選手プロモーションと既存のリーグ団体のあり方について。 | 銀玉戦士のアトリエ

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先日の UFC279のメインイベントで、UFC契約最終戦を勝利で飾ったネイト・ディアスでしたが、先週自身がプロモーションする新団体「REAL FIGHT INC」を立ち上げる事を宣言しました。MMAだけでなくボクシング、柔術をフィーチャーした団体になるそうです。

 

ハビブ・ヌルマゴメドフの「EAGLE FC」、ホルヘ・マスヴィタルの「iKON FC」、ユライア・フェイバーの「A1 Combat」など、 ネイトと同じくUFCで名を馳せた有名ファイター達がプロモーターとなって、MMAプロモーションを手掛けるケースが最近ではぼちぼち目立ってきています。

 

「iKON FC」「A1 Combat」はどちらかと言うと自分のジムの若手選手を試合に出して、ゆくゆくはその選手をメジャープロモーションに売り出していく為の興行で、 UFCファイトパスでも放送されています。

 

「EAGLE FC」は元UFCファイターや、ロシア系の無名選手を売り出していくようなスタンスで運営しているようです。フィーダーショー団体と呼ぶには敷居が少し高いプロモーションと言えます。

 

この辺りの選手プロモーションは特に若手選手やUFCからあぶれた選手の活躍の場を提供していくために運営しているような感じがします。

ただコナー・マクレガーやネイト・ディアスのような超スーパースターが自らプロモーションを旗揚げし、そこで自身がビッグマッチを行ってPPVを売っていけば、得られた莫大な利益は自分たちがほとんど総取りできるわけです。

 

 

 

1試合数十億も稼ぐプロボクシングの(ごくごく一部の)トップ選手と比較して、MMA(UFC)ファイターのファイトマネーが少ないという批判が選手側からも出ていて、 UFCとの再契約の交渉に難航している現ヘビー級王者フランシス・ガヌーを筆頭に、 UFCではファイトマネーでゴネる選手がしばし見受けられます。

 

https://nba-japan.com/?p=9876&amp=1

 

ボクシングのサウル・アルバレスが1試合50億。メイウェザーやパッキャオになると1試合数百億。

対してUFCファイターはマクレガー、ヌルマゴで1試合5~6億、当のフランシス・ガヌーは1試合7000万というファイトマネーです(ただ、PPVボーナスやスポンサー料も合わせればガヌーも何だかんだ2億以上は貰っていると思います)。

 

これはUFCの場合だと総勢600人以上の選手と350人以上の従業員を抱えた巨大組織として、毎週のようにコンスタントに興行を開催し、10年20年100年と永続的に団体を維持し続けなければいけないので、USADAによる薬物検査や選手の怪我や病気の治療費の負担、設備投資や海外市場へのプロモーション投資、親会社であるエンデバーや投資家への還元に収入を回さざるを得ない部分があるからです。 UFCも10年以上前と比較すると団体が大きくなって選手のファイトマネーの額も増えていっていますし、他のメジャーMMAプロモーションと比較してもファイトマネーの平均額は一番多いほうではあるのですが、それでもアメリカ4大スポーツやボクシングのトップ選手達と比較すると上には上がいる・・・と羨む選手も多いのでしょう。

 

ファイトマネーの問題の是々非々は選手・団体個々のケースによりけりですし、選手ファーストで有名選手を囲いファイトマネーを釣り上げていった格闘技団体が後に潰れていったというケースはこれまでに数多く見てきました。選手はより多くのファイトマネーを稼いで潤って欲しいという願いはファンとしてもありますが、一方で旧K-1やDREAMの時のように団体そのものが潰れてしまったら元も子もないわけですし、一部スター選手に高額のギャラを払って運営資金がショートしてしまったからといって、ヤバい筋からのマネーロンダリングに手を出してしまったら、それこそTRIGGERが発動してしまいます。

 

なので、いくらUFCと言えども、今後ボクシングの一部トップ選手みたく1試合数十億~数百億円単位のファイトマネーは流石に出せないだろうなというのが見解であります。

スター選手のギャラを大幅に釣り上げてしまうと他の選手からも「俺も、俺も」と不満が出てギャラアップを要求してくるでしょうし、一部のスター選手に富を独占させるんだったら、その分のファイトマネーを中間~下層選手に回してあげたほうが、格闘技一本で稼ぐ選手が増えて業界も活性化していくと思います。

 

そもそもファイターの収入源はファイトマネーだけではなく、スポンサー料やTV・CMといったメディア出演料も含まれるわけです。 UFCで有名になった事でそれらの収入がファイトマネーを軽く上回るというケースは今後多くなってくるでしょうし、 そうなってくるとUFC側としてもスター選手のファイトマネーを無理に大きく釣り上げる必要性はないのです。

 

では、 UFCクラスの超スターMMA選手が1試合数十億、数百億とファイトマネーを稼ぐにはどうしたらいいのかというと、 UFCを離れて自らプロモーションを旗揚げし、そこで自身がビッグマッチを行ってPPVを売っていけば、得られた莫大な利益は自分たちがほとんど総取りできるわけです。

 

UFCでチャンピオンになっても、厳しい競争世界の中で勝ち続けていかなければ王座から陥落し、ランキングも下がり、ファイターの商品価値も下がってゆく。

それはコナー・マクレガーやネイト・ディアスら超人気スター選手と言えども例外ではありません。

そうなると、スター選手が商品価値を維持し続けていくためにはむしろ「試合をしない」ほうが得をするでしょうし、自分の商品価値を保ちつつお金を稼ぐためには、 UFCを離れて自分のプロモーションを旗揚げし、そこで自分とスタイル的に相性の良い相手、実力より話題性重視の相手と試合をして勝ち続けていったほうがよっぽど良いというわけです。

 

もちろん分かる人から見ればそういったマッチメイクはスター選手を勝たせるための「茶番」に見えてくるわけですが、Youtuberのポール兄弟がボクシングマッチを行ってPPV収入を荒稼ぎしているように、世界最強の相手と戦わなくても話題性を獲得して売れればナンボなのもこの業界の特徴です。

 

今後はUFCのみならず、既存のメジャー格闘技団体でスーパースターへと登り詰めた選手が更に荒稼ぎをする「上がり」の舞台として、ネイト・ディアスのREAL FIGHT INCのように個人プロモーションを設立するという流れはチラホラと出てくるんじゃないかなと思っています。日本でも既に朝倉未来が「ブレイキングダウン」という団体を旗揚げしていて、キッズ系の新規ファンを多く獲得している反面、ハードコアなJMMAファンの反感を買っているみたいですが、結局朝倉未来に関してはRIZINの今後の動向に左右されずに賢く金儲けしていくんでしょう。勿論それでボロ儲けできるのは、ごくごく一部の限られたスーパースターのみであるという事だけは言っておきます。

 

 

では、話題性先行のビッグマッチで荒稼ぎをする選手プロモーションばかりが幅を利かせてしまうと、 UFCを始めとする「競技」の舞台を多数の契約選手達に提供し続けている既存の格闘技団体の価値は下がってしまうのか?というと、あくまでもきっちりと選手を契約で縛っておく事が前提であるにしろ、そういう事にはならないと思っています。

 

話題性先行のマッチメイクはあくまでも話題性先行であって、 既存の格闘技プロモーションのように「世界最強」「国内最強」を決めるリーグの文脈とは別物です。団体を離れて個人プロモーションを設立しても大儲けできない選手のほうが大多数ですし、ジョゼ・アルドやドナルド・セローニらのように、UFCで長く戦い続けてそこでキャリアを終えていく事で、独特の魅力を醸し出しているファイターも居ます。

それにネイトもマクレガーもUFCという世界的規模のMMA団体で活躍し名を上げたからこそ現在のネームバリューがあるわけですし、新団体を設立したネイトがUFCへ戻る事を示唆していたように、持ちつ持たれずの関係を保って数年後にUFCでビッグマッチを戦う、という選択肢も考えられるわけです。

 

逆に言えば、既存の格闘技団体の運営を継続させ発展していかなければ、ボクシングのように認定団体が設立されていないMMAや立ち技においては、個人プロモーションの価値もやがて大きく下落してしまうわけです(自分はボクシングのようにタイトルを主要団体が認定して興行は各プロモーションで開催するという方式をMMAや立ち技業界に取り入れるのは反対です。理由はこちら→https://ameblo.jp/fanroad-gindama/entry-12728816304.html)。

 

 

大きく稼ぎたい選手はどうぞご自由に。その流れの中でも既存の格闘技団体に求められてくるのはこれまで通り粛々と運営し、世界最高峰、国内最高峰の頂点を決めるリーグで有り続ける事、これに尽きると思います。