そして、バトンは渡された(ネタバレあり) | 読書雑記

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主人公・優子には、実の父母を含め、3人の父親、2人の母親がいて、家族形態が7回も変わったにもかかわらず、たくさんの親たちや身近な人たちに愛情を注ぎ注がれ、幸せに育っていく。
それは物語の初めの優子の言葉、「困った。全然不幸ではないのだ。」に象徴される。

第1章では、3人目の父である森宮さんとの現在の生活と、過去の生い立ちが行き来して物語は進む。なぜ今の優子がこのように育ったのかを説明する形で現在と過去を往復する構成はうまい。
際立って目立つわけでもなく、勉強もスポーツもごく普通の私がもてるのはなぜか。今はピアノを習ってなくて、家に電子ピアノのしかない私がどうしてピアノを弾けるのか。それらは育ての親である梨花の影響を回想するなど。

やむを得ない事情もあれば大人の身勝手によって
親や家族形態が変わるたびに優子は逞しくなっていく。優子に嫉妬し意地悪な言動を続ける同級生に対して、自らの生い立ちを教室で喋るシーンは迫力がある。

そして、全ての親たちが一様に優子に愛情を注ぐ。
血の繋がりはなくとも親のような愛情を持つことができる。血の繋がりがない分、家族のあり方について考えさせてくれる。

3番目の父親である森宮さんはもう一人の主人公とも言うべき存在である。
森宮さんは世間とずれていて結構性格に難があるが、優子に今までの親にはない安心感を与えた。「森宮さんがやってきてくれて、ラッキーだった。どの親もいい人だったし、私を大事にしてくれた。けれど、また家族が変わるかもしれないという不安がぬぐえたことは一度もなかった。」

森宮さんと優子の会話も漫才のようで楽しい。
合宿祭の前日に森宮さんが歌う場面も感動的だ。

森宮さんはとても純粋で、2番目の母である梨花の言葉を借りて、親になることを次のように表現する。
「・・・自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって未来が二倍以上になることだよって。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない?・・・どんな厄介なことがついて回ったとしても、自分以外の未来に手が触れられる毎日・・・」

最初と最後は森宮さんの語りで、その間に第1章と第2章が挟まれている。
第2章では、優子が結婚することとなり、全ての親に結婚を報告する。改めて大人になって親や自分に向き合い、物語が収斂していく。

親がこんなに変わってこんなにうまくいくわけがないという意見もあるかもしれないが、幸せな気分になる本は心がやすらぐ。