UFC ローリー・マクドナルドVSステファン・トンプソン 感想 | 銀玉戦士のアトリエ

銀玉戦士のアトリエ

一応UFC、MMA、海外キックを語るブログ。ゆるーく家庭菜園や食べ物エントリーもあります。

Instagram ID:notoriousginchang

☆関連記事・・・UFC  ローリー・マクドナルドVSステファン・トンプソン  展望


左手を伸ばし、右手のガードを顎の位置に常に置き、自分のリードジャブが当たる位置よりも少し遠い間合いをキープしていたローリー・マクドナルドからは、ステファン・トンプソンの打撃を最大限に警戒している様子が伺えた。

空手仕込みのトンプソンの踏み込みは鋭く、伸びのある突きは正確に急所を居抜いてくる。おまけに蹴りとのコンビネーションは、いわゆるオランダ式対角線コンビネーションとは違う角度、タイミングで放ってくる。

ローリーとしては、トンプソンの打撃の脅威はトライスタージムで共に練習していた頃から肌に感じていただろうし、ジョニー・ヘンドリックスやロバート・ウィテカーをKOした映像からも見て取れる事だ。






1R序盤、ローリーはスライディングからトンプソンの足を取り、足関節を仕掛ける奇襲攻撃に出る。
解説のケニー・フロリアンが『イマナリ・ムーブ』と形容する。
足関は即座に解かれてしまうものの、相手に下からの攻撃への意識も持たせるという意味では悪くないチョイスだ。

だが、肝心のスタンドの組み立てで固さが見られていた。
いつもならばテンポよくリードジャブを繰り出しているはずのローリーだが、今回に限っては手数が少ない。
リーチの長いトンプソンの打撃に対し、あまりにも神経質になり過ぎていたが故に、気持ちが守りに入ってしまっていたのだ。


2R、ローリーは再びスライディングからの足関節を仕掛けようとする。
だが意表を突いた攻めも繰り返されると流石に相手に見破られてしまう。

ならばとローリーは正攻法でタックルを仕掛ける。
シングルレッグを取るが、フェイントの無い、ロングレンジからの不用意なタックルには、流石にトンプソンも即座に反応して対処を見せる。ローリーはトンプソンをケージまで押し付けるが、金網を背にしたトンプソンはローリーの顎をかち上げ、彼の重心を上げさせてシングルレッグを解く。
TD出来ないと見るや、ローリーは離れ際に左のエルボーを放ち、スタンドへと戻る。


試合全体の流れを後で振り返ってみると、このTDの攻防が大きなターニングポイントのように思えた。
イマナリ・ムーブでもそうだが、トップレスラーでもない限り、それまでの打撃の伏線が無い、いきなりのタックルは、TDディフェンスが高度化した現代MMAではあまり通用しない。
仕掛けるのであれば、それまでに打撃・・・特に、ジャブを執拗に当てていくべきだった。冷徹なスタンドの組み立てが印象的だった、タイロン・ウッドリー戦やタレック・サフィジーヌ戦の時のように。





プランBであるグラウンドという手段を封じられたローリーは、必然的にトンプソンの土俵であるスタンド勝負に行かざるを得なくなってしまう。
ロングレンジではローリーはあまり手が出せず、反対にトンプソンはコンパクトなサイドキックやミドルキックで確実にポイントを取る。
ならば、間合いを詰めるしか方法はない。


3Rから、両者の距離が明らかに近くなる。
ローリーは脇を絞り、ガードを上段に小さく構え、トンプソンの打撃に備える。
だが、ブロック中心の攻防分離スタイルはパンチを放つのにもタイムラグが生じてしまう。
手数の少なさから、1、2Rはトンプソンにポイントが振り分けられている。
テイクダウンも封じられ、打撃で倒すしかないという意識からか、パンチに力みが見られ、打った後に身体が居着いてしまっている。
ローリーの左右のフックが顔面を捉える場面もあったが、それ以上にフットワークと連動したトンプソンのパンチが、ローリーの鼻の辺りを中心にパチン、パチンとヒットする。
前回のロビー・ローラー戦で鼻骨が折れた以来、ローリーの鼻は練習でも折れやすくなっていたようだ。
トンプソン陣営はそこにウィークポイントを定め、執拗にパンチを当てていった。


ローリーの近距離におけるディフェンスに柔軟性が欠けていたのも気になった。
まるでオランダのキックボクサーを彷彿とさせるブロック主体のディフェンスでトンプソンの打撃を防ごうとしていたが、キックボクシングと違い、面積の狭いOFGではガードの隙間からパンチが入りやすくなる。
MMAはボクシングやキックボクシングよりも遠い間合いで戦う事が多いので、特にローリーのような元々のバックボーンを持たない選手は、接近戦で打ち合うという経験が疎かになり、ヘッドムーブやウィービング、パーリングといった臨機応変なディフェンスの技術を身に付けずらくなってしまう。
その点、元々キックボクサーだったトンプソンのほうが、近距離の打撃戦においては一枚も二枚も上手だ。


5R、両者は打ち合いの距離になり、ローリーのパンチも当たるのだが、トンプソンのフットワークはまだまだ軽やかだ。ローリーは単打で当てただけで、致命傷を与えるまでには到らない。
それ以上に、これまでのトンプソンの打撃の蓄積によるダメージのほうが深い。

苦し紛れの最後のテイクダウンもトンプソンに簡単に脇を差され、反対にトップを奪われて、サイドボジションで肘を顔面に当てられる。

トンプソンのハイキックをガードしたローリーが突如後退する。
気持ちが折れそうになりながらも何とか踏み留まり、更にガードをがっちりと固めて、血塗れの顔面を覆いながらも前へと歩を進ませる。
だが、彼に残された時間はもう僅かしか無かった。

判定は三者フルマーク、ステファン・トンプソンに手が挙がる。
ローリーの勇姿を心待ちにしていた地元カナダの観客は、彼の消極的なファイトにブーイングを浴びせながら会場を後にしていった。





識者からは、トンプソンがローリーを巧く完封したという意見が多い。
確かにその側面はある。
だが私はむしろ、ローリーが自滅したが故の敗戦に思えてならなかった。

MMAはとにかくやる事が多いスポーツだ。
故に、全ての弱点を穴埋めするというのは難しい。
だが、ローリーが尊敬してやまないカナダの雄、ジョルジュ・サンピエールならば、トンプソン相手にどのようなファイトを披露していただろうか。
恐らく初回からリードジャブをテンポ良く放ち、ローキックも交え、シングルレッグを取ってからは金網際でTDを決め、そこから得意のグラウンドワークでじっくりと料理するはずだ。
ローリーは今回、モチベーションやブランクの問題もあったのかもしれないだろうが、この差が、GSPとの違い、そして、UFC王座を掴む者と掴めない者との決定的な違いである。

ローリー・マクドナルドはフリーエージェントを宣言しており、契約次第ではBellatorへの移籍も検討しているという。
しかしBellatorウェルター級も、王者アンドレイ・コレシュコフを筆頭に、ダグラス・リマ、マイケル・ペイジと、打撃巧者でTDディフェンスに優れたタレントが揃っている。
生半可な気持ちで移籍したら痛い目に遭うという事だけは釘を刺して言っておこう(どうかUFCに残留してくれ)。



世代交代はやはり難しい。
GSPへの道のりは遠い。