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読書雑記

読書日記。

ほとんど自分のためのものです。

滅びゆく国家 日本はどこへ向かうのか/立花 隆
¥2,310
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滅日経BP社のウェブサイトで連載されている「立花隆のメディア ソシオ-ポリティクス」を編集して出版されたのが本書である。「立花隆のメディア ソシオ-ポリティクス」は立花隆氏が日々のメディア情報(新聞、雑誌、インターネット等々)を基に、「目の前の現実から一歩引いて、より広い視野からそれを捉え直したときに、何が見えてくるかを中心に」書かれた時事評論サイトである。


第1回「ライブドア、ソニー、西武鉄道報道のミッシング・リンクを読み解く」(2005年3月25日)から、第67回「朝日・読売の論説トップが批判 小泉靖国外交の危険な中身」(2006年2月16日)掲載分までを抜粋し加筆修正してテーマ別にまとめられており、日々発信される(あるいは垂れ流される)情報の洪水の中から、後世に振り返ったときに日本にとって大きな転換点となるような事実や事件を抽出し、それらを読み解く一つの視点を与えてくれる。


章毎に印象を拾ってみると、


第1章「ライブドアショック」では、ニッポン放送乗っ取り事件で米投資銀行のリーマン・ブラザーズの果たした役割や元ライブドア社長の堀江貴文容疑者とウラ社会のつながり等事件の背景に関わる記述(推測も含めてだがその推測が結構おもしろい)が非常に興味深い。


第2章「天皇論」では、明治天皇は唯一生き残った直系男子であり、明治天皇は、9人の側室により15人の子供が持ったが、成人まで生きていたのは女子が4人で、生き残った唯一の男子が大正天皇と言う事実を知って驚いた。大正天皇の妃は多産系で4人の男子が元気に育ち、昭和天皇が即位するわけだが、正室の子が天皇の位をを相続するのは実に150年ぶりということである。

これらの事実からすると、天皇制度を存続させようとするならば、女性天皇、女系天皇は避けられず、また、日本国憲法第1条「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」の規定を引いて、世論調査で国民の大多数が女性天皇、女系天皇を容認している事実は「国民の総意に基づ

く」という指摘は明快でわかりやすい。


第3章「靖国論・憲法論」では、冒頭の若宮・渡辺対談(朝日新聞社の発行する月刊誌「論座」に掲載された朝日新聞論説主幹・若宮啓史と読売新聞主筆・渡辺恒雄との靖国問題や外交問題に関する対談)の話がおもしろい。それぞれリベラルと保守を代表する朝日新聞と読売新聞の論説トップがそろって小泉政権・靖国参拝を批判し意気投合していることからも、靖国参拝を「心の問題」として片づけてしまう小泉首相がますます浮いた存在に思えてくる。

(靖国問題については、本書出版以後8月15日が近づくにつれウェブサイトに次々と関連記事がアップされている。ちなみに昨日8月15日、小泉首相はとうとうこの日に靖国神社を参拝した。今後の内外の動向が注目される)


第4章「小泉改革の真実」では、郵政民営化問題、法案否決、解散・総選挙、自民党の大勝利といった政局の一連の流れがつかみやすい。未来予測的な記述も多く含まれ、それがはずれることもあるのだが、本章のはじめに著者が「そのような予測があったことも歴史の一部だ」と述べているとおり、修正されることなくそのまま掲載されている。田中角栄元首相の金脈問題で名を馳せた著者が永年見てきた政界の先例、論理に基づくそれらの予測は、どういう事実に基づきそう推測されるかが書かれており、刻一刻と変わる状況の変化の中でたとえその予測が外れたとしても、政局の流れをつかむ視点、政治家の行動や言動に隠された真意を読みとる視点がわかり大変勉強になる。

そして、本章と次章を併せて読めば、小泉改革は、旧経世会の勢力をいかに排除するかという視点でみるととらえやすく、また、日本の国益よりアメリカの国益を優先した改革になっているということを教えてくれる。


第5章「ポスト小泉の未来」では、自民党が総選挙に大勝した後の特別国会で、9月26日に行われた小泉首相の所信表明演説の中身のなさに象徴されるように、ポスト郵政についての具体的な施策の内容が見えてこないと指摘する。前章で言うように、「なるほど破壊者としての小泉首相はそれなりにすぐれたパフォーマンスを見せてきたが、破壊の後に必要となる建設者としての姿は見えてこない」と。ポスト小泉の未来、日本の未来について考えると暗澹たる気持ちになる。

そして、政治家としての小泉首相は、任期延長をしないことを表明していることで、キングよりも闇将軍時代の田中角栄のようなキングメーカーとしての地位を選んだのではないかという。


イラク戦争については、2004年に出版された著者「イラク戦争・日本の運命・小泉の運命」(講談社)でも言及されている。第6章「イラク問題」では、その後、「ブッシュ大統領は、米軍によるイラク占領は正式に終結したと宣言し、連合国暫定当局(CPA)から、イラク暫定政権への主権委譲式が行われた」が、イラク政府は自ら治安を維持し国家を管理できる状況ではなく、イラク戦争に係るコストがアメリカ経済を破綻させる危機にあることが書かれている。そのコスト増を日本にも負担させようとするアメリカに対して政府のとる態度は国益を無視しているとしか思えない。


第7章「メディア論」では、メディア論、とりわけネット社会におけるメディアのあり方についての記述が多い。第1章から第6章までに分類できないテーマも本章に整理されているのではないかと思われる。


日経BP社の連載サイトもリアルタイムに読んでいくとニュースの見方もだいぶ変わってくる。そして、ある時期にまた書籍化されたら一連の流れの中でテーマ別にまとめて読んでみたい。


流星ワゴン/重松 清
¥730
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 「死んじゃってもいいかなあ、もう」と生きる希望をなくした「僕」のもとに、5年前、ドライブ中に交通事故で亡くなった父子の乗るワゴン車が現れ、「僕」にとって大切な場所(過去)へ連れて行ってくれる。

 「僕」は父、妻、息子との関係がうまくいっておらず、過去にタイムスリップしたところで現実をやり直すことはできないのだが、大切な場所(今のようになってしまった過去の分岐点といおうか)に戻ることによって、当時は気づかなかった父、妻、息子の立場・心情を理解するようになっていく。

 父と息子の軋轢、家庭崩壊といったテーマ、それを過去に戻ってやり直そうとするという手法のいずれも昔からあるのに、古くさく陳腐に感じることなく、一気に読ませてくれる。



沈黙(村上春樹全作品1979-1989⑤)

村上春樹

講談社


 「僕がボクシングを気に入った理由のひとつは、そこに深みがあるからです。・・・孤独です。でも悲しくないんです」とボクシングの魅力を語る言葉に象徴されるように、「大沢さん」が「僕」に話す回想の形をとりながら、若者が、悲しくない孤独、自己、自我を獲得していく過程が描かれている。 

 大沢さんと対極的な人物で乗り越えるべき存在として描かれる「青木」の人物描写がいい。大沢さんと青木はお互いに嫌悪感を抱いていて、大沢さんは青木について、「彼の要領の良さと、本能的な計算高さ」、その「エゴとプライドの臭い」を「とても巧みに消し去」る「それなりに頭のいい男」と表現する。

 大沢さんはふとしたことがきっかけで青木を殴ってしまい、青木の復讐を受け一時は心身がボロボロになりながらも、最後には青木を「本物の喜びや本物の誇りというようなもの」を「永遠に理解できない」人間ととらえ、逆に「深みというものの存在を理解する」自己を意識し立ち直っていく。また、大沢さんは「でも僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間の話を無批判に受け入れて、そのまま信じてしまう連中です。」とも付け加える。

 中高生向けの教材としても使われていることからもわかるように、村上春樹の作品の中では非常にわかりやすい部類だと思う。他人に流されない自己を形成することの大切さというシンプルなテーマをそれこそ「深み」のある表現でとりあげている。

博士の愛した数式/小川 洋子
¥460
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 他人と人間関係を深めていくためには、最初に出会ってから、相手と様々なコミュニケーションをとり、また第三者にその人に関する噂、評価を聞くなどして、相手の情報を自分の中に蓄積していくことが前提となっているだろう。

 しかし、この物語の博士の記憶は80分しかもたない。その博士のもとに、家政婦として派遣された「私」とその息子との3人の心の交流を描く。そんな制約があるなかで、博士の専門である数学(数字)と息子がファンである阪神タイガースを話題の中心とした日常が、暖かく切なくときには笑いも交えながら物語が進んでいく。

 記憶が80分しかもたないというそもそもの設定を除き、劇的なストーリー展開があるわけではないが、日々のエピソードや、完全数、双子素数、オイラーの公式といった数学(数字)の魅力が随所に散りばめられ、最後まで読者を飽きさせることなく、悲しいながらもさわやかな読後感を味わえる。


ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる/梅田 望夫
¥777
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「増殖する地球上の厖大な情報を整理し尽くす」というグーグルの理念を本書を通じて始めて知った。目的と手段が逆転したようなライブドアの目標「時価総額世界一」とはスケールが全然違う。著者が執筆中に常に意識したというオプティミズム(楽天主義)に支えられ、これからのネット社会(加えてリアル社会に与える影響も含めて)の発展に目が離せなくなった。