UFC257 ダスティン・ポイエーVSコナー・マクレガー「等身大の評価」 | 銀玉戦士のアトリエ

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🏟UFCライト級マッチ(UFC257・2021年1月)🏟

⚪️🇺🇸ダスティン・ポイエーVSコナー・マクレガー🇮🇪⚫️(2RTKO)

 

決戦6日前。アブダビ、UFCファイトアイランドの地に、自家用ヨットで家族を引き連れて搭乗したコナー・マクレガーが颯爽と降り立つ。

 

自身のInstagramにアップされたパンプアップされた肉体、Masterpiece(傑作)と自画自賛してのアピール、そしてマニー・パッキャオとのボクシングマッチや、引退を示唆しているハビブ・ヌルマゴメドフとのリマッチという、夢が大きく膨らんだ未来図。

通常、UFCにおいてランカー同士のワンマッチがメインイベントの場合、ナンバリング大会ではなくUFCファイトナイトで行われるのが通例だ。

だが、コナー・マクレガーという選手の圧倒的な存在感、スター性によって、ランカー同士のワンマッチをタイトルマッチ以上のお祭りムードの雰囲気に仕立て上げていた。

 

だが現実は斯くも残酷だった。

2R、ダスティン・ポイエーにカーフキックを効かされ、ケージ際に追い詰められたマクレガー。

ポイエーの右フックを喰らい崩れ落ちた瞬間、ファンの期待は一瞬にして落胆へと変わっていった。。。

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

1年振りの復帰戦を華々しい勝利で飾り、その先にあるビッグマッチへと繋げていきたかったはずだったのが、何故マクレガーはポイエーに敗北を喫してしまったのか。

その原因を分析していきたい。

 

 

まずは、何よりもポイエーが1Rから放っていたカーフキックを効かされていた事だ。

初回からスタンスを広げ、ボクシング寄りの前足(右足)に重心を掛け、自分から前に出てプレッシャーを掛けていったマクレガーに対し、カーフキックという攻撃は有効であるという事は戦前から指摘されていた。

 

それに対してマクレガーは、脛で相手のカーフキックをブロックするカットはしていたものの、いわゆるキックボクシングやムエタイの試合で多く見られる足を上げて脛をブロックするカットではなく、

 

足を上げずに脛を外側に向けるだけのカットだった為、カーフキックを蹴った側(ポイエー)に逆にダメージを与えるカットには至らず、効いてしまっていたという点だ。

 

https://twitter.com/ERICB17s/status/1353276202673295360

 

マクレガーの前足重心のボクシング寄りのスタンス上、後ろ足重心で腰の位置が高い、いわゆるアップライトに構えるムエタイ選手と比較すると、足を上げたカットはしずらいという難点がある。

マクレガー陣営としてもそれを理解した上で、2Rにはポイエーの放ったカーフキック

の蹴り足をキャッチし、そのままケージ際へと押し込む場面が2回あった。

だが試合全体を通して見てみると、マクレガーのパンチの打ち終わりや、パンチを打ち込もうと腰を落とし前足に重心掛かる瞬間といった、カットしずらい瞬間を狙って、ポイエーが上手くカーフキックを当てている。

2R序盤の時点でカーフキックは相当効いていて、喰らったマクレガーが一瞬バランスを崩す場面も見られている。

 

前述の通り、マクレガーがボクシング寄りのスタイルであったからこそ、ポイエー陣営としてはカーフキックを主体に切り崩していく作戦を実行した。

近年、マクレガーは自身のアマチュアボクシング時代のトレーナーであったフィル・サドクリフの元でボクシングトレーニングを積んでおり、今回の試合に向けてのキャンプでもサドクリフが同行していた。

マクレガーがボクシングジムに通い、ボクシングスタイルに偏重していったのは、2017年に行われたフロイド・メイウェザーとのボクシングマッチの敗北を受けてというのもあるが、今回のポイエー戦の後に噂されていたマニー・パッキャオとのボクシングマッチを見据えてのものだったのだろう。

そのボクシングスタイルが、今回のポイエー戦ではカーフキックという技によって見事に足下を掬われてしまった格好になってしまったのだが、マクレガーがこの試合において超絶に進化したボクシングテクニックを披露できたかと言われると、疑問を抱かざるを得ない部分が数多い。

 

 

一応、今回のポイエー戦でマクレガーに見られた進化した部分と言えば、これまでどちらかと言うとフェイントの要素で使う事が多かった右手(前手)のジャブ、飛び込んでのジャブアッパーといった、リードハンドの攻撃が強化された点だろう。

これまで、パンチによる攻撃は一撃必殺の左のカウンターがほぼ生命線だったマクレガーにとっては、右のパンチを強化しバリエーションを増やすという選択はボクシング的には正しいと言える。

パンチの打ち方自体も、ボクシング的な肩を入れた打ち方にはなっていた。

だが問題は、左ストレートを大きく伸ばした後や、ワンツースリーのコンビネーションの後に、上半身の勢いに対して下半身が制御できず、打った後に身体が前につんのめり、次の動作移行のケアが出来ていなかった事だ。

それが如実に現れていたのが2RにマクレガーがKO負けを喰らうきっかけとなった場面で、マクレガーのワンツースリーをケージを背負ったポイエーがスウェイバックとサイドステップで空を切らせた後に、いとも簡単にポジションを入れ替えられ、逆にマクレガーがケージに背負わされたシーンだ。

 

https://twitter.com/streetfitebncho/status/1353253918982205445

 

勿論、これまでのポイエーのカーフキックのダメージの影響というものもかなりあっただろう。

 

マクレガー陣営としてもポイエーがカーフキックを狙ってくるというのは戦前から織り込み済みで、カーフキックを効かされる前にフィジカルで圧力を掛けていって、早い時間帯にパンチで仕留めてやろうというのが作戦だったはずだ。

だが、MMAの打撃の距離はボクシングの打撃の距離よりも遠く、リングよりもオクタゴンのほうが広いので、ボクシングスパーの時のように相手をロープ(ケージ)際に詰めていく事は難しくなってくる。

ゆえに、ボクシングよりも距離が遠くなるMMAのスタンドの攻防において、マクレガーはそれでも倒しに行ってやろうと前のめりで無理にパンチを伸ばしていった結果、打った後に身体が流れて隙が出来てしまったのだろう。

肉体改造による上半身のパンプアップによって、逆にハンドスピードが遅くなっていたのも影響している。

 

9年前、当ブログで「求められる『ボクシング』の違い」というエントリーをアップしていて、https://ameblo.jp/fanroad-gindama/entry-11424903468.html  当時UFCライト級王者だったベンソン・ヘンダーソンと、ボクシング元世界王者であるアンドレ・ウォードのスパーリングパートナーを務める程ボクシングテクニックに定評のあるネイト・ディアスとの一戦を引き合いに出して、ボクシングルールとMMAルールでは求められるボクシングの駆け引きが全く異なるという点について記述している。

 

このエントリーの最後の部分を抜粋すると、ボクシングテクニック習得のためにボクシングジムに出稽古に通う立ち技、MMAファイターは数多い。

正確なフォームでパンチを打つ技術の習得や、本場のボクサーが放つ打撃に目を慣れておく等々、そこで得る要素は確かに大きい。

だが、あまりボクシングに固執し過ぎてしまうと、ルールの違いから、本職の試合の時にそれが足枷になる危険性もあるということだ。

 

 

今回のコナー・マクレガーは、まさにそれに当てはまった格好となってしまったわけだ。

 

逆にダスティン・ポイエー陣営も今回の試合に向けて専属のボクシングトレーナーの下で練習を積んできたが、いわゆる一昔前のような「ボクシングしか知らないボクシングトレーナー」ではなく「MMAの攻防を理解している」ボクシングトレーナーの下、彼の所属チームであるアメリカン・トップチームと一体となって戦術を練り上げていったという。

練習動画を見ていても、マクレガーとは対照的に攻撃⇆防御への動作移行がシームレスな質の高いパットワークをやっていて、試合の中でもマクレガーのパンチを腕を上下させてブロックしたり、右のカウンターを合わせるといった事をやっていた。

マクレガーの左ストレートを喰らう場面はあったものの、ブロックやスウェーで落ち着いて対処しているシーンも多く見られていた。

2R最後のラッシュで仕留めた場面は、ポイエーの進化したMMAボクシングが発揮された場面で、上体で避けるのに固執して腕は構えているだけだったマクレガーに対し、ポイエーはラッシュの途中でワンテンポ置いてから腰を入れて左フックを効かせ、最後は右でダウンを奪い仕留めていった。

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

マクレガーは目の前の対戦相手であるダスティン・ポイエーよりも、その先に予定されていたであろうマニー・パッキャオとのボクシングマッチに目が行っていたせいもあってか、己のボクシングテクニックに過信していたに違いない。

圧倒的なKO率を誇る必殺の左ストレート、フロイド・メイウェザーとのボクシングマッチ、マニー・パッキャオとのボクシングマッチ。

こういった、キャリアの中で構築されていったイメージ像から「MMAにおいてコナー・マクレガーのボクシングテクニックはスペシャルである」という世論が醸成され、マクレガー自身も己を過信していた部分があったはずだ。

だが実際の所、ポイエー戦を見る限りでは前手の攻撃が強化された以外に進化のポイントというのは見られず、逆にコンビネーションとフットワーク、ボディワークとの淀みの無い連動性という部分では、先週試合を行い、カルヴィン・ケイターを相手に「MMAボクシング」で圧倒したマックス・ホロウェイのほうが、遥かに凄味を見せていた。

 

マックス・ホロウェイも、ダスティン・ポイエーも、いずれも7、8年前にマクレガーがUFCで下した相手だ。

その後彼らは、UFCという競争社会のピラミッドの中で戦い続け、途中で苦い敗北を味わいながらも自己を研鑽し続けてMMAファイターとして進化し、ホロウェイはフェザー級王者に、ポイエーはライト級暫定王者にまで登り詰めた。

そして王座から陥落した現在でも、ベルトを諦めずに強さを追い求め、UFCの舞台で戦い続けている。

一方、MMA界のスーパースターとして君臨し、地位も名誉も富も満たされていった裏で、素行不良、引退騒動と途中で横道が逸れて迷走していったコナー・マクレガー。

7年越しの両者の再戦の結果はまさしく、MMAというスポーツとこれまでいかに真摯に向き合えたかという両者の意識の差が、如実に現れたと言えよう。

ちなみに、今回のポイエー戦の出来を見る限り、仮にマクレガーがパッキャオとのボクシングマッチをやっていたら悲惨な結果に終わっていたという事も付け加えておく。

 

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

 

マクレガーが試合後に自身の敗北を真摯に受け入れ、対戦相手であるポイエーを讃え、前向きになっていたのが何よりも救いだった。

インタビューでは定期的に試合を行うと宣言しており、試合をしないとこの業界では生き残っていけないと語っていた。

現在進行形で進化が著しいMMAというスポーツは、当然の事ながら片手間では通用しない。

今回のダスティン・ポイエー戦は、これまで何とか危うさを抱えながらも維持してきた「ミスティック・マック」の魔法が解けて、コナー・マクレガーという選手の等身大の評価が下された試合であったと言えよう。

マクレガーも既に32歳という年齢であり、UFCライト級のトップランカー争いもそうだが、アーマン・ツァルキアン、ラファエル・フィジエフ、ナスラット・ハクパラストらプロスペクトファイターらの突き上げもこれから激しさを増してくる。

 

 

コナー・マクレガーは今回の敗北を踏まえた上で、どのようにして自身の「MMA」スタイルを再構築し、「MMAファイター」像を築き上げていくのか。

彼が「MMAファイター」として更なる進化を遂げる事で、「MMA」というジャンルのステータスをまた一つ押し上げる事にも繋がってゆく。

 

ここから這い上がるためには、もう寄り道をしている暇などない。

ただ走り続けていくのみだ。