41場(その1)

 

今回登場する人物

 

ハムレット・・・・・・・・・・・・クマデン王国の王子

クローディアス・・・・・・・・クマデン王国国王、ハムレットの叔父

ガートルード・・・・・・・・・ クマデン王国王妃、ハムレットの母

レアティーズ・・・・・・・・・ オフィーリアの兄

ホレーシオ・・・・・・・・・・・ ハムレットの親友

墓堀A

墓堀B

従者

 

森の妖精: オフィーリアの埋葬は、内々におこなわれることになったようです。やはり、世間体が気になるのでしょうね。でも、かわいそう。えーと、それから、風のうわさによると、われらがハムレット様が、ひそかに帰国し、どこかに身をひそめているようです。はてさて、場面は、墓地です。お墓があるところですね。愉快な2人が、歌いながら墓穴を掘っています。まさか、ここで・・・。

 

墓堀A: ♫おれたち墓堀、天下の墓堀。

 

墓堀B: ♫ほれ、ほれ、ほれ、ほれ。

 

(以下は、ダーク・ダックス「雪山讃歌」、あるいは童謡「茶摘み」のメロディで。)

 

墓堀A: ♫ 墓よ、墓場よ、ほとけーの宿り 

墓堀B:                      ほれ、ほれ

墓堀A: ♫ おれたちゃー、    

墓堀B:           まだ、

墓堀A:               墓には住めないからに

墓堀B:                              まだ、まだ

墓堀A: ♫ 墓よ、墓場よ、ほとけーの宿り 

墓堀B:                      ほれ、ほれ

墓堀A: ♫ おれたちぁー、     

墓堀B:           まだ、

墓堀A:               墓には住めないからに

墓堀B:                              まだ、まだ

 

墓堀A: 親方、疲れました。 いくら墓場だからっていったって、掘っても、掘っても出てくるのは骨ばっかりじゃないですか。スコップじゃなくて手で放り出した方が早ような気がします。

 

墓堀B: でも、まあ、その骨を埋めたのも俺たちなんだから、文句も言えんだろう。だって、新しい墓を掘るときには、以前に墓があったところを掘り返すんだし、葬儀が終わったら、掘り返した骨をぜんぶ放り込んで、表面をささっと土でおおってすませているんだからな。でも、まあ、神様だって、きっと許してくださるさ。その理由が、おまえに分かるか。

 

墓堀A: そうだな、みんな一緒に埋めれば、さびしくないから?死んだもの同士で、皆の骨がごちゃごちゃに絡み合うのも、ちょっと楽しそうだし。それに、出てきた骨を、こうやって、こうやって、こんな風に並べると、頭が2つ、手が6本、足が12本の人間ができあがる!ねえ、もっと増やすことだって出来ますよ!ほら、とっても楽しいでしょ!

 

墓堀B: まあ、なかなか面白い答えだが、残念ながら、はずれだ。 いいか、よく考えてみろ。もし、死人がでる度に、墓を一つずつ増やしていったら、どうなる? 墓場の面積は広がる一方で、いつの日か、この王国全体がお墓でおおわれてしまうかもしれない。そうなったら、国民はいったいどこに住むのだ。てなわけで、人々が住む領土を守るのがおれたちの役目ってわけよ。まあ、国を守る軍隊のようなものさ。

 

墓堀A: うん、まあ、確かに、理屈の上では、そうだけど。

 

墓堀B: それに、この仕事にだって、いつか終わりがくるさ。たとえば、人間がみーんな死んじまったら、おれたちゃ失業だろ。

 

墓堀A: 確かに、それも、そうかもしれないけど。

 

墓堀B: でも、まあ、おれは、そこまで生きたくはないね。考えてもみろ、もし、酒屋が全部死んでしまったら、酒も飲めないじゃないか。仕事が終わった後のビールは最高だろ。

 

墓堀A: その意見に関しては、賛成~!

 

墓堀B: それに、仕事の最中に飲むビールは、もっと最高だろう。

 

墓堀A: 大賛成~!(口で)パチ、パチ、パチ。

 

墓堀B: 酒のない人生なんて、なんの価値もない。そんなわけで、おれは先に死ぬから、おれの墓穴はお前が掘ってくれ。代金は後払いでよろしく!だが、まあ、それも先の話しだ。さあ仕事、仕事。

 

(ダーク・ダックス「雪山讃歌」、あるいは童謡「茶摘み」のメロディで)

 

墓堀A :♫ 墓よ、墓場よ、ほとけーの宿り 

墓堀B:                      ほれ、ほれ

墓堀A: ♫ おれたちゃー、    

墓堀B:           まだ、

墓堀A:               墓には住めないからに

墓堀B:                              まだ、まだ

墓堀A: ♫ おれたちぁー、     

墓堀B:           まだ、

墓堀A:               墓には住めないからに

墓堀B:                              まだ、ほれ

 

墓堀B: よ~し、休憩だ。 この金でビール買ってこい。

 

墓堀A: がってんだい!行ってきまーす。

 

(ハムレットとホレーシオが舞台奥に登場し墓堀たちの様子をながめている。)

 

ハムレット: (ホレーシオに向かって)ずいぶん陽気な墓堀たちだな。ちょっと話しかけてみよう。(墓堀にむかって)なあ、君、随分楽しそうだね。墓堀って仕事はそんなに面白いのかい。

 

墓堀B: もちろん、おれはこの仕事で、お金を貯めて家を建てました。この墓穴よりちっちゃな家ですがね。それに、一応、女房ももらえました。ちゃんと生きた女房でっせ!だから、世間が言うほど悪い仕事じゃありませんや。

 

ハムレット: なるほど、それはよかった。ところで、その墓は一体誰のものなのだ。

 

墓堀B: え、あっしのですよ。当ったり前じゃないすか、あっしが掘ってんだから。

 

ハムレット: 確かに、今は、おまえのものかもしれない。けれども、私が聞いているのは、この墓に埋葬されるのは、どんな人間なのかということなのだ。

 

墓堀B: 人間? うーん、実は、ここに埋葬されるのは人間じゃないんですよ。

 

ハムレット: では、ペットの犬でも埋葬するのか、最近ではペットの葬儀屋も繁盛していると聞いてはいるが。

 

墓堀B: 動物でもございませんな。だんな、良い教育受けたんでしょ。 頭つかわなきゃ。

 

ハムレット: 人間でも動物でもないのに、墓に葬られるとは、う~む、分からない。

 

墓堀B: 降参ですかい!ちょっと前までは、生きていたので、人間だったんですがね、今は死人となっているので、正解は、元人間です。死人と人間はちがいますからね、へへ。

 

ハムレット: わかた、わかった、で、一体それは、どんなヤツだったのだ。

 

墓堀B: 生きていた時は女性だったので、「ヤツ」という呼び名は、ちょっと違いますね! 

 

ハムレット: あげ足とりがうまいな。

 

墓堀B: おほめにあずかり、光栄でございますな! ちなみに、ここにあるドクロは、連続テレビドラマでおなじみの、織田信長の骨でございます。あの、かんしゃくもちの信長ですよ。ほら、ここの部分の骨のゆがみが、性格のゆがみを示しています。

 

ハムレット: どれ、見せてくれ。(ハムレット、ドクロを受けとり、見つめる。)まさかな、うそだろう。

 

墓堀B: うそですよ。ただその可能性がまったくないとは言えないでしょう。このドクロは答えてくれませんし。こんなふうに、あごを動かすと、カタカタと音はするんですがね。

 

ハムレット: たしかに、君のいうとおりかもしれない。ホレーシオよ、人は死んでしまえば、みな、こんなふうになってしまうのだろうか。 魂は天国にいったとしても、体はこのように土のなかで朽ちはて、塵(ちり)となって、この世界を永遠にただよい続けるのだろうか。

 

ホレーシオ: 話がやや飛躍しているように思われますが。

 

(クローディアス、ガートルード、レアティーズ、司祭、棺をかついだ従者たちが登場する。)

 

ハムレット: まて、誰か来るぞ。棺を運んでいる。葬式だな。こんな真夜中に埋葬するとは、どういうことなのだろう。人に見られたくない、やましい理由でもあるのだろう。隠れて見ていよう。

 

司祭: まずは、棺をお納めください。

 

(従者たち、墓穴のなかに棺をおろしてゆく。) 

 

従者1: ゆっくりと、下ろしてくださーい。オーライ、オーライ、おっと、ストップ。止めてくださーい。

 

レアティーズ: おいおい、ていねいにやってくれよ。

 

従者1: (レアティーズに向かって)もちろんですよ。普段は土建の現場で働いていますが、今日はことのほか慎重にやってます。(仲間に向かって)棺が穴の中心にくるように置いてれよ。そう、まっすぐにね、オッケー、任務完了!撤収!

 

(従者たち退場。)

 

司祭: それでは、葬儀の儀式を始めます。祈祷書(きとうしょ)の365と66ページをお開きください。34行目から52行目まで黙読いたします。なお、都合により、43行目は省略します。どうぞ皆さんも黙読ねがいます。(間)以上、黙読が完了しました。これをもちまして、祈りの儀式は終了です。皆さま、どうぞ、棺(ひつぎ)に花を捧げ、故人に最後のお別れをなさってください。

 

レアティーズ: おい、もう終わりなのか。もっと他に儀式はないのか。レクイエムとか、朗読とか、音楽とか、他にもっとあるはずだ。

 

司祭: 残念ながら、無理なのです。死因に不審な点があり、これ以上は許されないのです。なんといっても、わが宗教が、かたく禁じている自殺の可能性がありますので。国王陛下じきじきのご要請でしたので、私たちとしても、できる限り、好意的に解釈いたしました。どのように考えたのかと申しますと、つまり、オフィーリア様は水に落ちたのではなく、川の水の方が、なぜか、こ~自然~に、こ~盛り上がってきて、オフィーリア様を飲み込んだ結果の溺死と解釈したのです。まあ、容疑者が水の殺人事件といったところでしょうか。

 

ハムレット: え、なんだと、あのオフィーリアが亡くなった!ああ、オフィーリア、愛しのオフィーリア…。

 

レアティーズ: なにを言うか、このくそ坊主!よく憶えておけ。オフィーリアは天国に行って、天使になるのだ。かれんな天使に。おまえの魂は、地獄の炎で、永遠に焼かれつづけるのだ。

 

ガートルード: 落ちついてちょうだい、レアティーズ。オフィーリアのためにも。とりあえず、棺にお花を捧げましょう。(棺に向かって)オフィーリア、ああ、まだ生きているかのようだわ。どうして、こんなふうになってしまったのかしらね。あなたにはハムレットと結婚して、幸せになってほしかったわ。

 

クローディアス: さて、最後に、皆で天国での幸せを祈ろうではないか。

 

レアティーズ: 愛しい妹よ、これでお別れだ。さらば・・・。 (墓堀に向かって)そこの者、さあ、棺に土をかけてくれ。

 

墓堀A: へい、かしこまりましたぁ~。

 

(墓堀たち、棺に土をかけはじめる)

 

レアティーズ: いや、まて、もう一度だ。もう一度、その顔を見せてくれ。(レアティーズ、棺のふたを開ける。)ああ、妹よ、最愛の妹よ、おまえを一人だけで、逝(い)かせることなど、とてもできはしない。おれも、ここで死ぬ。おい、そこの墓堀、棺(ひつぎ)とともに、おれも 一緒に埋めてくれ。すぐにだ。

 

墓堀B: いや~、そう言われましても、ちょっとねえ。

 

レアティーズ: おれはここで死ぬのだ。妹とともに死ぬのだー!

 

(ハムレット、物陰からでてくる。)

 

ハムレット: レアティーズよ、ずいぶん大仰(おおぎょう)に嘆いているではないか。 皆の者、よく聞くがよい、おれこそは、この国の王子ハムレットだ。

 

森の妖精: あれれ、ハムレット様、わりとあっさり再登場してきましたね!でも、どうやって帰ってきたのでしょうか。それが明かされるのは、もうちょっと先のことになります。今回は、場面の途中で、時間切となってしまいました。後半は、次回のお楽しみ!