今年に入ってから桜の季節まで、
「ヨウ素デンプン反応」の実験を断続的に行なっていた。
それは化学反応を利用して、
植物の生成するデンプンを可視化するシンプルな実験。
ネット上に情報は溢れているので、
検索すればいくらでも紹介されている。
→ http://www2.tokai.or.jp/seed/seed/minna13.htm
→ http://portal.nifty.com/special03/08/01/
この原理を応用して
植物の葉に人物像を焼き付ける実験は思いの他難しく、
春先まで全く結果が出なかった。
小学校の理科の授業にも採用されている実験だからと、
少し甘く見ていたのかもしれない。
あるいは、庭に生えている数少ない冬の常緑の植物が、
この実験に合わなかったのかもしれない。
やっと成功したのは、
新緑の5月、成長を始めたドクダミの葉が最初だった。
だが、この実験には大きな欠点がある。
葉の脱色のために、エチルアルコールや漂白剤を温める工程があり、
高機能のマスクでも使用しない限り、揮発した成分を吸い込むことになる。
長時間の作業になれば、身体に悪いのは目に見えている。
それに、一連の作業は植物に対して、
薬品を使って強引に意思通りにねじ伏せようとする感が否めない。
ヨウ素デンプン反応を検討しつつ、他の方法を模索していた中、
トウネズミモチの葉に不思議な現象が起きはじめた。
加工したフィルムを貼り付けた葉を日光に当てただけで、
うっすらと人物像が浮かび上がり、次の日には見えなくなってしまった。
ヨウ素デンプン反応の場合、ネガフィルムからポジの像が得られる。
この現象は、ネガフィルムからネガの像が現れた。
やがて、同じことがドクダミと蔓日日草でも確認できた。
日照時間や陽射しの強さの変化によるものか、
あるいは植物そのものが季節により葉の組成を変えるのか、
それともその両方なのか?
フィルムの加工を工夫しながら、庭の様々な植物で実験する中で、
ヨウ素デンプン反応によらず、葉の上に人物像を浮かび上がらせる方法が、
少しずつはっきり見えてきた。
http://www.monohouse.org/yamanami/
同じ5月、かがわ山なみ芸術祭まんのう町エリアの視察会が行われた。
私が展示するのは、今年の3月に廃校となった琴南中学校、
2Fの英語科教室に決まった。
この芸術祭は、5つのエリアで会期をずらして行なわれる。
様々な施設が展示会場になる中で、全エリア合わせて廃校は5ヶ所ある。
私が視察で訪れることができたのはそのうち3ヶ所。
「学校」という施設に足を踏み入れたのは久しぶりだったが、
子どもの頃、放課後に忘れ物を取りに戻った教室の、
誰もいないガランとした空虚な感覚を思い出した。
耐震補強のための筋交いのがっしりした工事の跡が、
そんな空虚感を増幅しているようだった。
琴南中学校では、廃校直前に「源流」という冊子が発行されている。
読んでみると、先生や生徒たちの学校での経験や思いが綴られている。
そこには日ごろニュースとして耳に入ってくる少子化という問題が、
個人の日常の経験として、感情を伴って綴られていた。
「残念ながらこの度、閉校ということで琴南中学校の幕は下りてしまいますが、
これまでの伝統を継承しつつ、新たな歴史を刻んでほしいと思います。」
(「源流」卒業生の寄稿文より)
新たな歴史を刻んでほしい…学校OBの一人が、
寄稿文の最後をそう結んでいる。
廃校後の初めてのイベントであるこの芸術祭自体が、
その「新たな歴史」の1ペ-ジ目になるのではないか?
琴南中が閉校に至る過程と、この国を覆う少子化の問題、
子供のいない私が、今この場所で作品を展示するということ、
これらは別々の現象ではなく、全て必然的に結びついているのだろう。
私の手元に、3冊の古いアルバムがある。
両親の遺影を探す時に押入れの奥から見つけたものだ。
そこには、若い祖父母と一緒に見知らぬ縁者達が写っている。
私がこの世に存在することに、多大な影響を与えたであろう人たちだ。
一昨年から昨年にかけて、そのアルバムから72人を抜き出し、
父の遺品である屏風に張り込んでいく作品を制作した。
今回は子供の写る画像だけを選び、
母が庭に残していった植物の葉に焼き付けていく。
琴南中最後の卒業生は6人。
現地スタッフのおかげで、6人の画像の使用許可も下りた。
下の写真は学校の裏庭、
「英知の庭」と呼ばれていたサークルが見える。
ここは生徒達が、植物の花の配色を工夫して植え、
模様やキャラクターを描いていた花壇だった。
このサークルを前提として、教室内に机を円形に配置する。
水を張った器を各机の上に置き、像を焼き付けた葉を水に浮かべる。
かつて子供だった大人=古いアルバムの人物と、
これから大人になる10代の卒業生。
日本最大の溜め池を有するこの町の水の中で、
植物という自然現象に言寄せて両者は邂逅する。
この夏の終わりに重ねて、
ひとつの継承の物語を紡ぐことができたら、と思う。
展示期間の終了する10月半ばには、
北海道から紅葉前線が南下を始める。
また別のヴィジョンを持って、秋という季節に分け入りたい。
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簡単なものですが、蝋画技法の初歩を図解したPDFファイルを以下から配布しています。
https://ssl.form-mailer.jp/fms/0af30761220259
注:これは実習を伴う教室や講座の受講者に配布している資料ですので、
この資料を見ただけで蝋画が描けるようになる保障はありません。