくらえ(ハムレットを切りつける)!今のは父の復讐、そしてこれはオフィーリアの分だ。(もう一度切りつける。)

 

ハムレット: なんだと、たった今、仲なおりしたはずではなかったのか。しかも、隠しもった剣で不意打をするとは、卑劣きわまりない! それを、よこせ(レアティーズから剣を奪い取る)。さあ、おまえも同じ一撃を味わうがいい!

 

オズリック: えー、クイズたい・・・、あの・・・。

 

レアティーズ: やめろ、やめるんだ。しまった、切られてしまった。ああ、もうおしまいだ(倒れる)。

 

オズリック: (小声で)クイズ対決…、だれも聞いていない・・・。やはり、宮廷での仕事など、私にはむりだったのだ。ここはうわさ以上に怖いところだ。さっさと実家に帰ろう。(退場)

 

ガートルード: ああ、ハムレット、ハムレット、目まいする。

 

ハムレット: 母上。母上、一体どうしたんですか。大丈夫ですか。

 

ガートルード: め、目が回って、体もしびれる・・・、気を失ってしまいそう。

 

クローディアス: (遮るように)心配いらない。疲れがたまっていたのだ。このところ心労がかさなっていたからな。(傍白)ああ、ガートルード。ガートルード、なんということだ。

 

ハムレット: (ガートルードに駆け寄って)母上、しっかりしてください。どうしたんですか。

 

ガートルード: ハムレット、お聞きなさい、ハムレット、ワインに毒が…、(クローディアスに向かって)あなた、息子を殺すつもりだったのね。この悪魔!

 

クローディアス: (ガートルードに向かって小声で)いや、君を殺す気はなかったんだ。本当に、信じてくれ。

 

ガートルード: ああ、こんな下劣な男を信じていたなんて、なんて愚かな私・・・(死ぬ)。

 

ハムレット: 母上、しっかりしてください。ああ、死んでしまった。だが、今、確かに毒と言ったぞ。(貴族たちに向かって大きな声で)皆、これは陰謀だ。犯人はこのなかにいる!扉に鍵をかけて、一人も外に出すんじゃないぞ!

 

レアティーズ: ハムレット様。お母様は毒殺されたのです。あのワインには毒が入っていたのです。そして、残念ながら、あなた様の命も、残りわずかしかありません。私の剣の刃にも毒が塗ってあったのです。どんな解毒剤も効きません。おなじ剣で傷を受けた、この私の命も、もはや風前のともしび。そして、最大の悪人、すべての黒幕は、あそこにいるクローディアス。だまされた自分がなさけない。ともに死を前にした今、ハムレット様、お互いに許し合おうではありませんか。ああ(死ぬ)。

 

ハムレット: さらばだ、レアティーズ。よい旅を!おれに残された時間はわずかなようだが、上等だ。

 

ホレーシオ: (傍白)ああ、悪い予感が当たってしまった。

 

ハムレット: クローディアス、この極悪非道の悪人め。罪の重さを思い知るがいい。

 

クローディアス: 私は無実だ。いったい、どこに証拠があるというのだ。記憶にも記録にもない。

 

ハムレット: 罪を認めろ、見苦しいぞ。

 

クローディアス: 謀反だ。だれかこいつをとららえろ。国王殺しをたくらむ謀反人がここにいるぞ。

 

ハムレット: 国王殺しの謀反人とはおまえのことだ。

 

クローディアス: おい、誰か、こいつをとらえろ。殺してもいいぞ。そしたら、この王国をあげるぞ、約束する。絶対あげる。ぜんぶあげる。だから、こいつを何とかしろ。おい、皆、なぜ国王の命令をきかん。

 

ハムレット: 皆、とっくに逃げてしまったぞ。見すてられてしまったな。さあ、この剣を受けて、母の後を追え(クローディアスを刺す)。

 

クローディアス: 痛い、痛い。たのむから、やめてくれ。もはや生きる気力はない。だが、死ぬのもいやなんだ。痛いのはもっといやだ。

 

ハムレット: さんざん、悪事をはたらいておきながら、今さらなにを言うか。罪を認めるまで、いたぶってやる。さあ、懺悔(ざんげ)しろ!

 

クローディアス: 痛い、痛い。

 

ハムレット: 剣で刺されれば、誰だって痛いのだ。お前の犯した罪を認めろ。懺悔するんだ。

 

クローディアス: 痛い。

 

ハムレット: 痛くて懺悔もできないというのか。そうか、しかたないな。それじゃあ、痛みどめがわりに、ワインを飲ませてやろう。おまえがつくった毒入りワインだ。そーら飲め、もっと飲め、飲み放題だ!

 

クローディアス: やめろ、ああ、やめてくれ、飲みたくない。おなかいっぱい。ああ、そうだ、良い考えがある!聞いてくれ、いいか、すべてなかったことにするのだ!もういちど、生まれたときからやり直せばよい。これで一件落着ではないかだ。それとも、念には念をいれて、生まれてこなかったことにしようか。そうすれば、悩みも苦しみもないではないか。これできまりだ。

 

ハムレット: うるさいやつだな。地獄の業火のなかに落ちてしまえ。(クローディアスの首を絞める。)

 

クローディアス: やめてくれ、クッ苦しい、苦しい。(死ぬ)

 

ハムレット: やっと死んだか、なさけない奴め。悪党としての品位も自覚もなかった。こんな奴のために、今まで苦労してきたのか。報いは、あの世でたっぷり受けるがいい。ああ、それにしても、ようやく肩の荷がおりた。それに、もうすぐ人生という重荷からも解放されそうだ。どんどん意識が遠のいていく。

 

ホレーシオ: ああ、ハムレットさま。

 

ハムレット: ホレーシオよ。君を親友と見込んで、ぜひ、お願いしたいことがある。死後、私の名誉が傷つくことがないよう、今回のできごとを、人々に語り継いでほしいのだ。

 

ホレーシオ: いいえ、私もいっしょに死にとうございます。

 

ハムレット: 何を言う!人間はみな死ぬときは一人だ。たとえ一緒に死んだとしても、結局は一人で逝くしかないのだ。無駄死にはやめてくれ。なにより、私の名誉がこれ以上傷つくことがないよう、ぜひとも引き受けてほしいのだ。ああ、それにしても、目が回る。地球が回っているという、あのガリレオという者の主張が、今なら理解できる。しかし、もし、彼が正しいとするならば、天国は、一体どこにあるのだろうか。そして私はこれからどこに行くのだろう。だが、そんなことは、もはや、どうでもいい。父上、ご満足でしょうか。哀れな母上、さようなら。私は私の旅を続けます。たった一人の旅だ。前にも後ろにも、誰もいない。なにもみえない。まるで霧のなかにいるようだ。さようなら(死ぬ)。

 

ホレーシオ: さようなら、よい旅となりますよう。今や静寂そのものだ。ついさきほどまでは、華やかに着飾った貴族たちでにぎわっていたのに。だが、そんなことよりも、ハムレットさま、満ち足りた表情でお眠りになられている。 思えば、今回の出来事の真相を語ることができるのは、この私だけかもしれない。ハムレットさまの名誉のためにも、事の顛末(てんまつ)を書きのこさねばならない。欲望、裏切り、復讐のすべてを、後世に伝えることが、ハムレット様へのせめてもの弔いとなるのだ。すぐにとりかからねば。(暗転)

 

 

 

おわりに

 つたない作品を最後までお読みいただき、どうもありがとうございます。明確な計画がないまま書き進めたため、不整合がのこり、誤字脱字もたくさんあるようです。もういちど、どこかのサイトで清書版を発表し、完成としたいと考えております。(AW

 

42

 

今回登場する人物

 

ハムレット・・・・・・・・・・・・クマデン王国の王子

ホレーシオ・・・・・・・・・・・ ハムレットの親友

オズリック・・・・・・・・・・・ 貴族

 

森の妖精(語り手): きのうの晩は大騒動でした。ハムレット様も大荒れでしたね。でも、お城に帰ってきて、ひさしぶりにフカフカのベッドで眠ったせいか、今日は落ちつきをとりもどしています。今は自室でくつろいで、友人のホレーシオと談笑しています。このところ、感情の起伏がはげしくて、私も心配していたんですが、どうやら大丈夫そうですね。ではまた後でおあいしましょう。

 

ホレーシオ:殿下、こんなにも早くご帰国されるとは、考えておりませんでした。どのようにして帰国されたのですか。

 

ハムレット: そうだな、港をでてからは、ちょっとした冒険だった。予想外のできごとの連続で、とてもスリリングだった。このところ、ずっと城にこもりきりだったから、ちょうど良い気晴らしになったよ。

 

ホレーシオ:どのような冒険だったのでしょうか。

 

ハムレット: よくぞ、聞いてくれた!じつは、さっきから話したくてうずうずしていたんだ。いいか、出航してまもなく、おれたちが乗った船は、海賊の一団に襲われたのだ。こっちも頑張って応戦したんだが、あっけなく打ち負かされてしまい、高価な貴重品はすべてうばわれてしまった。しかし、連中はおれが王子であると知ると、とても丁重にあつかってくれた。そして、おれだけを特別に、この国の港にまで、送り届けてくれたのだ。もちろん、たっぷりお礼はしなくてはいけないけれどね。

 

ホレーシオ:海賊のおかげで、はやく帰国することができたなんて皮肉ですね。

 

ハムレット: うん、それに、わがクマデン王国は海に接してないから、なお新鮮な経験だった。しかし、ホレーシオよ、もっと大切なことがあるんだ。君にだけはぜひ知らせておかなければいけない。

 

ホレーシオ:ぜひ、お聞かせください。 

 

ハムレット: じつは、出航してすぐ、おれはローゼンクランツとギルデンスターンの船室にしのび込み、クローディアスがクビキリ王国国王に宛てた手紙を見つけだし、封をあけて読んでみた。そして、その内容に愕然(がくぜん)としたのだ。なんと手紙のなかには、我々がクビキリスル王国に到着し次第、即座に、おれの首をはねよと書かれていたんだ。

 

ホレーシオ:国王陛下が殿下のお命をうばおうとしているのですか。 

 

ハムレット: それ以外は考えられない。もはや万事休すかと思ったが、幸運なことに、部屋のテーブルの上に、たまたま、修正テープとボールペンが置かれていたのだ。そこで、おれは、修正テープで自分の名前を消して、ローゼンクランツとギルデンスターンと書き込んで、元の場所にもどしておいた。文字数が合わずに苦労したが、小さな字で書いたら、なんとかなったよ。

 

ホレーシオ:とすると、ローゼンクランツとギルデンスターンは、どうなったんでしょうか。

 

ハムレット: 今頃はもう、この世にはいないだろう。あいつらは、勝手に首を突っ込んできたんだ。突っ込んだ首を切り落とされても、文句は言えんだろう。それに、今となっては、それも些細な問題にすぎない。これからクローディアスとの対決が始まるのだから。

 

ホレーシオ:対決、とおっしゃいましたか?

 

ハムレット: そうだ。だが、それについては、また後で話すよ。しかし、レアティーズにはすまないことをしてしまった。オフィーリアの死を知って、ついカッとなって、自分を見失ってしまったんだ。俺たちは、愛する父親を失ったという点においては、全く同じ境遇にあるのだ。きちんと謝って仲直りすることにしよう。彼は立派な人間だ。きっと、許してくれるさ。 

 

ホレーシオ:そうだと良いのですが。

 

ハムレット: 思案顔だな、なにか言いたいことがあるのなら、遠慮なく言ってくれ。

 

ホレーシオ:いえ、レアティーズ様のお気持ちはいかがなものかと、心配になりまして。

 

ハムレット: それなら、心配ない。彼は立派な人間だ。きちんと話せば分かってくれるさ。ところで、廊下から足音がする。誰かがやってくるようだ。

 

(オズリック登場。)

 

オズリック: 失礼申し上げます。ハムレッご殿下様、国王陛下様の御伝言をお伝えにまいりました。名はオズリックと申します。殿下に陛下の御伝言をお伝えにまいりました次第であります。

 

ハムレット: (ホレーシオに向かって)初めて見る顔だな。なあホレーシオ、誰だか知っているか?

 

ホレーシオ:会うのは初めてですが、たしか、良家の御曹司で、多額の寄付金を積んで一流大学を卒業したのはいいが、仕事につけなかったため、ワイロを払って宮廷にもぐりこんできたというお坊ちゃんだと思います。原稿がないと、しゃべることができないと聞いております。

 

ハムレット: なるほど。(オズリックに向かって)君、ここなら、どんなうすのろでもやっていけるから、大丈夫だ。安心したまえ。ところで、この私に大切な伝言があるようだね。続けてくれ。

 

オズリック: クビキリスル王国からのご生還、まことにおめでたく、心の底からのお慶びを申し上げる次第でございます。

 

ハムレット: 確かに、君もかなりおめでたいようだね。 

 

オズリック: もちろんでございます。

 

ハムレット: ところで、今日は本当に暑いな。その頭に乗っている帽子はとったほうがいいぞ。少しは涼しくなるだろう。それに頭皮が蒸れると、抜け毛も増えるしな。

 

オズリック: 確かに、大変、暑うございます。お言葉に甘えて、帽子を取らせていただきます。最近、抜け毛も気になりますので。

 

ハムレット: その上着も脱いだらどうだ。今日は、本当に暑いからな。自慢の胸毛がぬけてしまうかもしれないではないか。

 

オズリック: ありがたき、お心遣い、まことに、感謝申し上げます。それでは、上着もとらせていただきます。

 

ハムレット: ついでに、パンツまで脱いだらどうだ。遠慮はいらんぞ。昨日は気温が40度まで上がったとも聞いている。今日も暑くなりそうだから、遠慮はいらんぞ、涼しい方がよかろう、さあ、さあ!それに・・・!

 

オズリック: (さえぎるように)殿下、どうぞ、お気遣いなく、お願い申し上げます。・・・・そもそも私が、ここに参上いたしましたのは、国王陛下のお言葉を、ハムレット殿下にお伝えするためでございます。

 

ハムレット: なるほど。間違えないよう、正確に伝えてくれよ。

 

オズリック: クローディアス陛下は、殿下とレアティーズ様の和解のために、我が国の伝統行事である「当てて外して、一発逆転、クイズで決闘、あなたがチャンピオン」を開催したいそうです。

 

ハムレット: な、なんだと、あの伝説の行事、「当てて外して、一発逆転、クイズで決闘、あなたがチャンピオン」を、ふたたび開催するというのか?

 

オズリック: そうです。あの「当てて外して・・・・・

 

ハムレット: 分かった、もういい。しかし、あの行事は開催しようとすると、かならず大惨事が起こり、多くの死者がでるため、長らく封印されてきたはずだ。その因縁の行事を、また開催しようというのか。迷信深いクローディアスらしくないな。(小声で)それとも、このおれも含めて、じゃま者を一気に始末してしまおうというのか? いや、そこまでは考えておるまい。

 

オズリック: おっしゃるとおりです。まさに、殿下のおっしゃるとおりでございます。

 

ハムレット: え、今の言葉が聞こえたのか? まさかな。

 

オズリック: 国王陛下はお2人が、クイズを通して正々堂々と戦えば、友情がよみがえるのではないかとお考えです。しかも、陛下はハムレット殿下の勝利に、様々なものをお賭けになられております。

 

ハムレット: 「それは何なんだ」と聞けばいいのかな?

 

オズリック: はい、陛下はハムレット殿下の勝利に、豚50頭をお賭けになりました。お勝ちになった場合は盛大な焼き豚パーティを開くそうです。それだけあれば、腹一杯食べることができますよね。私も楽しみにしております。なので、ぜひとも、ハムレット様に勝利していただきたいと願っております。

 

ハムレット: もし、私が 「ちょっと体調がわるので、延期してほしい」、と言ったらどうなる。

 

オズリック: そのようなご返事は想定しておりませんでしたが・・・。

 

ハムレット: そんな返事をもちかえったら、また裂きになってしまう、とでも言いたそうだな。。

 

オズリック: この私、また裂きはちょっと苦手にしておりまして。

 

ハムレット: きみはどうやら新人のようだから、ここで一度、経験しておくのも悪くないと思うが。右半身と左半身を使いわけることこそ、権謀作術の極意だからね。でも、まあいいだろう。国王からのせっかくの申し出だ、ありがたく受けることとしよう。そのように伝えてくれ。もう下がって結構だ。

 

オズリック: ありがとうございます。それでは、これにて失礼存じます。

 

ハムレット: (思索的に)なんだか悪い予感がする。負けそうな気がするんだ。まあ、たとえ負けたとしても、多少の恥をかくにすぎないのだから、べつに困ることはないはずなのだが。それに、毎日、しっかり勉学を続けているから、大負けすることもないとは思う。でも、なぜか、悪い予感がするんだ。

 

ホレーシオ:延期されたらいかがでしょうか。

 

ハムレット: いや、やるよ。もう返事もしたしな。おかしな話だが、今、不意に、裏山で鳴いていたセミのことを思い出した。そのセミは中庭の栗の木の枝にとまって、うるさいほど大きな音で鳴き続けていた。ところが、突然、鳴き止んだかと思ったら、そのまま、コトンと地面に落ちてしまったのだ。しばらくの間は、なんとか飛び上がろうともがいていたが、気づいたら死んでいた。なんてはかない一生なのだと、そのときは思った。だが、今から考えると、あれも、避けがたい運命だったのだ。人は死ぬべきときが来たら、どんなにあがいても無駄なのだ。だから、できることを精一杯やったら、あとは天に身を任せるしかないのだ。今度こそ、迷いが消えた。

 

ホレーシオ:ハムレット様。ずいぶん、投げやりのご様子にみえます。すこしでも不安を感じておられるのであれば、クイズ対決は、延期された方が良いのではありませんか。ご体調がすぐれないので、延期したいと、私が伝えてまいります。

 

ハムレット: 大丈夫だ。心配いらない、むしろ安らかな気持ちなのだ。われわれは自分の意志どおりに行動すれば良い。もし、それで命を落としたとしても、それもまた神の意志ということなのだ。

 

ホレーシオ:ハムレット様、ほんとうに大丈夫なのですか。

 

ハムレット: ああ、なんともない。それより早く準備をしなければ。皆、お待ちかねだろう。いよいよ最後の決戦のはじまりだ。

 

森の妖精: ハムレット様なんだか悟りきったような様子ですね。覚悟はきまったという雰囲気で、いよいよですね。さて、次回はいよいよ最終回!まっててねー!

41場(その2)

 

今回登場する人物

ハムレット・・・・・・・・・・・・クマデン王国の王子

クローディアス・・・・・・・・クマデン王国国王、ハムレットの叔父

ガートルード・・・・・・・・・ クマデン王国王妃、ハムレットの母

レアティーズ・・・・・・・・・ オフィーリアの兄

ホレーシオ・・・・・・・・・・・ ハムレットの親友

墓堀A

墓堀B

従者

 

森の妖精: オフィーリアの埋葬の最中に、外国に行っているはずのハムレット様が、カッコよく登場してきました。でも、ちょっと危機ですね。ヒーローらしく切りぬけることができるのでしょうか。それでは、またあとで!

 

(前回からの続き)

レアティーズ: いやまて、埋葬の前に、もう一度だけ、その顔を見せてくれ、オフィーリア。(レアティーズ、棺のふたを開ける。)ああ、妹よ、最愛の妹よ、おまえを一人だけで、逝(い)かせることなど、とてもできない。おれも、ここで死のう。おい、そこの墓堀、棺(ひつぎ)とともに、おれも 一緒に埋めてくれ。すぐにだ。

 

墓堀B: いや~、そう言われましても、ちょっと・・・。

 

レアティーズ: おれはここで死ぬのだ。妹とともに死ぬのだー!

 

(ハムレット、物陰からでてくる。)

 

ハムレット: レアティーズよ、ずいぶん大仰(おおぎょう)に、なげいているではないか。 

 

レアティーズ: (ハムレットを見つめながら、傍白)い、いかん。幻覚がみえる!ハムレットの幻覚がみえる。憎しみのせいか、涙で目がかすんでいるせいなのか分からんが、あいつは今クビキリ王国にいるのだ。落ちつけ、レアティーズ。あれは幻覚なのだ。無視していれば、そのうちに消えるはずだ。無視、無視。(皆に向かって)さて、皆さん、葬儀をつづけましょう。

 

ハムレット: おい、レアティーズよ。

 

レアティーズ: (傍白)ああ、一体どういうことだ。まるで本物のハムレットのように、動き、しゃべっているではないか。ずいぶんリアルだ。だが、まどわされてはいけない。心を強くもって、無視するのだ。無視、無視。しかし…、あいつは汗をかいている。幻覚が汗をかくだろうか。しかも臭い汗だ。ここまで匂ってくる。しばらく体を洗っていないにちがいない。そうだ、やはり、あれは幻影などではない。まちがいなく本物だ!おのれハムレット、おれを愚弄(ぐろう)しているな。なぜここにいる。

 

ハムレット: 一体、何をおどろいているのだ。レアティーズよ。いいか、私はこのクマデン王国の、王子ハムレットだ。いいか、王子ハムレットが帰還したのだ。

 

ガートルード: ああ、ハムレット。無事に帰ってきたのね。

 

ハムレット: (レアティーズに向かって)おれは、おまえの何千倍、いや何万倍も、オフィーリアを愛していた。心の底から愛していたのだ。

 

レアティーズ: さんざん悪事をはたらいておいて、いまさら恋人気どりをしようというのか?腐りきった奴だ!この場で殺してやりたいが、今は葬儀の最中だ。終わったら、すぐに決着をつけてやるから、ちょっとわきで待ってろ。

 

ハムレット: いや、オフィーリアを弔うのに最もふさわしいのは、このハムレットだ。

 

レアティーズ: 黙れ!おまえに参列する資格などない。

 

ハムレット: (レアティーズを無視し、オフィーリアの棺をのぞきこむ。)ああ、まだ生きているかのようではないか。それにしても、オフィーリア。なぜ死んでしまったのだ。

 

レアティーズ: もはや忍耐も限界だ。この場で決着をつけてやる。ここがおまえの死に場所だ。地獄の底まで突きおとしてやる。(ハムレットを殴る。)ビシ、もう一発だ、ボコ。

 

ガートルード:(クローディアスに向かって) あなた、早くあの2人をとめてください。

 

クローディアス:(ガートルードに向かって)なあに、2人とも節度あるりっぱな宮廷人だ。放っておいても、すぐに仲なおりするだろう。

 

ハムレット: レアティーズよ、なかなか手荒いあいさつではないか。だがまあ、良しとしよう。ところで、おまえは本当にオフィーリアの棺とともに土のなかに埋められようというのか。

 

レアティーズ: おまえならできるのか。

 

ハムレット: その気になれば、オフィーリアとの愛に殉じることもできる。だが、今は…。

 

レアティーズ: そうか。ならば、この場で首を絞めて、試してやろう。死ぬまでがまんできたら、おまえの勝ちだ。いさぎよく負けをみとめよう。悶絶してのたうちまわって死んだら、おれの勝ちだ。さあ、決着をつけようではないか。(レアティーズ、ハムレットの首を絞める)死ね、死ね、死ね!

 

ハムレット: (苦しそうに)・・・おい、首から手を離せ!いいから、その手を離せと言っているのだ。

 

レアティーズ: 苦しいか。だが、もう少しだ。がまんしろ!すぐに楽になるからな。

 

ハムレット: 首から手を離せ。

 

ガートルード: レアティーズ、よしてちょうだい。ああ、ハムレット…。

 

レアティーズ: この葬儀の場こそ、おまえの死に場所にふさわしいのだ。

 

ガートルード:(クローディアスに向かって)ああ、あなた、とめてちょうだい。

 

クローディアス:(傍白) やはり素手で殺すのはむずかしいか。もう一度、毒を使わねばならないようだな。まあ、仕方ない、止めるとするか。(大きな声で、従者たちに向かって)おい、皆で2人を引き離すのだ、すぐにだ。だれであろうと、厳粛な葬儀の場をけがすことは、許されない。

 

 (2人引き離される)

 

ハムレット: ずいぶん乱暴だな。レアティーズよ、もう少しで三途(さんず)の川を渡るところだったじゃないか。おれは君を立派な人間とみなし、尊重してきたつもりだ。なぜこんな仕打ちをするのだ。

 

クローディアス:(さえぎるように)もうやめろ、ハムレット、今日は帰って寝ろ。いいか、おとなしく寝るんだぞ。万事は明日だ。ガートルードよ、ハムレットを連れて、はやく向こうに行ってくれ。皆も、帰って休んでくれ。ああ、すべてが台無しではないか。

 

ガートルード:(レアティーズに向かって)ハムレットは、今、気がふれていて、まともではないのよ。

 

クローディアス: おい、ガートルードよ、申し訳ないが、ハムレットを連れて、早く向こうへ行ってくれないか。

 

ガートルード:(ハムレットに向かって)ハムレット、今日は部屋にもどって、ゆっくりお休みなさい。(ハムレット、ガートルード退場)

 

(クローディアス、レアティーズ、墓堀ABが舞台に残っている。)

 

クローディアス: やっと行ったか。あの無礼者め。レアティーズよ、おまえも気を静めてくれ。チャンスはまたやってくる。

 

レアティーズ: もはや、怒りを抑えることができません。

 

クローディアス: だが、まずは、オフィーリアの弔いが先だ。そうだ、おまえのかわいい妹が天国にいくことができるよう、この場所に立派な記念碑を建てようではないか。どの墓も及ばないような、大きな記念碑を建てるのだ。 (傍白)それにしても、あいつがこんなにも早く帰国してくるとは思わなかった。今度こそ、息の根を止めなくてはいけない。(レアティーズに向かって)ところで、ハムレットについてだが、俺によい計画があるのだ。

 

レアティーズ: ぜひ、お聞かせください。

 

クローディアス: いいか、ハムレットは、お前につよい対抗心を抱いておる。 ライバルだと思っているのだろう。そこでだ、まず、わたしの方で、あのクイズ対決の手はずをととのえる。わが国につたわる和解のためのイベント、争いごとを平和的に解決するための知恵くらべだ。

 

レアティーズ: え!あの、呪われたクイズ対決ですか。開催しようとすると、かならず大惨事がおこり、多くの死者がでるため、不吉な行事とされ、長らく封印されてきた、あのクイズ対決を、また開くというのですか。

 

クローディアス: いいか、そんなものはただの迷信だ。たまたま、不運が重なっただけだ。都市伝説のようなものにすぎない。それとも、おまえ、おじけづいたのか。

 

レアティーズ: いいえ、そんなことはありません。しかし・・・。

 

クローディアス: 皆が立ち会うクイズ対決こそ、公明正大な復讐の場にふさわしいとは思わないか。

 

レアティーズ: そうかもしれません。 ところで、どのようにハムレットを殺すのでしょうか。

 

クローディアス: まず、前もって、私のほうで強力な毒入りワインを用意しておく。そして、ハムレットが1問正解する度に、そのワインで乾杯させることにしよう。一口飲んだだけで、間違いなく死に至るはずだ。

 

レアティーズ: なるほど。さすがは陛下、悪知恵の宝庫ですね。

 

クローディアス: おまえは、まだ、おれを誤解しているようだ。

 

レアティーズ:  いやいや、まったく脱帽です。ようやく納得できました。それでは、念には念を入れて、私は毒を塗った剣を隠し持ってゆきます!そうすれば、何が起こっても、父のための復讐を達成することができます。

 

クローディアス:(傍白)父のための復讐か、胸に突き刺さる言葉だな。とっさに思いついた計画ではあるが、今度こそハムレットを始末できそうだ。成功すれば、この不安もおさまるだろう。(レアティーズに向かって)それでこそ孝行息子だ。ぜひとも、復讐を達成してほしい。

 

レアティーズ: すぐにでも対決を始めたい気分です。

 

クローディアス: では、すぐ部屋にもどって、くわしい相談をしようではないか。(墓堀にむかって)おい、そこの墓堀、ほら、代金だ(金貨の入った袋を投げる)。かなり多めに入っている。いいか、この棺(ひつぎ)をていねいに埋めるんだぞ。

 

墓堀B: (袋の重さを確かめて)かしこまりました。心を込めて、ていねいに埋葬させていただきます。(クローディアスとレアティーズ退場)。

 

クローディアス: よろしくたのんだぞ。レアティーズよ、行くぞ。

 

墓堀B:  行ったか、みんな行ったか。

 

墓堀A: もうすこしです。 あの角を曲がって、見えなくなったら、オッケーだと思いまーす。あ、見えなくなりました。もうもどってはこないでしょう。

 

墓堀B: よし、いつものように、あっちこっちの骨を、みんな放り込んで、土をかけて、さっさと終わりにしようぜ。

 

墓堀A: 了解!それにしても、葬式ってのは、いつも、なんやかやでもめますね。なにやら、よからぬ相談もしていたようですし。

 

墓堀B: いいか、お上のことは、俺たちには、なんの関係ないんだ。おれたちにとって重要なのは、お上ではなく、お金だ。なにも聞こえなかった、なにも見なかった。そうだろ。代金をたっぷりもらったんだから。(袋をあけて、中の金貨をみせる。)さて、そこら辺の骨をぜんぶ放り込んで、さっさっと土かけて終わりにしようぜ。早く家に帰ってビール飲みたいだろ。

 

墓堀A: 賛成ー!ちょうとっきゅうで終わらせましょう。

 

(ダーク・ダックス「雪山讃歌」、あるいは童謡「茶摘み」のメロディで)

 

墓堀A: ♫ 墓よ、墓場よ、ほとけーの宿り 

墓堀B:                      ほれ、ほれ

墓堀A: ♫ おれたちゃー、    

墓堀B:           まだ、

墓堀A:               墓には住めないからに

墓堀B:                              まだ、まだ

墓堀A: ♫ 墓よ、墓場よ、ほとけーの宿り 

墓堀B:                      ほれ、ほれ

墓堀A: ♫ おれたちぁー、     

墓堀B:           まだ、

墓堀A:               墓には住めないからに

墓堀B:                              まだ、ほれ

 

 

森の妖精: だんだん盛り上がってきましたね。でもクイズ対決って一体何なんでしょう。本当に開催されるのでしょうか。つぎもかならずアップするから、気ながにまっててね。

 

41場(その1)

 

今回登場する人物

 

ハムレット・・・・・・・・・・・・クマデン王国の王子

クローディアス・・・・・・・・クマデン王国国王、ハムレットの叔父

ガートルード・・・・・・・・・ クマデン王国王妃、ハムレットの母

レアティーズ・・・・・・・・・ オフィーリアの兄

ホレーシオ・・・・・・・・・・・ ハムレットの親友

墓堀A

墓堀B

従者

 

森の妖精: オフィーリアの埋葬は、内々におこなわれることになったようです。やはり、世間体が気になるのでしょうね。でも、かわいそう。えーと、それから、風のうわさによると、われらがハムレット様が、ひそかに帰国し、どこかに身をひそめているようです。はてさて、場面は、墓地です。お墓があるところですね。愉快な2人が、歌いながら墓穴を掘っています。まさか、ここで・・・。

 

墓堀A: ♫おれたち墓堀、天下の墓堀。

 

墓堀B: ♫ほれ、ほれ、ほれ、ほれ。

 

(以下は、ダーク・ダックス「雪山讃歌」、あるいは童謡「茶摘み」のメロディで。)

 

墓堀A: ♫ 墓よ、墓場よ、ほとけーの宿り 

墓堀B:                      ほれ、ほれ

墓堀A: ♫ おれたちゃー、    

墓堀B:           まだ、

墓堀A:               墓には住めないからに

墓堀B:                              まだ、まだ

墓堀A: ♫ 墓よ、墓場よ、ほとけーの宿り 

墓堀B:                      ほれ、ほれ

墓堀A: ♫ おれたちぁー、     

墓堀B:           まだ、

墓堀A:               墓には住めないからに

墓堀B:                              まだ、まだ

 

墓堀A: 親方、疲れました。 いくら墓場だからっていったって、掘っても、掘っても出てくるのは骨ばっかりじゃないですか。スコップじゃなくて手で放り出した方が早ような気がします。

 

墓堀B: でも、まあ、その骨を埋めたのも俺たちなんだから、文句も言えんだろう。だって、新しい墓を掘るときには、以前に墓があったところを掘り返すんだし、葬儀が終わったら、掘り返した骨をぜんぶ放り込んで、表面をささっと土でおおってすませているんだからな。でも、まあ、神様だって、きっと許してくださるさ。その理由が、おまえに分かるか。

 

墓堀A: そうだな、みんな一緒に埋めれば、さびしくないから?死んだもの同士で、皆の骨がごちゃごちゃに絡み合うのも、ちょっと楽しそうだし。それに、出てきた骨を、こうやって、こうやって、こんな風に並べると、頭が2つ、手が6本、足が12本の人間ができあがる!ねえ、もっと増やすことだって出来ますよ!ほら、とっても楽しいでしょ!

 

墓堀B: まあ、なかなか面白い答えだが、残念ながら、はずれだ。 いいか、よく考えてみろ。もし、死人がでる度に、墓を一つずつ増やしていったら、どうなる? 墓場の面積は広がる一方で、いつの日か、この王国全体がお墓でおおわれてしまうかもしれない。そうなったら、国民はいったいどこに住むのだ。てなわけで、人々が住む領土を守るのがおれたちの役目ってわけよ。まあ、国を守る軍隊のようなものさ。

 

墓堀A: うん、まあ、確かに、理屈の上では、そうだけど。

 

墓堀B: それに、この仕事にだって、いつか終わりがくるさ。たとえば、人間がみーんな死んじまったら、おれたちゃ失業だろ。

 

墓堀A: 確かに、それも、そうかもしれないけど。

 

墓堀B: でも、まあ、おれは、そこまで生きたくはないね。考えてもみろ、もし、酒屋が全部死んでしまったら、酒も飲めないじゃないか。仕事が終わった後のビールは最高だろ。

 

墓堀A: その意見に関しては、賛成~!

 

墓堀B: それに、仕事の最中に飲むビールは、もっと最高だろう。

 

墓堀A: 大賛成~!(口で)パチ、パチ、パチ。

 

墓堀B: 酒のない人生なんて、なんの価値もない。そんなわけで、おれは先に死ぬから、おれの墓穴はお前が掘ってくれ。代金は後払いでよろしく!だが、まあ、それも先の話しだ。さあ仕事、仕事。

 

(ダーク・ダックス「雪山讃歌」、あるいは童謡「茶摘み」のメロディで)

 

墓堀A :♫ 墓よ、墓場よ、ほとけーの宿り 

墓堀B:                      ほれ、ほれ

墓堀A: ♫ おれたちゃー、    

墓堀B:           まだ、

墓堀A:               墓には住めないからに

墓堀B:                              まだ、まだ

墓堀A: ♫ おれたちぁー、     

墓堀B:           まだ、

墓堀A:               墓には住めないからに

墓堀B:                              まだ、ほれ

 

墓堀B: よ~し、休憩だ。 この金でビール買ってこい。

 

墓堀A: がってんだい!行ってきまーす。

 

(ハムレットとホレーシオが舞台奥に登場し墓堀たちの様子をながめている。)

 

ハムレット: (ホレーシオに向かって)ずいぶん陽気な墓堀たちだな。ちょっと話しかけてみよう。(墓堀にむかって)なあ、君、随分楽しそうだね。墓堀って仕事はそんなに面白いのかい。

 

墓堀B: もちろん、おれはこの仕事で、お金を貯めて家を建てました。この墓穴よりちっちゃな家ですがね。それに、一応、女房ももらえました。ちゃんと生きた女房でっせ!だから、世間が言うほど悪い仕事じゃありませんや。

 

ハムレット: なるほど、それはよかった。ところで、その墓は一体誰のものなのだ。

 

墓堀B: え、あっしのですよ。当ったり前じゃないすか、あっしが掘ってんだから。

 

ハムレット: 確かに、今は、おまえのものかもしれない。けれども、私が聞いているのは、この墓に埋葬されるのは、どんな人間なのかということなのだ。

 

墓堀B: 人間? うーん、実は、ここに埋葬されるのは人間じゃないんですよ。

 

ハムレット: では、ペットの犬でも埋葬するのか、最近ではペットの葬儀屋も繁盛していると聞いてはいるが。

 

墓堀B: 動物でもございませんな。だんな、良い教育受けたんでしょ。 頭つかわなきゃ。

 

ハムレット: 人間でも動物でもないのに、墓に葬られるとは、う~む、分からない。

 

墓堀B: 降参ですかい!ちょっと前までは、生きていたので、人間だったんですがね、今は死人となっているので、正解は、元人間です。死人と人間はちがいますからね、へへ。

 

ハムレット: わかた、わかった、で、一体それは、どんなヤツだったのだ。

 

墓堀B: 生きていた時は女性だったので、「ヤツ」という呼び名は、ちょっと違いますね! 

 

ハムレット: あげ足とりがうまいな。

 

墓堀B: おほめにあずかり、光栄でございますな! ちなみに、ここにあるドクロは、連続テレビドラマでおなじみの、織田信長の骨でございます。あの、かんしゃくもちの信長ですよ。ほら、ここの部分の骨のゆがみが、性格のゆがみを示しています。

 

ハムレット: どれ、見せてくれ。(ハムレット、ドクロを受けとり、見つめる。)まさかな、うそだろう。

 

墓堀B: うそですよ。ただその可能性がまったくないとは言えないでしょう。このドクロは答えてくれませんし。こんなふうに、あごを動かすと、カタカタと音はするんですがね。

 

ハムレット: たしかに、君のいうとおりかもしれない。ホレーシオよ、人は死んでしまえば、みな、こんなふうになってしまうのだろうか。 魂は天国にいったとしても、体はこのように土のなかで朽ちはて、塵(ちり)となって、この世界を永遠にただよい続けるのだろうか。

 

ホレーシオ: 話がやや飛躍しているように思われますが。

 

(クローディアス、ガートルード、レアティーズ、司祭、棺をかついだ従者たちが登場する。)

 

ハムレット: まて、誰か来るぞ。棺を運んでいる。葬式だな。こんな真夜中に埋葬するとは、どういうことなのだろう。人に見られたくない、やましい理由でもあるのだろう。隠れて見ていよう。

 

司祭: まずは、棺をお納めください。

 

(従者たち、墓穴のなかに棺をおろしてゆく。) 

 

従者1: ゆっくりと、下ろしてくださーい。オーライ、オーライ、おっと、ストップ。止めてくださーい。

 

レアティーズ: おいおい、ていねいにやってくれよ。

 

従者1: (レアティーズに向かって)もちろんですよ。普段は土建の現場で働いていますが、今日はことのほか慎重にやってます。(仲間に向かって)棺が穴の中心にくるように置いてれよ。そう、まっすぐにね、オッケー、任務完了!撤収!

 

(従者たち退場。)

 

司祭: それでは、葬儀の儀式を始めます。祈祷書(きとうしょ)の365と66ページをお開きください。34行目から52行目まで黙読いたします。なお、都合により、43行目は省略します。どうぞ皆さんも黙読ねがいます。(間)以上、黙読が完了しました。これをもちまして、祈りの儀式は終了です。皆さま、どうぞ、棺(ひつぎ)に花を捧げ、故人に最後のお別れをなさってください。

 

レアティーズ: おい、もう終わりなのか。もっと他に儀式はないのか。レクイエムとか、朗読とか、音楽とか、他にもっとあるはずだ。

 

司祭: 残念ながら、無理なのです。死因に不審な点があり、これ以上は許されないのです。なんといっても、わが宗教が、かたく禁じている自殺の可能性がありますので。国王陛下じきじきのご要請でしたので、私たちとしても、できる限り、好意的に解釈いたしました。どのように考えたのかと申しますと、つまり、オフィーリア様は水に落ちたのではなく、川の水の方が、なぜか、こ~自然~に、こ~盛り上がってきて、オフィーリア様を飲み込んだ結果の溺死と解釈したのです。まあ、容疑者が水の殺人事件といったところでしょうか。

 

ハムレット: え、なんだと、あのオフィーリアが亡くなった!ああ、オフィーリア、愛しのオフィーリア…。

 

レアティーズ: なにを言うか、このくそ坊主!よく憶えておけ。オフィーリアは天国に行って、天使になるのだ。かれんな天使に。おまえの魂は、地獄の炎で、永遠に焼かれつづけるのだ。

 

ガートルード: 落ちついてちょうだい、レアティーズ。オフィーリアのためにも。とりあえず、棺にお花を捧げましょう。(棺に向かって)オフィーリア、ああ、まだ生きているかのようだわ。どうして、こんなふうになってしまったのかしらね。あなたにはハムレットと結婚して、幸せになってほしかったわ。

 

クローディアス: さて、最後に、皆で天国での幸せを祈ろうではないか。

 

レアティーズ: 愛しい妹よ、これでお別れだ。さらば・・・。 (墓堀に向かって)そこの者、さあ、棺に土をかけてくれ。

 

墓堀A: へい、かしこまりましたぁ~。

 

(墓堀たち、棺に土をかけはじめる)

 

レアティーズ: いや、まて、もう一度だ。もう一度、その顔を見せてくれ。(レアティーズ、棺のふたを開ける。)ああ、妹よ、最愛の妹よ、おまえを一人だけで、逝(い)かせることなど、とてもできはしない。おれも、ここで死ぬ。おい、そこの墓堀、棺(ひつぎ)とともに、おれも 一緒に埋めてくれ。すぐにだ。

 

墓堀B: いや~、そう言われましても、ちょっとねえ。

 

レアティーズ: おれはここで死ぬのだ。妹とともに死ぬのだー!

 

(ハムレット、物陰からでてくる。)

 

ハムレット: レアティーズよ、ずいぶん大仰(おおぎょう)に嘆いているではないか。 皆の者、よく聞くがよい、おれこそは、この国の王子ハムレットだ。

 

森の妖精: あれれ、ハムレット様、わりとあっさり再登場してきましたね!でも、どうやって帰ってきたのでしょうか。それが明かされるのは、もうちょっと先のことになります。今回は、場面の途中で、時間切となってしまいました。後半は、次回のお楽しみ!

 

42

 

今回登場する人物

 

クローディアス・・・・・ クマデン王国国王、ハムレットの叔父

ガートルード・・・・・・・ クマデン王国王妃、ハムレットの母

レアティーズ・・・・・・・ ポローニアスの息子

オフィーリア・・・・・・・・ ポローニアスの娘

森の妖精・・・・・・・・・・・・・語り手

 

森の妖精: 大学で勉強を続けるために、国をはなれていたレアティーズのことを皆さん憶えていますよね。オフィーリアのお兄さんです。その彼が、父ポローニアスの死の知らせを聞いて、帰国してきました。不眠不休の強行日程にくわえ、怒りと悲しみのため、かなり興奮してます。悪役クローディアスにだまされないと良いのですが。あ、そうこうするうちに、彼がやって来ました!ものすごい血相です。かなり怒ってますね!

 

(走る足音、だんだん近づいてきて、レアティーズが剣をもって登場

 

レアティーズ: クローディアス、どこにいるんだ。ひきょう者。出てこい、おく病者。軟弱者。職務怠慢、エロ親父!おい、どこにいる!ひきょう者。おくびょう者・・・。

 

クローディアス: もうやめろ。レアティーズよ。頼むからやめてくれ。私はここにいる。目の前にいるではないか。だから、大きな声をだすのはやめて、落ち着くんだ。おまえ、そんなことを叫びながら、城じゅうを駆けまわってきたのか。

 

レアティーズ: (大きな声で)ようやく姿をあらわしたか。このひきょう者・・・。

 

クローディアス: もうよい、やめろといっておるのだ。私は隠れてなどいないではないか。武器ももっていない。だから、おまえも、まずは落ち着いて、その剣を納めたらどうだ。

 

レアティーズ: いや、断じて納めはしないぞ。父の命を奪ったのはおまえだ。ここで会ったが百年目、この場で葬ってやるから、覚悟しろ! 

 

クローディアス: まて、まつんだ、レアティーズ。落ち着けといっておるのだ。私は殺してなどおらん。私はまったくの潔白だ。それだけは正々堂々と主張することができる。

 

レアティーズ: つべこべ言わずに、さっさと懺悔(ざんげ)をするんだ!終わるまでは、生かしておいてやるからな。大体、おまえ以外の誰が悪人だというのだ。おまえが一番の悪人面(ずら)ではないか。だから、犯人はおまえだ。

 

クローディアス: レアティーズよ、人を外見だけで判断してはならぬ。まあ、落ち着け。

 

レアティーズ: いいや、どこからどう見たって、おまえが犯人だ、早く懺悔を終わらせろ!

 

クローディアス: まて、レアティーズよ。話をよく聞くんだ。確かに私の顔は不細工かもしれない。ただ、それは致し方ないことなのだ。それに、見た目と中身は往々にして一致しないものなのではないか。いいか、お前の父上を殺したのは私ではない。真の犯人は、誠に残念ながら、我が息子、イケメンのハムレットなのだ。

 

レアティーズ: おまえは単なる不細工ではない。人相そのものが悪い。内面の悪さが顔ににじみでているのだ。

 

クローディアス: ずいぶんなことを言ってくれるではないか。だが犯人は本当にハムレットなのだ。いいか、私は真実を語っている。この目をしっかりと見てくれ。

 

レアティーズ: 腐った魚のような目だな。ハムレット様は立派なお方だ。

 

クローディアス: おまえは人を外見だけで判断しておる。大学で一体なにを学んできたのだ。確かに、あれもかつては立派な王子であったかもしれん。しかしながら、あいつの身勝手のために、おまえの妹のオフィーリアまでもが苦しんでいるのだ。いいか、全ての悪の根源は、あいつなのだ。おまえの父を殺したのもあいつだ。

 

レアティーズ: では、ハムレットを殺します!おのれ、ハムレットめ、オフィーリアを手玉にとった上に、父まで殺すとは。悪辣非道の悪人め、必ず地獄に落としてやる!

 

クローディアス: (傍白)やっぱりこいつは単純だ。素直で扱いやすくてよい。(レアティーズにむかって)おい、とにかく気持ちを静めるんだ。そして私の話を、最後までよく聞くんだ。

 

レアティーズ: そうですね。まずは気持ちを静めなくては。そして、確実にハムレットを殺すための計画を立てなくては。父の死の知らせを受けて以来、ずっと陛下を殺すことばかりを考えてきました。けれど、もう大丈夫です。今は、陛下を心から信頼し、お言葉に従うことにいたします。

 

クローディアス: 立派な心がけだ。しかし、問題はそのハムレットなのだ。あいつはトラブルメーカーではあるが、国民にとても人気がある。なんといっても、顔が良く、いかにも正義の味方といった雰囲気をしているからな。だから不用意に殺してしまうと、人々の反感をかってしまう可能性があるのだ。おまえの身にも危険がおよぶかもしれない。だから、とりあえず、あいつをクビキリ王国に使者として送ることにしたのだ。(傍白)計画通りに事が進めば、棺桶に入って帰ってくることだろうが、万一の場合にそなえて保険も必要だからな。(レアティーズにむかって)だから復讐は彼が帰国してから、ゆっくりと考えれば良いのではないか。

 

レアティーズ: 確かにそのとおりかもしれません。とりあえずは、仰せの通りにしたがいましょう。しかし、ひとたびハムレットが帰国したならば、即座に殺します!

 

クローディアス: よかろう。天国のポローニアスも、今のおまえの言葉を聞いて、さぞかし喜んでいることだろう。さすがは孝行息子だ。今後は、私を父と思って頼りにしてくれ。ところで、頭の良いおまえのことだから、もう分かっているとは思うが、今話したことは、わが妻ガートルードには秘密にしておいてほしいのだ。あいつは息子のハムレットをとても大切にしているからな。

 

レアティーズ: もちろんです。

 

クローディアス: それから、お前の妹のオフィーリアについてなのだが、はっきり言うと、状態がかなり悪いのだ。ハムレットの身勝手にふりまわされて、ずっと元気がなかったのだが、ポローニアスの死がよほどショックだったらしい。あれ以来、正気を失ってしまい、城のなかを自由気ままに走り回っているのだ。神出鬼没で、なかなかつかまえることができないのだ。今、ガートルードが探しにいっておるところだ。

 

レアティーズ: 噂(うわさ)には聞いていたが、あの、可憐なオフィーリアまでもが、ハムレットの犠牲になってしまったのか。父を殺して妹の正気までを奪うとは、まさに極悪非道の悪人だ。

 

(ガートルード登場)

 

ガートルード: ああ、レアティーズ、来ていたのね。ちょうどよかったわ。オフィーリアがみつかりました。今、こちらに向かっているそうです。ポローニアスの死後、この城のなかを緑豊かな野原だと思い込んで、汚れた服を着替えもせず、あちらこちら駆けまわるようになってしまっているのです。そして、どこで憶えたのかは分からないけれど、意味深長な歌を口ずさむようになってしまいました。あ、やってきました。あちらの扉から。(オフィーリア、狂乱の様子で登場)

 

レアティーズ: ああ、オフィーリア! なんという変わり果てた姿になってしまったのだ。私が留守になどしたのがいけなかったのか。

 

オフィーリア: みなさん、おそろいのようですね。それでは、お待ちかねのお歌をご披露いたしましょう。東洋の美しい娘の悲しい恋の物語でございます。静かに鑑賞してくださいね。

 

レアティーズ: ああ、私のことが分からないのか、久しぶりに帰ってきたというのに。

 

オフィーリア: (歌)東の国のかれんな少女おとめさん。

  今日は、朝から、うきうき、わくわく、どきどきしてる

  あこがれの人から、部屋に招かれて

  行ってはいけぬといさめる、友の言葉にも耳を貸さず

  心を弾ませ、ドアをあけるおとめさん

  喜びあふれて、胸に飛び込む、おとめさん

  求められるままに身を任せる、おとめさん

  でも、部屋からでるときは、ほとけさん

  今はお墓のなかで眠ってる

   心を病んだ殺人鬼、彼は牢屋でこう言った

  おれの言葉など信じなければよかったものを

  ああ、なんて哀れな、おとめさん

  今はお墓のなかで眠ってる

 

レアティーズ: 何という、すさんだ歌詞なのだろう。言葉もでない。

 

オフィーリア: さて、今日は、皆さんにすばらしいプレゼントを用意しました。順番にお配りしますから、静かにお待ちください。ちゃんと全員分あるので、けんかしないで待っててね。横取りもいけませんよ。

 

レアティーズ: 分かった、分かった。そうしよう。

 

オフィーリア: (レアティーズにむかって) それでは、まずお兄様からです。あなたにはローズマリーをさし上げましょう。花言葉は「思い出」です。女の人はたくさんいるかもしれないけれど、私のことも、たまには思い出してね。

 

レアティーズ: ローズマリーの花言葉は合っているではないか。狂気のなかにも正気があるのか。

 

オフィーリア: (クローディアスにむかって) 王様、あなたには消臭剤をあげましょう。新発売です。強力な脱臭効果がさらに高まったそうです。でもすべての臭いを消し去ることはできません。過信は禁物ですからね。

 

クローディアス: (傍白)苦いことを言うではないか。もしかして、こいつも知っているのか。だが、たとえそうであったとしても、あえて口を封じる必要はないだろう。どうせ誰も信じないはずだから。

 

オフィーリア: (ガートルードにむかって)王妃様、あなたには、造花のバラを差し上げます。花言葉は、「偽物の美しさ」。消臭剤といっしょにおトイレにおいてね。それから、アサガオの花も摘んだけれど、お父様が亡くなったときに、枯れてしまいました。かわりに昼顔の花を差し上げます。花言葉は・・・、ご想像にお任せします。皆さん、贈り物は届いたでしょうか。

 

クローディアス: あの清純なオフィーリアの心の底に、こんなにも冷めた眼がひそんでいたとは。人は内面などわからぬものかもしれん。

 

オフィーリア: (やや遠くから)それでは皆さんごきげんよう。さようなら、さようなら。

 

レアティーズ: オフィーリア、待て、待つんだ!

 

オフィーリア: 遅すぎましたの、お兄様、遅すぎましたのよ、どうぞお元気で。(退場)

 

ガートルード: ああ、待って、ちょっと待ってちょうだい。やさしいオフィーリア。(退場)

 

クローディアス: ああ、ガートルード。待つんだ、待ってくれ。(貴族1に向かって)おい、あの2人の後を追うのだ。決して見失うなよ。しっかりと監視するのだぞ。

 

クローディアス: さて、レアティーズよ、もう分かっただろう。私は全くの無実で、おまえの味方だ。分かったら、落ち着いてワインでも飲みながら、おまえの気が収まる道をさぐろうではないか。

 

レアティーズ: 分かりました。父上を殺した上に、妹の人生を台無しにしたハムレットは絶対に許せません。なんとしても殺します。

 

クローディアス: 立派な心がけだ。全面的に応援しよう。心ゆくまで正義の道を歩むがよい。

 

レアティーズ: はい。実は、私、留学先から帰国する途中、高価な毒薬を買ってまいりました。ほんのわずかでも体内に入れば、必ず死に至るという最強の毒薬です。どんな解毒剤も効きません。

 

クローディアス: なるほど。最強の毒薬か。

 

レアティーズ: もともと、この毒は、陛下を殺すつもりで買ってきたものです。しかし、真実が明らかになった今、ハムレットを殺すために使うことにします。

 

クローディアス: なるほど、そうか、そうだな。それが良いだろう。おーい、おい、誰かおらぬか、そこの者、ちょっとのどがかわいた。ワインのおかわりをくれないか。グラスごと新しいワインと交換してくれ。いいか、新品とだぞ。ワインも新しい瓶をあけてくれよ。まあ、それはさておき、重要なのは確実にハムレットに復讐するための計画だ。

 

レアティーズ: あんなやつ、力づくで殺してしまえば、それで済むことではありませんか。

 

クローディアス: いや、レアティーズよ、それほど簡単なことではないのだ。我が妻ガートルードは、息子のハムレットを心から愛している。しかも、私はガートルードなしで生きていけないのだ。彼女を心から愛している。だから偶然の事故としか思えないような方法で殺さねばならないのだ。

 

(ガートルード、悲しみに沈んだ様子で、再び登場)

 

ガートルード: 悲しい知らせがあります。たった今、オフィーリアが亡くなりました。この部屋を出てすぐ、裏の小川に向かい、そのほとりを走りまわっていたそうです。そして、向こう岸に、きれいな花をみつけて、それを摘もうと、身を乗りだしたときに、足をすべらせて、水のなかに落ちてしまったそうです。目撃したものの話によると、しばらくの間は、幸せそうに歌を歌いながら漂っていましたが、ゆっくり水の中へと消えしまったそうです。

 

クローディアス: かわいそうに、なんということだ。ところで、その目撃者は、一体なにをしていたんだ。溺れてしまう前に助けようとは考えなかったか!

 

レアティーズ: いいえ。きっと、あまりの美しさに目を奪われて、身動きすることができなかったのでしょう。妹の命とともに、その苦しみが消えただけでも、良かったと考るしかありません。

 

ガートルード: ああ、やさしいオフィーリアの魂が天国に召されることを願い、今宵は皆で静かに祈りましょう。

 

クローディアス: そうだな。まずは、心のこもった葬儀をあげなくてはいかん。レアティーズよ、すぐに埋葬の準備にとりかかるんだ。おい、誰か、葬儀屋を呼べ。牧師との交渉が必要になるかもしれん。自殺の疑念をかけられたら、埋葬の儀式をおこなってもらえんからな。事故死ということで何とかなるだろう。文句を言われても、強引に押しとおすまでだ。国王の権力でなんとかするさ。さあ、忙しくなるぞ!

 

森の妖精: せっかくお兄さんが帰ってきたのに、オフィーリアが亡くなってしまいました。かなしいですね。それに、クビキリ王国に向かったハムレットはどうなるんでしょうか。主役が不在では劇も盛り上がらないですから。次回も必ずアップするから、待っててね!