お客様から塩水浴についてお尋ねがありましたので、ご返信を差し上げたのですが、

知りたいと思われる方も多いかもしれないと思い、

良い機会なのでブログ記事とさせていただきます。

※ご返信内容に一部書き足しております。

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昔から、金魚の塩水浴は、病中病後の管理に効果的ということが言われておりました。
これは「浸透圧補助」の役割を持つためです。
昔から経験側として言われていたことは、

0.3~0.5%程度、瞬間浴としては1%程度というものまでありました。

しかし、この目的の場合、弊店の推奨する濃度は

0.03~0.3%、がゾーンとなります。
 
浸透圧調整、についてです。
お風呂やプール等で、長時間浸かっていると手の指がふやけてシワシワになる現象が発生します。
淡水は、人体等、血液やリンパ液を持つ動物の体には際限なく侵入をしてくるものです。
簡単に言うと、細胞中には塩分が入った水が多く入っています。
動物の細胞には「浸透圧を等しくする」働きがあり、周囲を真水に囲まれると、その真水を取り込んで中身を薄めようとする動作をします。
つまり、水は低濃度から高濃度のほうへと強制的に引きずり込まれます
その結果、細胞が周囲の水を吸って部分的に膨張し、手の指がシワシワになる現象となります。
特に毛細血管が多い指先には、体内で高濃度の塩分が集まっているので、短時間に水の引き込みが発生し、指先のシワシワが頻発します。
 
基本的に淡水魚は飲水することはありません。
周囲を淡水に囲まれているわけで、24H365日、彼らの細胞には常に水が浸入します。
その為、淡水魚は、「排水すること」に特化したグループの魚類となります。
内臓として、排水の担当は、腎臓・肝臓系統となります。
この部分に故障が発生すると、全身水浸しになり、水を吸って膨張した細胞がまともに働く訳もなく、多臓器不全や腹水が発生致します。
腎臓・肝臓系統の排水する働きを、「浸透圧調整」といいます。
 
話を金魚に戻します。
病中病後の管理に塩水浴が良い、と言われる所以はまさにこの部分です。
ようは、
周囲が真水であるので大量の水が入ってきてしまい、
排水の為に内臓がフル回転し、
余計なエネルギーを浪費してしまうので、
入りにくくしてやれば良い。

という考え方です。
これ自体は良い考え方で、水が入りにくくするための資材を「100% 塩化ナトリウム」に限定しなければ、無尽蔵に応用可能なものになります。
例えば、硬水飼育などは、事故が発生しにくく予後も良いものです。
それでは、何故「塩化ナトリウム」に限定することを避けたほうが良いのか?という話になります。
http://ameblo.jp/fairlady-sp310/entry-12250855369.html
こちらのコメント欄のご返信で、Na+の動作特性についてご説明をしておりますので、宜しければご参照ください。
天日原塩は、海塩由来のものになりますので、岩塩(所謂ピンク系や赤系)よりもNa+の濃度が格段に高くなります。
陸上由来の塩の方がミネラルの種類が多く、Na+は少なくなります。
例えば、埼玉の有名生産者の池では、海塩を避けて岩塩のみにしたところ、格段にコンディションが上がった、という話を10年近く前にご本人から聞きました。
価格が高いので今はどうかわかりませんが、天日原塩は過度に使用をしすぎた場合に、ナトリウム過剰のリスクもあるものなので、その点ご承知ください。
 
次に0.03~0.3%にとどめる理由です。
状況にもよりますが、金魚の血液中の塩分濃度は、0.9%前後、と言われます。
何故「前後」と言われるのかというと、
体力が低下して内臓機能が落ちた個体は、排水能力が低下していますから、塩分濃度はかなり下がります。

※昔、0.6%という説がありましたが、あれは採血された個体達の具合がかなり悪かったせいではないかと思われます。

1/3程度(0.3%)まで下がると酸欠で斃死に至るのでこれは無いとしても、
1/2程度(0.45%前後)まで下がる状況は十分に「あり得ます」
こんなに薄まってしまったら、
魚はフラフラになり、酸欠で鼻上げをして、視覚聴覚にも異常をきたし、水槽を叩いても反応がなくなるものですが、
そういう魚は問屋や大規模小売等に行けば見つからないほうが珍しいぐらいです。
おそらく、皆様も一度ならず御覧になってしまっているものと存じます。
逆に体力旺盛で健全に内臓が機能している個体は、血液中の塩分濃度が上がります。

余談ですが、塩水浴で治る「鰓病」というのは、
大抵の場合、排水能力の低下に伴う「酸欠」を指します。
入ってくる量が減れば、排水は楽になるので、血液濃度は一時的には回復し、酸欠は解消もしくは緩和されたように見えることもありますが、
根本的な原因を放置したままなので、それは予後としては疑問符が残る結果となります。

 
浸透圧調整のために、気を使って水中に塩を入れた場合、
当然、入ってくる水の量が少なくなるので、金魚は楽になります。
しかし、入ってこなさすぎた場合、起こることは、腎臓のダメージです。
元々、彼らの血液は非常に濃く、外部から水が浸入してくることが前提で体の全てが構成されています。
そこに突然、流入が途絶えてしまうと、イメージとしては血液がドロドロになり、腎臓で濾過ができなくなります。
できないだけならば良いのですが、大抵の場合、腎臓の細胞は壊れます
腎臓は不可逆の組織といわれ、ダメージを受けた場合、回復することは先ず「ありません」
つまり、残存した細胞が果てしなく過重労働に耐えて、余計に沢山の排水を負担しなければならくなります。
 
生体の細胞膜の持つ「浸透圧」に関する性質にこれを引き起こす原因があります。
本来の動作を補助する目的で使用する場合、内部の濃度の半分程度より高濃度のものに晒すと、
細胞膜の機能自体が間欠的になったり効率が極度に低下することが知られております。
簡単に言うと、
血液濃度:0.9%のとき、0.5%→OK…?悪くはありませんが、更にもう0.1%程度低いと良いです。
血液濃度:0.45%のとき、0.5%→NG!絶対にダメです!
 
0.03~0.3%にとどめていただきたいというのは、この部分によります。
基本的な「指標」として数値を設定する場合、あらゆる想定が必要です。
例外は例外として置いておき、普遍的に、安全に実施できるものを考えなければなりません。
これは絶対安全領域としてのゾーン設定なので、個々の事例、特に何らかの疾病治療中であれば、この濃度を上回る状況はあり得ます。
ですが、現時点で疾病が確認できず、疲労を回復させたい等、
「なんとなく元気が無い」所謂貧血&酸欠気味の個体であるならば、血液の塩分濃度が低下している兆候であるかもしれません。
一番飼い主様の病識として多い「なんとなく元気が無い」この段階で、
「もしかすれば血液濃度とほぼ同じ程度」の塩水浴はトドメの一撃になる可能性すらあります。

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濃度差で勝手に移動してしまう「水分」の問題だけにクローズアップして書いてみました。
鰓の「塩基細胞」という箇所で更に勝手に移動してしまう「イオン」の話まで含めると、もう収拾がつかなくなるので、この場は割愛させていただきます。
この水分の要素だけでも、塩水浴は慎重に行わなければならない、もしくは低濃度でブレーキをかけるべき、という結論としてご理解を戴けるかと存じます。

即ち、弊店が塩を乱発するべきではない、と。そして天日原塩(海塩)の販売を廃止したこと、この2点の理由についてもご理解が戴けるものと存じます。
塩基細胞の件については、また後日にアップさせていただきます。

 

追記:

311の原発事故の放射性物質が淡水魚の中でどう動作して排泄されるのか、金魚の浸透圧特性を研究して解明しようとしている方々もいらっしゃいます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/swsj/69/4/69_238/_pdf

これは東京電力によってばら撒かれたセシウムが自然界でどう移動していくのか知る為の研究です。

これらは常々私どもが言っていたこととほぼ同義ととらえていただいて構いません。

切り口として非常に斬新な研究で、

淡水魚・汽水魚・海水魚で浸透圧調整を一元化して比較する、というものになります。

少なくとも水産系の先生のお書きになったもので、この3種を同一線上で比較対照したものは、良くも悪くも、私ども、初めて拝見いたしました。(民間を除く)

色々ムズムズと言いたいことがあるのですが、鱒屋シリーズではないので黙ります。

(因みに本日水温21.7℃、前日18.3℃。激しい乱高下にもかかわらず、アマゴ・イワナは元気です。この個体達高温飼育実験で2年目に突入ですが、水槽内産卵に向けて大きく出たいと思います)

何はともあれ、水産系学者が放射性物質について本気で云々語り始めたのは良い傾向です。

お時間のある方はご参照ください。