今回は、2016年3月のドイツはハンブルクからです。
今日のライスハレでのコンサートは、マルタ・アルゲリッチとミッシャ・マイスキー。
音楽界でマルタ・アルゲリッチ、ミッシャ・マイスキーと言えば、お二人とも神のような存在。
その神二柱がデュオをやるのだから、とんでもないことになるか、すごい音楽が生まれるかどちらかしかないわけです。
そして、この二人は40年来一緒に演奏をしてきているわけで、期待はとどまるところなく高まります。
シューベルト:アルペジオーネとピアノのためのソナタ D821 イ短調
最初に演奏されたのは、
シューベルト:アルペジオーネとピアノのためのソナタ D821 イ短調
Franz Schubert: Sonate für Ciolincello und Klavier a-Moll D 821 "Arpeggione"
シューベルトの友人で、アルベジオーネ演奏家のために作られた楽曲。アルペジオ―ネは、1823~1824年に発明された楽器で、この曲が作曲された1824年には、まだ発明されたばかりの新しい楽器だったようです。アルペジオ―ネは、ギター・チェロとも呼ばれるように、ギターとチェロの特徴を持った6弦の弦楽器で、チェロを少し小ぶりにしたような楽器です。アルペジオ―ネ自身は、間もなく廃れてしまい、現在ではチェロやヴィオラ用に編曲されたものが演奏されます。
ベートーヴェン:チェロ・ソナタ 第2番 ト短調
2曲目は、
ベートーヴェン:チェロ・ソナタ 第2番 Op.5-2 ト短調
Ludwig van Beethoven: Sonate für Klavier und Violincello g-moll op.5 Nr.2
この曲は、ベートーヴェンがプロイセンに旅行中1796年に作曲された曲です。チェロ奏者のジャン=ルイ・デュポールとベートーヴェンの共演でプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム2世の前で初演が行われています。1番と合わせて、チェロ好きのプロイセン王のために作曲した曲のようです。自分のピアノの腕前もしっかりアピールできるように技巧が凝らされており、若き日のベートーヴェンの熱意が伝わってきます。
フランク:チェロ・ソナタ(ヴァイオリン・ソナタ)
3曲目は、
フランク:チェロ・ソナタ(ヴァイオリン・ソナタ)
César Franck: Sonate fur Violincello und Klavier A-Dur
この曲は1886年、フランクが同郷のヴァイオリニスト イザイの結婚を祝って作曲したものです。結婚式当日に楽譜を受け取り、結婚式でイザイがヴァイオリンを、イザイの奥さんがピアノを弾いたという話を聞いたことがあります。ヴァイオリンだけであればまだしも、この難しいピアノを当日楽譜を受け取って弾けるというのはイザイの奥さんも生半可なピアニストではなかったということだと思っていろいろと調べているのですが、どうも奥さんはピアニストではなさそうです。一番、正しそうな情報では、結婚式に出席した作曲家のシャルル・ボルド(Charles Bordes)がフランクから楽譜を預かってきていて、それを受け取ったイザイが、シャルル・ボルドに同行していた彼の義理の妹でピアニストのレオンタイン・ボルド=ペーヌ(Léontine Bordes-Pène)にこの曲を初見演奏しようと頼んだというものです。ボルド=ペーヌはフランクの曲をいくつか初演しているピアニストなので、さもありなんという感じです。
この曲は素晴らしい1曲で、個人的には、緩急、強弱のメリハリなどが激しい部分があり、特にフランクらしく大好きです。
アンコールも、ショスタコーヴィッチ、ブラームスなど4曲も演奏され、会場は大喝采でした。
ものすごい超熱演で、お二人ともノリノリの演奏。
ソロ演奏や、オーケストラとの共演などとは打って変わって、アルゲリッチの室内楽は本当に伴奏に徹してる感じです。アルゲリッチ独特のキラキラ感を押さえ、共演者と一つの音楽を作り上げていくことを本当に真摯に極めている感じです。唯一、アンコールのショスタコーヴィッチはアルゲリッチらしい、きらきら感満載の演奏でした。アルゲリッチの手を見ていたら、手首がかなり高い位置から弾いていてびっくり。こんな高い位置から弾こうとしたら、相当にコントロールしないときちんと音が出ないはずで、やっぱり常人とは違うものなのかと変なところで感心してしまいました。そういえば今日の演奏会、ハンブルク音楽演劇大学のコロリオフ先生夫妻も聞きに来られていました。
ミーシャ・マイスキーはかなりのオーバーアクション、汗だくの熱演でした。歌いまくって、すごいパワー。弓を振り上げて最初の音を出してくるくらいの感じです。アルゲリッチも、シューベルト弾き始めた瞬間に、やっぱりこの人の歌い方は他の誰とも違うと実感しました。ピアノで歌うって、こういうことなんだなと。
そもそも素晴らしい演奏家の2人が、さらにお互いに影響を受け合い、感じ合いすごい音楽を作り上げていく、その奇蹟を目の前で見ているような演奏会でした。