今回は、2015年4月のパリからです。
昼間、パリのショパンゆかりの地を訪ね(前回の記事)、夜は新しくできたフィラルモニ・ド・パリ(Philharmonie de Paris)で行われたコンサートに行ってきました。フィラルモニ・ド・パリは2015年1月にオープンした新しいホールで、この時はまだオープンして3カ月ほどで、出来立てのほやほやです。パリの北東部にある19区、ラ・ヴィレット公園の中にあります。ここは、コンセルバトワールがある場所でもあります。なんといってもこの威容。コンサートホールで目に入ってくると、その外観に驚かされます。「なんだこりゃあ!!」
フランス人建築家ジャン・ヌーヴェルなどが手掛けたようです。ベルリンにあるギャラリー・ラファイエットなどもこの人の手によるものだそうですし、日本だと電通本社ビルもこの人の設計のようです。屋根は変な形だし、へんてこな灰色の模様が施されているので、なんだか薄汚れているように見えます。屋根の下は、メタル系の素材で編まれたようなものでできていて、これも異様感を増しています。
中に入ると、廊下にはメタル系の短冊が天井からひしめくように垂れ下がっています。なかなか不思議な空間です。
ホールへ入ってみます。すごい曲線で構成されたホールになっています。
天上にも、曲線状の不思議なものがぶら下がっています。
この天井からぶら下がっている照明などは、スターウォーズにでも出てきそうなデザインです。
案外、木材も多用されています。
今回、記事を書くにあたってこちらのパイプオルガンについて調べてみたのですが、どうもこのホールのパイプオルガンは2016年に作られたことになっていますので、この時はまだ完成していなかったのかもしれません。
今回のコンサート、日程優先でチケットをとったので、地元フランスのオーケストラではなく、ニューヨークフィルハーモニーでした。指揮は、アラン・ギルバートです。
エサ=ペッカ・サロネン: Nyx
エサ=ペッカ・サロネン: Nyx(ニュクス)
Esa-Pekka Salonen: Nyx
エサ=ペッカ・サロネンはフィンランド出身の作曲家・指揮者で、指揮者としての彼をご存知の方も多いと思います。この曲は、2010年にラジオフランス(フランス)、バービカンセンター(イギリス)、アトランタ交響楽団(アメリカ)、カーネギーホール(アメリカ)、フィンランド放送会社(フィンランド)から共同委託されたもので、2011年2月19日パリのシャトレ劇場でエサ=ペッカ・サロネン自身の指揮、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団(Orchestre philharmonique de Radio France)の演奏で初演されてます。
霧のようにとらえどころがない部分、映画音楽のように何かを主張している部分、そこに情景が見えてくるような部分、そして脅威、不安、様々なものが次から次への飛び出してきます。
この曲のタイトルになっているニュクスは、ギリシア神話に出てくる女神の名前で、ゼウスなどよりずっと古い原初の神の一人です。夜をつかさどる女神で、ニュクスから生まれた神は、死、眠り、欺瞞、苦悩、争いなど、なかなか意味ありげな神々です。この曲では、そういったものが表現されているのでしょうか。
会場に、エサ=ペッカ・サロネンが来ていたようで、演奏修了後、舞台に上がっていました。
ラヴェル: シェエラザード
ラヴェル: シェエラザード
Maurice Ravel: Shéhérazade
ラヴェルは、異国情緒豊かな「千一夜物語」に触発されてオペラを作ろうと考え、1898年に序曲「シェエラザード」を作曲しますが、酷評されお蔵入りになってしまいます。その後、トリスタン・クリングゾール(Tristan Klingsor)の詩集「シェエラザード」に出会い、その中から3篇の詩を取り出し、歌曲集「シェエラザード」を作曲します。初演は、1904年5月17日国民音楽協会の演奏会で、アルフレッド・コルトー指揮で行われています。第1曲 Asie(アジア)、第2曲 La Flûte enchantée(魔法の笛)、第3曲 L'Indifférent(つれない人)がそれぞれジャーヌ・アトー、ルネ・ド・サン・マルソー夫人、エンマ・バルダックに捧げられています。
今回のメゾソプラノは、 ジョイス・ディ・ドナート(Joyce DiDonato)。アメリカの歌手です。なんともエキゾチックな曲でした。
ラヴェル: 高雅で感傷的なワルツ
ラヴェル: 高雅で感傷的なワルツ
Maurice Ravel: Valses nobles et sentimentales
この曲はもともとピアノ用に書かれた曲で、1911年5月9日、サル・ガヴォーでルイ・オベールのピアノで初演されています。この演奏会は、作曲者が伏せられ誰の曲か当てる企画が催されたようで、半数の人がラヴェルの作品と答えたものの、評価は賛否両論だったようです。翌年1912年ロシアのバレリーナ ナターシャ・トルハノフの依頼で管弦楽版が作曲され、1912年4月22日のシャトレ座でバレエとしての初演が行われました。その後、純粋なオーケストラとしての初演は、1914年2月15日ピエール・モントゥー指揮パリ管弦楽団の演奏で行われています。
この曲は7つのワルツとエピローグから成り、この構成はラヴェル自身がシューベルトの影響を受けていると語っています。標題に感傷的とありますが、感傷的というよりは繊細で少々神秘的な曲に仕上がっています。
リヒャルト・シュトラウス: 「ばらの騎士」組曲
リヒャルト・シュトラウス: 「ばらの騎士」組曲
Richard Strauss: Le Chevalier à la rose op. 59 : Suites pour orchestre
ばらの騎士は、リヒャルト・シュトラウスの代表的なオペラで、ワーグナー級の長大な作品です。しかし、中身はワーグナー的なものではなく、どちらかというとモーツァルト的なものを目指した作品になっています。全曲カットなしで上演すると3時間半近くかかる作品ですが、1944年にオーケストラ用のダイジェスト版が編曲され、それがこの組曲になっています。この編曲諸説あるのですが、プログラムには指揮者のアルトゥール・ロジンスキの協力を得て行われたと書かれていました。初演は、1946年9月28日ハンス・スワロフスキー指揮ウィーン交響楽団の演奏で行われています。
他の恋愛バタバタオペラとは一線を引く、恋愛の妙味を描いたこのオペラ、R・シュトラウスの美しいメロディーがふんだんの織り込まれ、そのダイジェストが聞けるというおいしい作品です。
今日の演奏会のニューヨークフィル。驚いたのが女性の多さ。バイオリンなどは、ほとんど女性で少し男性が混じっているという程度。ヨーロッパのオーケストラでも女性はそれなりにいるのですが、今回の構成に比べるとヨーロッパはまだまだ男性中心ということかもしれません。技術的にかなりうまいし、よくそろっていて、さすが世界的なオーケストラといわれるだけの演奏を聞かせてくれました。でも、ヨーロッパのオーケストラのように、ああこのオケはこういう音なんだというようなものはあまり感じることができませんでした。まあ、ヨーロッパのオーケストラも一部を除いてフラット化してきてはいるんでしょうが。
今回の新しいホール、かなり残響音が長い感じがします。どちらかというと、前から音が来るというよりは、響いた音が横から来る感じでした。ベルリンのフィルハーモニーの方がもっとストレートに音が聞こえてくる気がします。永田音響設計が絡んでいるらしいので変な設計にはなっていないと思うのですが。。。
演奏会自身はは、とても良い演奏会でした。
演奏会が終わって、地下鉄でマドレーヌ駅まで戻り、よく行くL'ECLUSEでワイン。なんか軽いもの出してと言ったらサラミのスライスしたのをつまみに出してくれました。ワインは、サン・ジュリアンの赤。結構おいしい。やはり、本場だと安くておいしいワインが飲めます。明日も、少し音楽家にかかわるところを回ってみようと思います。
今日の演奏会のプログラム。この模様はコンサートホールの屋根の模様のようです。