UFC グンナー・ネルソンVSブランドン・ザッチ「置き忘れた『空手道』の精神」 | 銀玉戦士のアトリエ

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🏟UFCウェルター級マッチ(UFC189・2015年7月)🏟

⚪️🇮🇸グンナー・ネルソンVSブランドン・ザッチ🇺🇸⚫️(1R一本勝ち)

 

 

昨日のUFC257でのコナー・マクレガー敗戦を受けて、彼と同時期にSBGアイルランドの門を叩き、同じ釜の飯を食べて共にUFCデビューを果たし、現在もUFCの舞台で戦い続けているグンナー・ネルソンの事を思い出した。

 

ネルソンは14歳から剛柔流空手を習い、国内3連覇を果たした後、17歳でSBGアイルランドを主宰するジョン・カヴァナの下でブラジリアン柔術を始め、柔術の大会で輝かしい戦績を残し、MMAに転向した。

 

2015年7月に開催されたUFC189、メインイベントはコナー・マクレガーとチャド・メンデスによるUFCフェザー級暫定王座決定戦で、マクレガーと同門のネルソンの試合も同大会のメインカードに組まれていた。

 

長身から繰り出される膝蹴りを武器とする危険なストライカー、ブランドン・ザッチを相手に、ネルソンは伝統派空手のステップで素早く懐に踏み込み、全体重を拳に一点集中で乗せた強烈なワンツーを顎に叩き込んでダウンを奪う。

 

崩れ落ちるザッチと共に、雪崩込むようにしてネルソンもグラウンドへと移行し、相手の意識が一瞬飛んだのを余所に、いとも簡単にマウントポジションを取ってしまう。

 

ここからがむしろネルソンの庭だ。

再びサイドポジション→マウントポジションと鮮やかにパスガードに成功すると、アームロックのフェイントを入れた後にバックを取り、パウンドを打つ。

パウンドでザッチのRNCのディフェンスが崩れたところで、ネルソンがワンハンドチョークで締め上げる。

ワンハンドながら締め付けは強烈であり、ザッチは苦悶の表情を浮かべる。

RNCのディフェンスが完全に効かなくなったところで両腕で締め上げ、ザッチをタップさせネルソンは見事な一本勝ちを決めた。

 

空手と柔術。立ち技と寝技の競技をそれぞれ極めたグンナー・ネルソンならではの、武道競技の精神性とMMAとしての合理性を追究した完璧な勝利の試合を改めて観た私は、今のコナー・マクレガーがMMAファイターとして何処かに置き忘れてしまったものがそこにあると感じたのだった。

 

🇮🇸グンナー・ネルソン  フィニッシュ動画🔜https://youtu.be/z7sTeC68ZRo 🇮🇸

 

 

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コナー・マクレガーの半身に構えるスタンスと、伝統派空手のような前後のステップワークは、元々はチームメイトであるグンナー・ネルソンの空手スタイルを参考にしたものである。

マクレガー自身は空手の経験は無い。だが、黒帯空手家であるネルソンの直突きの威力とスピードを体感したマクレガーは、この技術を何とかMMAに採り入れて行こうと試行錯誤していた。

ネルソンの空手スタイルに加え、元々習っていたアマチュアボクシングの技術と、敬愛するブルース・リーのアクションムーブを上手くミックスさせた事により、ボクシングスタイルでも、キックボクシングスタイルでもない、独自のマクレガースタイルを確立していった。

 

その真骨頂こそが、2015年12月に当時UFCフェザー級王者だったジョゼ・アルドを13秒でKOした試合である。

前後のステップでアルドを誘い込み、遠い間合いからアルドが踏み込んでいったところへ、マクレガーが下がりながら左ストレートのカウンターをヒットさせ、一撃でアルドを失神KOさせたあの有名なシーンだ。

 

🇮🇪コナー・マクレガーVSジョゼ・アルド  試合動画🔜https://youtu.be/MLCZ_B7FKc8 🇮🇪

 

試合後のインタビューでマクレガーは「ジョゼ・アルドのパワーとスピードは凄かった。だが、精度はパワーに勝り、タイミングはスピードに勝る」という名言を残した。

 

まさしく「柔よく剛を制する」という言葉を自らの拳で証明したKO劇だった。

 

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その後マクレガーは、ネイト・ディアスとの2度に渡る激闘の後、2016年11月に当時ライト級王者だったエディ・アルバレスを2RTKOで下し、UFC史上初となる2階級同時制覇王者となり、MMA界を飛び越えて世界のスポーツ界のスーパースターの仲間入りを果たした。

 

マクレガーの盟友であるネルソンも、UFC最激戦区と言われているウェルター級で自らの空手と柔術をベースとしたスタイルで結果を残し続け、見事にランキング入りを果たし、先にUFC王者へと登り詰めたマクレガーの後を追おうとしていた。

 

だが、2016年に元柔術世界王者であるディロン・ダニスがマクレガーの柔術コーチに就任し、そのダニス自身も2018年にベラトールでMMAデビューを果たすようになると、マクレガーもダニスと一緒に練習する写真がSNSでアップされ、反対にネルソンと一緒に練習している写真がアップロードされなくなっていった。

 

ディロン・ダニスはマクレガーに触発されたのか、とにかくメディアに向けて勘違いな言動を発する性格であり、2018年のマクレガーの選手バス襲撃事件やヌルマゴメドフ戦の乱闘劇にも関与している。

 

ネルソンは一応SBGアイルランド所属ではあるのだが、この頃から練習拠点はアイスランドにあるミョルニルというジムに移していた。

ネルソンの性格上、彼がバスアタックやヌルマゴ戦後の乱闘劇に関与しているとはとても思えず、推測するにこの頃からマクレガーとネルソンはお互いに距離を置いていたのだろう。

 

階級アップやボクシングスタイルへの傾倒によって、マクレガーのファイトスタイルに伝統派空手の軽やかなステップワークが見られなくなったのも、この頃からだった。

 

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ダスティン・ポイエーVSコナー・マクレガーがメインイベントとして行われたUFC257開催前日、グンナー・ネルソンのinstagramに、マクレガーと一緒にトレーニングしている写真を添えて、彼にエールを送る投稿がアップロードされていた。

ネルソンは現在は髪が短く、この髪の長い彼の姿は過去にマクレガーとトレーニングしていた時の写真であると推測される。

ちなみにマクレガーはネルソンのInstagramをフォローしていない。だが、今でも一応マクレガーの事を気に掛けているのだろうか。

そして、マクレガーがボクシングスタイルに傾倒し過ぎたが故に足下を掬われてしまったダスティン・ポイエー戦での敗北を受けて、盟友であるグンナー・ネルソンは何を思ったのだろう。

 

✨関連記事「UFC257 ダスティン・ポイエーVSコナー・マクレガー  等身大の評価」🔜https://ameblo.jp/fanroad-gindama/entry-12652690773.html  ✨

 

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マニー・パッキャオとのボクシングマッチが事実上消滅した以上、コナー・マクレガーがこれ以上ボクシングスタイルに傾倒する必要は無くなった。

これから彼が這い上がっていくためには「MMAファイター」としての自身のファイトスタイルを再構築していく必要性があるのだが、かつての盟友グンナー・ネルソンの空手+柔術スタイルを再び採り入れる事こそが、再生のヒントにあるように思える。

 

ポイエー戦で効かされてしまったカーフキックも、伝統派空手スタンスの前後のフットワークがあればバックステップで空振りさせるか、当たってもダメージを軽減する事ができ、タックルを合わせてテイクダウンを狙っていくという手段もある。

 

何よりも、鋭い踏み込みからの一撃と、同じ踏み込みのモーションから繰り出されるタックルによるテイクダウンという2択で相手を切り崩していく戦術を身に付けていくだけでも、相手選手にとっては大きな脅威となりうるはずである。

 

グンナー・ネルソンも、UFCウェルター級の上位ランカーの壁を打ち破れず、直近は1勝3敗の成績と崖っぷちだ。

だが、武道家としての独特の色気と、ヴァイオレンスな狂気を内に秘めた彼のスタイルは、このままUFCをリリースされてフェードアウトするには実に惜しい逸材である。

 

だが、再び、マクレガーとネルソンが再び一緒に手を組んで練習するようになれば、両選手は相乗効果で更に強くなれるんじゃないかと自分は思っている。

 

MMAはルールの制限が少ないが故に、勝利への方程式は選手によって様々である。

既存の「型」に囚われず、自由な発想をする事で、心技体揃った柔軟性溢れる自らのファイトスタイルを構築する事が可能となる。

 

UFCで成し得た地位と名誉と富を引き換えに、コナー・マクレガーが何処かに置き忘れてしまった「空手道」の精神を持つべき者は、案外彼の近くに居るのかもしれない。