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今回登場する人物

 

ハムレット・・・・・・・・・・・・クマデン王国の王子

ホレーシオ・・・・・・・・・・・ ハムレットの親友

オズリック・・・・・・・・・・・ 貴族

 

森の妖精(語り手): きのうの晩は大騒動でした。ハムレット様も大荒れでしたね。でも、お城に帰ってきて、ひさしぶりにフカフカのベッドで眠ったせいか、今日は落ちつきをとりもどしています。今は自室でくつろいで、友人のホレーシオと談笑しています。このところ、感情の起伏がはげしくて、私も心配していたんですが、どうやら大丈夫そうですね。ではまた後でおあいしましょう。

 

ホレーシオ:殿下、こんなにも早くご帰国されるとは、考えておりませんでした。どのようにして帰国されたのですか。

 

ハムレット: そうだな、港をでてからは、ちょっとした冒険だった。予想外のできごとの連続で、とてもスリリングだった。このところ、ずっと城にこもりきりだったから、ちょうど良い気晴らしになったよ。

 

ホレーシオ:どのような冒険だったのでしょうか。

 

ハムレット: よくぞ、聞いてくれた!じつは、さっきから話したくてうずうずしていたんだ。いいか、出航してまもなく、おれたちが乗った船は、海賊の一団に襲われたのだ。こっちも頑張って応戦したんだが、あっけなく打ち負かされてしまい、高価な貴重品はすべてうばわれてしまった。しかし、連中はおれが王子であると知ると、とても丁重にあつかってくれた。そして、おれだけを特別に、この国の港にまで、送り届けてくれたのだ。もちろん、たっぷりお礼はしなくてはいけないけれどね。

 

ホレーシオ:海賊のおかげで、はやく帰国することができたなんて皮肉ですね。

 

ハムレット: うん、それに、わがクマデン王国は海に接してないから、なお新鮮な経験だった。しかし、ホレーシオよ、もっと大切なことがあるんだ。君にだけはぜひ知らせておかなければいけない。

 

ホレーシオ:ぜひ、お聞かせください。 

 

ハムレット: じつは、出航してすぐ、おれはローゼンクランツとギルデンスターンの船室にしのび込み、クローディアスがクビキリ王国国王に宛てた手紙を見つけだし、封をあけて読んでみた。そして、その内容に愕然(がくぜん)としたのだ。なんと手紙のなかには、我々がクビキリスル王国に到着し次第、即座に、おれの首をはねよと書かれていたんだ。

 

ホレーシオ:国王陛下が殿下のお命をうばおうとしているのですか。 

 

ハムレット: それ以外は考えられない。もはや万事休すかと思ったが、幸運なことに、部屋のテーブルの上に、たまたま、修正テープとボールペンが置かれていたのだ。そこで、おれは、修正テープで自分の名前を消して、ローゼンクランツとギルデンスターンと書き込んで、元の場所にもどしておいた。文字数が合わずに苦労したが、小さな字で書いたら、なんとかなったよ。

 

ホレーシオ:とすると、ローゼンクランツとギルデンスターンは、どうなったんでしょうか。

 

ハムレット: 今頃はもう、この世にはいないだろう。あいつらは、勝手に首を突っ込んできたんだ。突っ込んだ首を切り落とされても、文句は言えんだろう。それに、今となっては、それも些細な問題にすぎない。これからクローディアスとの対決が始まるのだから。

 

ホレーシオ:対決、とおっしゃいましたか?

 

ハムレット: そうだ。だが、それについては、また後で話すよ。しかし、レアティーズにはすまないことをしてしまった。オフィーリアの死を知って、ついカッとなって、自分を見失ってしまったんだ。俺たちは、愛する父親を失ったという点においては、全く同じ境遇にあるのだ。きちんと謝って仲直りすることにしよう。彼は立派な人間だ。きっと、許してくれるさ。 

 

ホレーシオ:そうだと良いのですが。

 

ハムレット: 思案顔だな、なにか言いたいことがあるのなら、遠慮なく言ってくれ。

 

ホレーシオ:いえ、レアティーズ様のお気持ちはいかがなものかと、心配になりまして。

 

ハムレット: それなら、心配ない。彼は立派な人間だ。きちんと話せば分かってくれるさ。ところで、廊下から足音がする。誰かがやってくるようだ。

 

(オズリック登場。)

 

オズリック: 失礼申し上げます。ハムレッご殿下様、国王陛下様の御伝言をお伝えにまいりました。名はオズリックと申します。殿下に陛下の御伝言をお伝えにまいりました次第であります。

 

ハムレット: (ホレーシオに向かって)初めて見る顔だな。なあホレーシオ、誰だか知っているか?

 

ホレーシオ:会うのは初めてですが、たしか、良家の御曹司で、多額の寄付金を積んで一流大学を卒業したのはいいが、仕事につけなかったため、ワイロを払って宮廷にもぐりこんできたというお坊ちゃんだと思います。原稿がないと、しゃべることができないと聞いております。

 

ハムレット: なるほど。(オズリックに向かって)君、ここなら、どんなうすのろでもやっていけるから、大丈夫だ。安心したまえ。ところで、この私に大切な伝言があるようだね。続けてくれ。

 

オズリック: クビキリスル王国からのご生還、まことにおめでたく、心の底からのお慶びを申し上げる次第でございます。

 

ハムレット: 確かに、君もかなりおめでたいようだね。 

 

オズリック: もちろんでございます。

 

ハムレット: ところで、今日は本当に暑いな。その頭に乗っている帽子はとったほうがいいぞ。少しは涼しくなるだろう。それに頭皮が蒸れると、抜け毛も増えるしな。

 

オズリック: 確かに、大変、暑うございます。お言葉に甘えて、帽子を取らせていただきます。最近、抜け毛も気になりますので。

 

ハムレット: その上着も脱いだらどうだ。今日は、本当に暑いからな。自慢の胸毛がぬけてしまうかもしれないではないか。

 

オズリック: ありがたき、お心遣い、まことに、感謝申し上げます。それでは、上着もとらせていただきます。

 

ハムレット: ついでに、パンツまで脱いだらどうだ。遠慮はいらんぞ。昨日は気温が40度まで上がったとも聞いている。今日も暑くなりそうだから、遠慮はいらんぞ、涼しい方がよかろう、さあ、さあ!それに・・・!

 

オズリック: (さえぎるように)殿下、どうぞ、お気遣いなく、お願い申し上げます。・・・・そもそも私が、ここに参上いたしましたのは、国王陛下のお言葉を、ハムレット殿下にお伝えするためでございます。

 

ハムレット: なるほど。間違えないよう、正確に伝えてくれよ。

 

オズリック: クローディアス陛下は、殿下とレアティーズ様の和解のために、我が国の伝統行事である「当てて外して、一発逆転、クイズで決闘、あなたがチャンピオン」を開催したいそうです。

 

ハムレット: な、なんだと、あの伝説の行事、「当てて外して、一発逆転、クイズで決闘、あなたがチャンピオン」を、ふたたび開催するというのか?

 

オズリック: そうです。あの「当てて外して・・・・・

 

ハムレット: 分かった、もういい。しかし、あの行事は開催しようとすると、かならず大惨事が起こり、多くの死者がでるため、長らく封印されてきたはずだ。その因縁の行事を、また開催しようというのか。迷信深いクローディアスらしくないな。(小声で)それとも、このおれも含めて、じゃま者を一気に始末してしまおうというのか? いや、そこまでは考えておるまい。

 

オズリック: おっしゃるとおりです。まさに、殿下のおっしゃるとおりでございます。

 

ハムレット: え、今の言葉が聞こえたのか? まさかな。

 

オズリック: 国王陛下はお2人が、クイズを通して正々堂々と戦えば、友情がよみがえるのではないかとお考えです。しかも、陛下はハムレット殿下の勝利に、様々なものをお賭けになられております。

 

ハムレット: 「それは何なんだ」と聞けばいいのかな?

 

オズリック: はい、陛下はハムレット殿下の勝利に、豚50頭をお賭けになりました。お勝ちになった場合は盛大な焼き豚パーティを開くそうです。それだけあれば、腹一杯食べることができますよね。私も楽しみにしております。なので、ぜひとも、ハムレット様に勝利していただきたいと願っております。

 

ハムレット: もし、私が 「ちょっと体調がわるので、延期してほしい」、と言ったらどうなる。

 

オズリック: そのようなご返事は想定しておりませんでしたが・・・。

 

ハムレット: そんな返事をもちかえったら、また裂きになってしまう、とでも言いたそうだな。。

 

オズリック: この私、また裂きはちょっと苦手にしておりまして。

 

ハムレット: きみはどうやら新人のようだから、ここで一度、経験しておくのも悪くないと思うが。右半身と左半身を使いわけることこそ、権謀作術の極意だからね。でも、まあいいだろう。国王からのせっかくの申し出だ、ありがたく受けることとしよう。そのように伝えてくれ。もう下がって結構だ。

 

オズリック: ありがとうございます。それでは、これにて失礼存じます。

 

ハムレット: (思索的に)なんだか悪い予感がする。負けそうな気がするんだ。まあ、たとえ負けたとしても、多少の恥をかくにすぎないのだから、べつに困ることはないはずなのだが。それに、毎日、しっかり勉学を続けているから、大負けすることもないとは思う。でも、なぜか、悪い予感がするんだ。

 

ホレーシオ:延期されたらいかがでしょうか。

 

ハムレット: いや、やるよ。もう返事もしたしな。おかしな話だが、今、不意に、裏山で鳴いていたセミのことを思い出した。そのセミは中庭の栗の木の枝にとまって、うるさいほど大きな音で鳴き続けていた。ところが、突然、鳴き止んだかと思ったら、そのまま、コトンと地面に落ちてしまったのだ。しばらくの間は、なんとか飛び上がろうともがいていたが、気づいたら死んでいた。なんてはかない一生なのだと、そのときは思った。だが、今から考えると、あれも、避けがたい運命だったのだ。人は死ぬべきときが来たら、どんなにあがいても無駄なのだ。だから、できることを精一杯やったら、あとは天に身を任せるしかないのだ。今度こそ、迷いが消えた。

 

ホレーシオ:ハムレット様。ずいぶん、投げやりのご様子にみえます。すこしでも不安を感じておられるのであれば、クイズ対決は、延期された方が良いのではありませんか。ご体調がすぐれないので、延期したいと、私が伝えてまいります。

 

ハムレット: 大丈夫だ。心配いらない、むしろ安らかな気持ちなのだ。われわれは自分の意志どおりに行動すれば良い。もし、それで命を落としたとしても、それもまた神の意志ということなのだ。

 

ホレーシオ:ハムレット様、ほんとうに大丈夫なのですか。

 

ハムレット: ああ、なんともない。それより早く準備をしなければ。皆、お待ちかねだろう。いよいよ最後の決戦のはじまりだ。

 

森の妖精: ハムレット様なんだか悟りきったような様子ですね。覚悟はきまったという雰囲気で、いよいよですね。さて、次回はいよいよ最終回!まっててねー!