昔から「金魚の病気には塩」と、まるで万能薬のように流布され、どんな飼育本にも高濃度の塩水浴が推奨されています。
そのくせ、適切な実施手順というものが兎角抜けがち、というか、控えめに申しても見当たらず、徒に魚を傷めつけるような情報が流布されてしまっているように見受けられます。
今回、塩のお話しを当研究所でさせていただきますが、勿論これが全て正しいということでは御座いません。
普遍的に一番害が出にくい方法としての手順となります。
つまり、今回は(なるべく)安全に塩水浴を実施する為の幾つかの手順についての覚え書きとさせていただきます。
私共は塩水浴は積極的に推奨していません。
それは、
1)PHを短時間に急変動させ(炎症系疾病の悪化)
2)溶存酸素量を低くしてしまい(酸欠から鰓病が発生)
3)アンモニアの発生リスクを高くし(水質悪化によるダメージ)
4)貧血個体については腎臓を傷めるリスクを高め(魚体への不可逆な損傷)
5)表皮粘膜を痛めることにより、更なる感染リスクをもたらしかねない
上記理由によります。
しかしながら、やむを得ず実施せざるを得ない状況も確かに存在しております。
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【準備するもの】
① PH試験紙
※塩が入った場合、電気式だと異常な誤差が出る可能性があるので、可能であれば試験紙が良いです。
※費用対効果を最重要視して選定してください。PHは頻回で検査します。なので、極力安価に極力大量入手できるものがあればより良いです。
② 亜硝酸/アンモニアの検出が出来るもの
※ロットにより誤差が激しく、その上長期間保管すると劣化するので、あまり大量に入っているものは不要です。
①も②も存在しない状況で塩水浴を実施することは非常にリスキーです。
費用的に用意が困難な場合は、PH試験紙だけは必ず用意するようにしてください。
③ 条件を満たした塩
a)添加物が無いこと
b)電気的精製をした塩ではないこと(塩化ナトリウム99.9%)
c)海塩の場合は天日原塩等、にがりが入った状態のものであること
d)可能な限り粒が大きいこと。理想的にはブロック状であること
e)岩塩の場合は黒岩塩でないこと(黒岩塩には硫黄が入るのでNGです)
この3点になります。
【手順】
①実施する前のPH/亜硝酸・アンモニアの測定
→これはどこかにメモするなり、必ず保管をしておいてください。
②ヒーターを使っている場合は、1日1℃を限界値として、最低でも2℃は温度設定を下げてください。
→塩が入るとそれだけで酸素が減ります。その対策として、温度を下げます。
③目的の%から、使う塩の量を算出します。
(水槽のリットル数)×(目的のパーセント数)×10=使う塩のグラム数
※式の中でリットル数に1000を掛けて、パーセントの所で100で割るので1000÷100=10、となります。
例)50リットルの水槽で0.3%塩水浴を行う場合、
50×0.3×10=150グラム
これが必要な塩の量です。
④塩の溶解
→なるべく長い時間をかけて溶解させることが大切です。
塩の投入場所は、魚が泳いでいる水槽にじかに入れてください。
上部・外掛け式濾過の場合、濾過槽に塩を入れようとする方が少なからずいらっしゃいますが、絶対にやってはいけません。濾過バクテリアが激しいダメージを受けてしまいます。
投げ込み式濾過の場合は、本体から一番離れた場所に塩の塊が入るようにしてください。
いずれの方式にせよ、濾過バクテリアにはダメージが出る前提で塩浴は行わなければなりません。
ブロック状の岩塩が効力を発揮するのはこの点に尽きます。
海塩と比較すると岩塩の方が結晶の密度が高く、水に溶解しにくいものです。その上大きなブロックの岩塩は全溶解まで時間がかかります。
所謂天日原塩等、粒子が粗い程度の原塩である場合は、何回かに分けて溶解を試みます。
とにかく、最短でも半日はかけて溶解させることが理想です。
※無論、疾病の種類や魚のバイタルにも左右されます。
⑤PHの測定(2回目)
塩が溶解しきったら、PHを測定してください。その時、1回目(入れる前)とどの程度差がついてしまったか、必ずメモをしてください。
魚の状態が入れる前より明らかに悪化している場合、PHの差がつきすぎてしまっている可能性が考えられます。(PHショック)
そのようなPHショックは、殆どの場合はゆっくり溶解を行えば起こりにくいのですが、万一そのような場合は真水で割ってPHを戻してください。これは早ければ早いほど助かる可能性が高くなります。なので、1回目と2回目のPH計測は重要です。
⑥PHの測定(3回目以降)
投入から1日以上が経過し、少し水の色は白っぽく見えるかもしれません。
魚の具合が投入時より段々時間毎に悪くなってきたり、水の表面に粘膜剥離による泡立ちが激しく起こっていたり、水のにおいが悪くなった場合は、水質悪化の指標としてのPH測定を行います。
汚染物質は概ね酸性なので、2回目のPHより不自然な下がり方をしている場合、アンモニア・亜硝酸が出ている可能性は多分に御座います。その場合は合わせて水質検査を行い、明らかに汚染物質が出ている場合は水換えをします。
⑦水換えの塩は先溶解
ここを間違えると大変なことになります。
よく真水を足して水槽内に不足した塩を直接入れる方がいらっしゃいますが、そういう操作をされた飼育水のPHや塩分濃度はめちゃくちゃな乱高下をきたし、健康な魚でさえ具合が悪くなることがあります。
やりかたとしては、先の式を使って、足す水の量に相当する塩の量を割り出します。
この塩は先に足し水に入れて溶解させきってください。
病気の魚は非常にシビアで少しの衝撃で不可逆な転帰を辿る場合がございます。
人間があれこれ弄ることでストレスを与えると、その為にマイナスポイントがつき、悪化させているのだとご理解ください。
勿論、塩を溶解させた水は一気に水槽に追加せず(塩分濃度があっていてもPHが高いので)徐々に追加するようにしたほうが無難です。
⑧PHの測定(水換え後)
異常に上がりすぎていない確認をします。汚れた水を交換すると、じんわりとPHは上がります。(ここで下がっているとおかしいです)
換水前後のPHは、自家用指標として必ずメモをしておき、後で参照できるようにしてください。
概ねこのステップとなります。
冒頭でも申した通り、安易な塩水浴自体、私どもは推奨しておりません。
しかし、貧血を起こしている魚の貧血緩和や浸透圧補助のため、やむを得ず行う場合は御座います。
過去には幾度も%を替え、セオリー通り塩水浴はやり尽くしました。(お客様もこれはご記憶されているものと存じます)
しかしながら疾病の難易度が近年飛躍的に上がり、塩水浴は効能よりも弊害の方が目立つようになって参りました。
過去を振り返ってみても、その生存率は散々たるものであり、塩水でどうにかできるような状況では今やないと判断せざるを得ません。
ですが、何にせよ安価に済む方法ですので、お試しになる方は必ず手順を守ったうえで実施されることを強くお勧め致します。
文責:水棲疾病基盤研究所