メタモデルは、グリンダーとバンドラーがNLPで最初に開発したモデルで、相手の経験をより具体的に理解するための情報収集のための質問からなる。

相手が言葉を発した際、その言葉の中にすべての情報が含まれているとは限らない。たとえ、多くの言葉を発したとしても漏れている部分はある。この情報が網羅されているものを「深層構造」と言い、言葉として発せられたものを「表層構造」と呼ぶ*。

メタモデルは、欠けている情報を埋め合わせて、「深層構造」にある経験を取り戻す。しばしば深層構造は、本人も自覚していない無意識にある。

*表層構造・深層構造は、言語学者チョムスキーの「生成文法」からの概念の借用である。なおチョムスキーは「深層構造」は完全な文、「表層構造」は、実際に言葉として表現する際に、変形された文のことを言い、NLPで使われている内容とは微妙に異なる。

● 削除・歪曲・一般化
元来人が言葉を使うときは、情報の一部だけが選ばれ、他の情報が削除され、例外が考慮されずに一般化され、単純化する過程で意味が歪められる。

 

カテゴリ 項目 意味 質問

削除

不特定名詞 対象を特定しない名詞 具体的に誰が?いつ?
不特定動詞 どのように行われるか特定されていない 具体的にどのように?
比較 比較対象が明示されていない 何と比べて?
判断 評価者や基準が欠落 誰が、何を基準に?
名詞化 プロセスを、固定的な名詞にしてしまう 誰が、何について、どのように?

一般化

可能性の叙法助動詞 できない できたとしたら?
何が~をさせないのか?
必要性の叙法助動詞 しなければならない ~をする(しない)とどうなるか?
普遍的数量詞 いつも、すべて、みんな、一つも~ない 本当にいつも起こる?
決して、たったの一度も?

歪曲

複合等価 X=Y どうしてXがYを意味するのか?
XがYでなかったことは一度もないのか?
因果 X→Y どうしてXがYを引き起こすのか
Xが原因でないとすると、どうなるのか?
前提 何かを前提としていることが隠されている どうしてそうわかるのか?
読心術 人の考えや感情を根拠なしに決めつける どうしてそうわかるのか?

 

●メタモデルの利点

1.相手の言いたいことを明確にする
 それによって正確なコミュニケーションを可能にする。

2.相手の制限となるビリーフを解体し、選択肢を広げる
 ビリーフは極端に歪曲、一般化されている。メタモデルの質問によって、根拠がないことがわかれば、それによって制約が解除され、より選択肢が広がる。

3.議論に強くなる。詐欺に引っ掛からない
 ひろゆきの有名な言葉「それって、あなたの感想ですよね」というのは、メタモデルで言う「判断」を問うもの。議論においては、自分の意見を通すために、根拠のない歪曲や一般可が横行する。


●削除・歪曲・一般化の関係
削除・歪曲・一般化は全く別物というわけではなく、どれ一つとっても、他の代表になれる。

歪曲も一般化も、削除の一種である。例外、他のパターンを削除している。
 

歪曲は一般化の一種である。一つの因果関係、等価を一般化している。
削除は一般化の一種である。抽象表現で一般化している。
 

一般化は歪曲の一種である。歪曲した因果関係を一般化している。
削除は歪曲の一種である。重要な情報をないかのように歪曲している。

●なぜ削除・歪曲・一般化を行うのか

私たちは常に、選択・決定を迫られている。考えることは労力を使うし、選択・決定には責任が伴う。時間もかかる。すなわち苦痛がある。よってそれを極力避けたい。
何も決定しないと、課題が残り続ける。そして何も進まない。この状態はモヤモヤしている。

削除してしまえば、検討材料は少なくて済む。一般化してしまえば、すべてのケースに適用できる。決まり・ルールがあれば、思考をせずに判断できる。
削除・歪曲・一般化は、選択・決定を簡便化し、労力少なく生きていく方法の一つである。

メタモデルの削除・一般化・歪曲は人間が法則を見出すときに使われるプロセスでもある。
つまり、経験から、ノイズを省いて、必要な部分のみを抽出し、それを一般原則化し、事象に対して意味を付与するか、因果関係を導き出す。これが学習と言われるものである。

しかしながら、その法則は、常に成り立つものではなく、それどころかほとんど成り立たない場合もある。自己実現的な法則もある。「自分はできない」などは、自分でその法則を証明できてしまう。

動物は本能と、過去の経験から学習した内容に従って判断する。あまり迷いはない。
人間は思考能力があるために、悩む。ああでもないこうでもないと。知らないことは苦痛である。だから知ったふりをする。
悩まない人は、即断する。が、短絡的で、熟慮が足りない結果多くの失敗をする。そして懲りずに失敗を繰り返す。

◎問題となるパターン
・情報収集が足りないケース。
・論理的思考能力を欠いているケース。
・思い込みが強すぎるケース。
・決定・責任を恐れているケース。
・決定に関する方式が確立されていないケース。好みや価値観が統一されていない。

◎優れた人は、
情報収集に優れている(深層構造へアクセスできる)
 より多くの情報のソースを持っている。
 非言語情報も用いる。
 直感を持つ(直感は、非言語と言われているものも含むが、それを超越した情報のソースにアクセスし微妙なサインをキャッチする)
・思い込みを排除して、合理的に判断する(一般化・歪曲を排除)
 より多くの視点を考慮できる。
・決定を恐れない。
・確率や統計により、有利なものを選択する。
・好みや価値観を認識して、決定ができる。
・必要なら、躊躇なく、決定を先延ばしできる。
柔軟性がある
・わからないことを受容する。好奇心がある。

●メタモデルの使い方

NLPの創設者のジョングリンダーが、生徒にメタモデルを練習してくるよう宿題を与えたら、周りの人と仲たがいしてしまったという報告が多々あったという。
メタモデルを人に対して使うときは、注意する必要がある。

例えば、だれかが
「みんな、そう言っている」
と言ったとき、これはメタモデルで言う一般化にあたる。多くの場合、発言者は、みんなに確認は取っていない。

・みんな、そう考えるに違いないという思い込み。
・みんな、そう思っているように感じる。
・周りの数人から聞いた。
・周りの数十人から聞いた。

ただ、それを指摘するのは、挑発的で、酷く屈辱的になり得る。
言い方は、謙虚に純粋に、
「みんな?」
という聞き方がいい。
そうすると、本人自ら、いや全員ではない、と気づく。もっとも全員だと言い張るケースも多いだろう。

メタモデルの質問が挑発的にとらえられるのは、質問=相手の意見の否定と捉えられてしまうからだ。
もし、「私には、●●の才能があると思う」と言われたときに、「どうしてそう思うの?」「何で?」と聞くと、それは、才能がないという前提で聞いている、そう思えない、と取られかねない。なので、「そこ詳しく聞きたいな」ぐらいな言い方にする。

● メタモデルで「なぜ」は使わない

メタモデルになぜ、「なぜ」「何で」の質問は基本的にない。「なぜ」「なんで」は相手の責任を問うことになりかねず、言い訳をでっち上げ、本当の情報が得られず、本来ほしい真実が得られなくなるからである。
ではなく、「どのように」、あるいはビリーフに対して、どうしてそれを信じているのか。
何かを行った動機を聞くには、「なぜ」よりも、「何のために」「それを通して得たいものは何か」「何があってそうしたのか」と問う。
 

 

フィジオロジーとは、英語で生理のことだが、NLPでは身体の使い方、姿勢や動かし方、呼吸や顔の表情を指す。身体と心は密接に関連しているので、身体の使い方を変えることで簡単にステートを変えることができる。

NLPの前提の一つに「心と身体は一つのシステムである。心と身体は相互に左右し影響を与え合っている。一方に影響を与えないで、もう一方を変えることはできない。考え方が変われば、身体(行動)も変わる。行動が変われば、感情と考えも変わる」というものがある。

例えば、簡単な方法として、両手を上に上げ、顔を上に上げ、口角を上げる(ニコっと笑う)。たったこれだけで気分は変わり、ネガティブな感情や思考を持っていたとしても、軽減されるのを経験できる。

なお、フィジオロジーについては、NLPでは言及されるだけで、あまり詳しくは行わない。方法が多種多様で、余所ですでに説かれているせいかもしれない。根深い問題については、フィジオロジーだけでは治らないが、それでも軽減効果はある。
また、心理的な根深い問題だと思っていたものが、フィジオロジーを変えるだけで解決してしまうこともある。つまり、「問題だ」という思い込みが、問題を作り出していたケースである。

ストレッチ、筋肉を緩めるというのは、心の緊張を解きほぐすいい方法である。

心理的な問題は、体の健康状態も重要である。タンパク質や鉄、ビタミンの不足が鬱や神経症の原因で、心理療法ではなく、栄養療法で解決したという報告も数多くある。

・目の動きを使う
NLPでも眼球運動を使った方法がある(眼球運動による統合)。
不快な感情の表象を思い浮かべながら、目を上下、左右、斜め、8の字などに動かす。
眼球運動を使った方法はEMDRが知られているが、眼球を動かすことで、通常の情報処理システムが活性化して情報を移動させ、その情報が新しいリソースの保存されている神経組織と接触できるようになる。

他にも
・姿勢を変える
・深呼吸をする
 吸気よりも呼気に注目
 優位でない方の鼻孔で呼吸
・ストレッチをする
・ジャンプする
・手を叩く
・笑う
・大声を出す
・散歩、筋トレ、スポーツやダンス、太極拳をする
などがある。

また、タッピング技術TFTEFTなどはフィジオロジーを使った有力な方法であるが、NLPで言及されたことはない。
 

内部表象を使ったワークこそがNLPのオリジナリティと言ってもいいかもしれない。他の心理療法や瞑想でも、イメージは多用するが、その要素を細かく定義し命名し活用しているのはNLPが初めてではないかと思う。

多くの人は無意識のうちに内部表象を使っているものの、人の体験・記憶・言葉・解釈・信念・時間が内部表象としてコード化されているというのは、NLPによる大きな発見だろう。

ある物、言葉を思い浮かべたとき、心の中にイメージが湧く。言葉も辞書的な定義とは別に印象とともに内部表象としてコード化されている。

大抵の人は心をコントロールする際に、一部は無意識のうちに内部表象を使っている。例えば、「痛いの痛いの飛んでけ」と小さい子供に言ったりするが、根拠がない訳では無い。痛みの表象を遠ざけることで、その印象は和らぐ。あるいは、例えば悩み事をイメージの中でくしゃくしゃにしたり(物理的に紙に書いてクシャクシャにして捨てるのもあり)、ハンマーで叩き割ったり、消しゴムで消すというのも、やったことがある人は多いのではないだろうか。

この内部表象を操作することで、ある対象に対する、

・好き / 嫌い
・確信・自信 / 疑い
・優先度が高い / 低い
・重要 / 非重要
・意味がある / なし
・外敵基準 / 内的基準

といった印象を変更することができる。

これらのものはもっと根源的な、心の深い部分で決められているように思えるが、そういう場合もあるものの、単純に表象だけで決まっているケースもあり、その場合表象を変えるだけで変わってしまう。好きなものを嫌いにしたり、嫌いなものを好きにしたりすることができる。

では、どのように印象を変えることができるだろうか。

①対象を決める


まずは印象を変えたい対象を決める。

その場合、相反する2つのことを取り上げるか、もしくは症状を取り上げる。

a.対照的な2つを取り上げる
・対象/行動についての好き・嫌い
・うまく行ったとき、行かなかったとき
・良い決断と悪い決断
・ビリーフについての確信の度合い
・価値観の高低

b.あるステート、症状を取り上げる

変えたいと思う心理状態や症状を取り上げる。
(この場合②は飛ばしてもいい)


②ドライバーを見つける
ついで、どのようにコード化されているのかを知る。そのために、内部表象の従属要素サブモダリティ)のそれぞれについて確認する。対照的な2つを取り出した場合、その2つの要素で異なっているものを抽出する。それらの要素の中で、最も大きな影響を与えている要素(ドライバー)を見つける。
一つの症状やステートを取り上げた場合、サブモダリティを変化させて、どれが一番影響を与えているかを見つける。

● サブモダリティの種類

 

視覚

位置(上下、左右、前後)

自分との距離(近い / 遠い)

大きい / 小さい

カラー / モノクロ

立体 / 平面

全体 / 部分

枠がある / ない(パノラマ)

色の彩度

コントラスト

アソシエイト(実体験) / ディソシエイト(分離体験)

明るい / 暗い

焦点があっている / ぼけている

動画 / 静止画

スピード(速い / 遅い)

聴覚

音量

音源の位置

音源の距離

他:言葉/音、高低、音調、連続的/断続的、テンポ、明瞭さ、ステレオ/モノラル

体感覚

位置、場所

温度

重い/軽い

強/弱

硬い/柔らかい

他:範囲、肌触り、圧力、連続時間、形

 

③サブモダリティを変化させる

a) マッピングアクロス
ドライバーが見つかったら、望ましい状態にするために、サブモダリティに変更を加え、その状態に固定する(ピンで止めるなどのイメージをすると良い)。例えば、「自分は何でもできる」というビリーフを思い浮かべたとき、疑惑のサブモダリティ(例えば、周辺部分に置かれて、焦点がぼやけている)にあるときには、それを確信のサブモダリティ(例えば、目の前の中央で焦点がはっきりしている)に移動し、そこで印象が変わったら、そこの場所に固定する。

b) 衝動を爆破
もしその対象が、衝動的な状態を引き起こすものであり、その衝動を静めたい場合には、ドライバーとなっているものを増大させ、一気に爆破させる。そうすると、その衝動は起きなくなる。このとき、ドライバーは大きさや明るさなどアナログ的に変化するものである必要がある。

c) 簡易的な方法
多くの場合、重要なもの、気になるものは、視覚的にも聴覚的にも近く大きく明るくカラー鮮明で、あまり重要でない、気にならないものは、遠く小さく暗くモノクロぼやけている。
なので、あることを気にしないようにしたり、感情を静めたい場合は、その表象を、遠く・小さく・苦楽・モノクロ・ぼやけるようにする。

・アソシエイト・ディソシエイト
単純に、その状態から切り離す場合は、傍観者として描いたり(ディソシエイト)、その中に入り込みたい場合はアソシエイトする。楽しい記憶にはアソシエイトし、苦しい記憶にはディソシエイトするのがよい。

● 表象をリンクさせる方法
つらい状況を楽しいものに結びつけたり、癖になっている行動に嫌いなものを結びつけたりする方法。古典的条件づけと同じである(前章で述べた内容)。

● 切り離すテクニック
思考や感情を切り離す場合、印象を変える場合、以下のような方法がある。

防護壁を置く
 対象との間に、分厚いガラス板を想像し、「自分」は安全な状態にあることを認識する。
再生速度を変える
・音源の位置を変える
BGM(楽しい景気のいいサーカス音楽など)
・粉砕、焼き払う
・川に浮かべて流す
・体から抜け出す
・白黒にする
・早送り
・巻き戻し

●光、エネルギーを自分の体に取り込む
これは、切り離すのとは反対に、よいものを取り込むパターンである。応用的あるいは目的別のワークの中でよく扱われるが、自分に必要なリソース(知恵や行動力や許しなど)をで象徴して、それが自分の体の中に入ってくるとイメージする。これも一種の内部表象を使ったコード化である。体内に入って、そこで固定され、吸収されたというイメージを持つことで、自分の中にリソースがあるというビリーフが強化される。

● スピン(回転する)
思考や感情、フィーリングのサブモダリティを観察すると、どちらかの方向にスピン(回転)していることがわかる(視覚的もしくは体感覚的な表象)。そこで、それを止めたい場合は、反対方向に回転させる。それをさらに増進させたい場合は、そのフィーリングをもっともっと速く回転させる。

● 閾値を超える(うんざりする)
刺激や反応がある一定の閾値を超えると、「もううんざり」「もう二度とゴメン」となる状態になる。望ましくない行動に対して、それをとりたくないという欲求を閾値に到達するまで増幅させ、不快感の表象を蓄積させる。「こんな生活が死ぬまで続く」といった未来への積み重ねはプロセスの進行を早める。
このとき、閾値を超えるプロセスの変わり目に関与したサブモダリティの変化だけを知ればいい。アナログ的な変化が、デジタルな変化になる。

閾値を超えると、その問題の症状や行動は現在から過去のタイムラインに移動し、つまり過去のことになり、分離体験に変わる

閾値を超えると元に戻せないので、代わりに何をするかを決めておく。

● 時間軸(タイムライン)

タイムラインは、自分の体験を整理し、それに対応するための重要な方法で、何が現実で、何が現実ではないかを掴む感覚と結びつく。人々が「私の未来は明るい」と言うときには、心の中で思い描いているものをそのまま報告している。

過去・現在・未来について、多くは、異なる時間を示すのに異なる場所(左右、前後、上下など)を使う。サイズ、細部、透明度、明るさ、焦点、色なども時間をコード化するときに使われる。

過去・未来を現実の客観的な実体(変えられないもの)として扱うのではなく、あくまでも個人の「認識」、主観的体験における過去・未来を扱う。過去・未来は表象として、現在において現れている

タイムラインを何らかの方法で変化させたとき、体験は変わる。
過去・現在・未来のどこに自分の意識が向きやすいか。長期的な見通しを立てるのが得意な人は、正面のごく近いところに未来を置く。タイムラインを圧縮すると締め切りを守るのに役立つ。あまりに未来志向の人は、映像を目の前から少しずらし色彩を取り除いて小さくするとよい。

不快なこと・処分する必要があるものは自分の背後に、覚えておきたいこと、気に入っていることは前に置く。有用な学びを抜き出し、それらを未来に置いてから過去を背後にやり忘れてしまう。無意識に頼んで不快な記憶をすべて分離体験し、白黒に、愉快な記憶を着色する。
 

 

前に述べたように、思考や感情・心理状態は、あるきっかけ(トリガー)で、自動的に引き起こされる。このリンクを意識的に作成し、作動させるスキルは、NLPを行う上で必須のスキルと言える。刺激(トリガー)-反応とのリンクは、理屈は関係なく、作られてしまえば、無意識的に機能する。

 

方法としては、以下のものがある。

①アンカリング
 感覚的刺激とステートをリンクさせる。

②スイッシュ
 感覚的刺激(あるいは内的表象)と、内的表象をリンクさせる

③ゴディバチョコレート(条件付け)
 楽しくない作業を楽しいことにリンクさせる
 あるいは癖になることを苦しいことにリンクさせうんざりさせる。

④ストラテジー
 内的表象と内的表象の一連の連鎖をリンクさせる

⑤ビリーフ
 X=Y、X→Yという、等価、因果のXとYをリンクさせる


①アンカリング


トリガー、感覚的刺激としては、触覚を用いることが多いが、聴覚や視覚も可能。場所自体も、トリガーとして使うことができる。
元気の出る音楽とか、匂いとか、集中するための一連のルーチン(儀式)・ポーズなど、日常の中で自然にアンカーを使用しているケースは多い。催眠では、アンカリングはよく使われる。

新たにアンカーを作る場合は、過去の記憶等からその状態を再現させ、十分に体験して、感覚的な刺激とリンクさせる。
 

アンカーを設定するには、
 ・状態:強烈な状態を引き起こせること
 ・タイミング:状態がピークに達する直前に刺激とリンクさせる。
 ・刺激の特異性:普段あまり触れない場所とリンクさせる。
 ・状態の再現性:明確で完全に再体験できる状態と結びついていること
 ・反復:回数を繰り返せること

アンカーが作成されると、トリガーを起こすと、自動的にリンクさせた反応が起きる。

記憶想起で、状態を再現できるなら、それ自体がアンカリングと言えるが、触覚などにアンカリングするのは、そのショートカットを作るようなもの。

ただし、非常に悪い状態のときに、そのアンカーを押しても発火しないか、悪い状態を覆すほどの効果を持たない。そうなってしまうと、逆アンカーとなって、悪い状態がアンカリングされてしまうので注意。アンカーはニュートラルのときに再現させる方がいい。

コラプシング・アンカー
ネガティブなものに結びつけてしまったアンカーは、望ましいステートへのアンカー(リソース・アンカー)と同時に発火して、状態を壊すことができる。

・逆アンカー
コラプシング・アンカーのように同時に発火するのではなく、多少の時間差をおいて発火することで、ある望ましくない状況と望ましい状況とを結びつけることができる。

・空間アンカー
空間・場所に対して、アンカリングすることで、その場所に来たときに状態を引き起こすことができる。これは、ワークの手段としても使うことができ、場所にステートだけではなく、立場、モードなどをアンカリングしておいて、そこに来たときに、その状態を活性化することができる。

・チェインアンカー
ある状態から望ましい状態までの距離がある場合、そのステップを、例えば小指から人差し指までアンカリングし、ある状態から次の状態、そして次の状態とリンクさせ、最終的に最初の状態から、自動的に最後の望ましい状態まで遷移するようにする。


②スイッシュ


タバコを吸ってしまうなど、望まない癖・習慣がある場合、その状況と、望ましい自分の姿をリンクさせる。

望ましい自分の姿の条件
・ディソシエイトしている絵(自分を絵の中に含む。アソシエイト[実体験]しているとすでに実現しているため、その姿に引き寄せられない)
・具体的な行動ではなく、望ましい資質を持った自分

リンク方法
1. 癖となる行動にある前の手がかりの画像を明るく中央に置き、望ましい自分の姿を隅に小さく白黒で置く。
2. 「シュッ」という音とともに一瞬で画像を切り替える。
3. これを何度も繰り返す。

 

確認:

改善したい習慣のきっかけが起きたときに、リンクが作動し、望ましい自分の姿の表象に切り替わるかどうかを確認する。

③ゴディバチョコレート(条件付)


行動療法の古典的条件づけオペラント条件付けと同様に、ある物事・行動に対する印象を操作する。
やりたくないことを楽しいことのイメージに結びつけたり、望まない行動を嫌なイメージに結びつける。そうすることで、その行動を取ろうとするときに、楽しいイメージあるいは嫌なイメージが連想されることに成り、行動を促すor引き止めることになる。
例えば、もしゴディバチョコレートに対して衝動的になるほど好ましいイメージを持っているなら、仮に数式が嫌な人であれば、数式をイメージして、そこに穴を開けてゴディバチョコレートが見えるようにする。それを繰り返すことで、数式が好ましい印象にリンクされる。

・笑い飛ばす
これは表象というより、半分フィジオロジーを使った方法になる。
苦手なこと、辛いことを笑いと結びつける。

④ストラテジー
内部表象のシーケンスをメンタルリハーサルで繰り返す。

⑤ビリーフ
ビリーフを刷り込む方法は、以下のようなものがある。

・催眠時の暗示
・繰り返す
・真実のサブモダリティの位置に、そのビリーフを表象する
・制限となるビリーフの解除後に代替となるビリーフを設定する
・ミルトン言語の前提を用いる

 

詳細は、ビリーフの項で述べる。

 

 

 

NLPのワークを進める上で、アソシエイトディソシエイトは、絶対的に必要となるスキルである。

インステート/ブレークステートと似ているが、これは状態に入ること/出ることで、アソシエイト/ディソシエイトは表象の中に自分の姿をない(実体験)か、ある(傍観者)ということで意味は異なる。
インステートの際、アソシエイトした方が発生させやすい。

ただし、意味が似ているため、しばしば状態に入ることを、状態にアソシエイトすると表現したり、自分の姿を絵の中に含めていなくても、状態・感情・思考から分離した状態をディソシエイトと表現していたりすることがあるので、それほど厳密に使い分ける必要はない。

これらは、主観客観なり切るのと一歩離れてみる行動観察の違いとも言える。

人によってどちらが得意か分かれる。ディソシエイトしやすい人は、体験から離れて、冷めた目で見てしまい、周りがノッているときに、一緒に楽しめない。逆にアソシエイトしている人はすぐにノッてしまい、行動に出てしまうので、愚かな失敗をしやすい。

● 冷めやすい人
ポジティブさ、やる気は、そういう感情にアソシエイトしていて、冷めた見方は、そういう感情からディソシエイトしていると言える。

しかし、ネガティブな見方は、やる気に対してはディソシエイトだが、ネガティブな感情にはアソシエイトしている。自分が気づかないところでアソシエイトしているのだ。自分が感情的になって行動しているときは、自分が何をやっているか気づかない。そのときこそアソシエイトしている。熱狂的になることがないつもりでも、実は熱狂していることはある。何かに夢中になって話しているときはアソシエイトしている。そのとき、自分は没入しているから気づかない。そして、冷めた見方、ネガティブ思考に同一化しているのに、自分ではディソシエイトしているつもりなのだ。

完全に冷静になっているのであれば、ネガティブな感情や思考に対しても切り離されて、感情は平静で、思考は中立的になっている必要がある。

●同一化と脱同一化
第三者のポジションに立つ場合も、視点が偏っているなら、第三者ではない。実際、完全に地図から解放されることはなく、何らかの地図に従って判断しているので、限界はあることは認識しておく必要はある。

この辺りはケン・ウィルバーがよく語っていることだが、何かの構造から脱同一化したとしても、さらなる上位構造に同一化している。今度はそこが盲点になる。
アソシエイトは何らかの同一化、ディソシエイトは脱同一化だとすると、実際には、どちらも同時に行っている。
衝動で行動しているときは自分の姿が見えていない=衝動にアソシエイトしている。衝動と自己を観察しているとき、自分の姿が見える=自己からディソシエイトしている。この両方の視点を超えて含むのが超越である。究極的には、どれ一つとして同一化していない、と同時にすべてと同一化している状態が望ましい。

●乖離・抑圧
なお、脱同一化は、対象を完全に客観的に見れる状態なので、意識の力で抑圧している状態は、症状が無意識上では動いており、影(シャドー)となって当人を悩ます。これは、乖離であって、脱同一化ではない。

●アソシエイトの必要性
アソシエイトが得意な人ほどNLPは有効である。症状を安定的に顕在化させるのが治療の第一歩である。
苦手な人はどうしても演技しているだけなので、本当に対処が必要な感情が出てきていないので、効果は表面的である。そして日常の中で、対処が必要な感情が出たときに、どっぷりつかってしまって、気づいたときには感情を爆発させている。

アソシエイトが得意な人は、比較的自我が弱い。そのため、意識的にトリガーを引いても、どっぷりその感情に浸ることができる。完全にどっぷりつかるとコントロールが効かなくなるので、ワークをする場合には、意識の一部はディソシエイトしている必要がある。

問題にアソシエイトした上で、それをコントロールする、つまり治療を適用するために心の一部はディソシエイトしている必要がある。完全に没入してしまっては、一切介入する余裕もなければ、気持ちもない。
一方で、アソシエイトしていなければ、単なる架空の症状を語っているだけで、介入は空振りする。意志の力でいくらでも演技はできてしまう。
ここでは、症状へのフォーカシングが重要になる。症状を達者に語っている間は、症状とつながっていないので、治ることもない。

また、一つのことにアソシエイトしては、ついで別の問題にアソシエイトしてしまったり、あるいはすぐに通り過ぎてしまい、覚めてしまうと、症状を適用するタイミングを逃す。なので、アソシエイトした状態を維持できる必要がある。あるいは、何らかのトリガーによって、その状況を呼び起こすことができる必要がある。

本当に優れた人は自在にアソシエイト、ディソシエイトを使いこなす。
優れた役者は、役に完全になり切る。完全になり切ったとしても、別の意識では、これは単なる役であると認識している。でないと、戦闘シーンで、相手の役者を本当に殺してしまうかもしれない。
瞑想で言えば、一点集中観察の違いである。このテーマは非常に深いので、また別の機会に詳説したい。

 

 

セラピーコーチングは、①メタレベルの一連の枠組み(フレームワーク)と、②介入のワークからなる。

一連の枠組みは、以下のステップを取る。
1. ラポール形成
2. 問題・症状の特定
3. ゴール設定
4. 介入
(チェンジ・ワーク)
5. 検証、フューチャーペーシング(未来ペース)

RESOLVEモデルでは、7ステップに分けているが、基本的な流れは同じである。
それぞれのステップで、使われる手法は異なり、それもNLPのワークの一つになる。
SCOREモデルでは、2-4を行ったり来たりする。

● セラピストに必要なこと
ガイドする側のステートは重要で、もし感情的に乱れていたり、落ち着かなかったりすると、それはクライアント側にいい影響は与えない。一番最初に必要になるラポールが形成されないため、セラピーは失敗する。
ここでは、NLPの前提を意識しておく必要がある。
特に、解決できるという前提、リソースがあるという前提は重要になる。

実際にワークを行う際には、セラピストは、手順や相手の発言=コンテンツだけでなく、コンテキストにも注意を払う必要がある。いろいろなところに注意を払う、高度なテクニックとなる。

ノンバーバル(非言語)
表象システムとしてVAKどれを使っているか
・言葉の使い方
 LABのタイプ
 得意なパターン 思考・感情・全体・感覚

また、自分が使う言葉にも、うまくコンテキストを混ぜるようにする。

前提を入れる
 相手にリソースがあること、変えられること
目標に焦点を絞る
・相手のパターンを逆手に取る
影響言語を使う
ノンバーバルを使う
場所を使う


●問題の特定
本当の問題は何か?
何が本人にとって問題なのかを探っていく必要がある。他人を変えたい、会社を変えたいというのは、NLPの対象ではない。あくまでも自分が変えられるものが対象となる。
また、単純に知識がないのであれば、それを学ぶことで解決するのでNLPの対象ではない。
そういった点も、この問題の特定の段階で明らかにできる。
ここで役立つテクニックが、メタモデルの質問である。

●ゴール設定
セラピーの場合も、コーチング同様に目標設定が必要になる。目的が症状の解消か、何らかのプラスの状態の達成かの違いである。また実際に症状の解消が目的だったとしても、解消した結果どうなりたいのか、プラスの状態に目標を設定した方がいい。問題回避よりも目的志向に持っていく。

このときゴールの適格性として以下のものを満たすようにする。

肯定的に表現されていること
具体的であること(いつ、どこで、誰と、どのように)
・ゴールの達成が検証可能であること(どのように見え、聞こえ、感じるか)
自分自身で達成できること
・現状の利点(プラスの副産物)が維持されること
エコロージー的に健全であること

特にエコロジーは重要で、達成したはいいものの、別の問題が起きるなどする場合は、この適格性は満たさない。

・メタアウトカム
ゴールの達成が、どのような意味を持っているのか、何のためにゴールを達成するのか=メタアウトカムを明確にする。それによって、ゴールの達成の意義がはっきりとして、モチベーションも上がる。場合によっては、別の選択肢も視野に入る。

・リソース
ゴールを達成するのにどのようなリソースが必要かをはっきりさせる。もし不足しているリソースがあれば、それをどのように補うかを検討する。

● 介入のワーク

最初に、問題・症状を再現してみる。
これは、イン・ステートと呼び、問題状況に入り込む。傍観者の状態で、過去の記憶を振り返っている状態では、十分な情報が得られないし、その症状を引き起こしているパートの感情・意図にアクセスできない。記憶を呼び起こし、あたかもその時の状況にいるかのようにアソシエイトし、仮想的に体験し、見て、聞いて、感じてみる。NLPで結果を出す場合、無意識にアクセスし、無意識が何をしているのかを意識化するのが重要となるため、意識レベルで考えている限りほとんど結果は得られない。

症状に入り込みすぎると、問題を客観的に分析できなくなるため、一旦ステートから抜け出す。ブレーク・ステートという。

あまりにも症状が大きく、それを再現させた場合問題がある場合は、この段階をスキップするか、軽く触れるか、リソース・アンカー(安心・安全な状態に結びついたアンカー)を作っておいて、困難な状態に陥った時に発火する。


ついで、問題・症状をどのように作り出しているのかを確認する。ここでも、メタモデルの質問が役に立つが、この段階では特に、何のトリガーあるいはトリガーの連鎖で症状が起きるか、どのように症状を表象しているかを確認する。

ここでは、SCOREモデルが役立つ。これはメタモデルの質問を補足するかたちで、問題を深掘りしていく。

Symptom 症状
Cause: 要因
Outcome: 結果・目標
Resource: リソース
Effect: メタアウトカム

それぞれの「」を作っておいて、その話をするときは、クライアントをそこに移動してもらって話をする。場所アンカーを設定することで、クライアントはそのテーマについて意識を集中させやすくなる。

NLPで重要なのは、「なぜ」の質問を使用しないことである。CはCauseとなっているが症状の原因を追求していくのではない。いつから症状が現れたのかを聞くのはいいが、その根本原因を探ろうとはしない。むしろ、現在において、どのように症状を現しているのかを確認する。症状の「原因」は、過去の出来事ではなく、現在のクライアントの地図にある
「なぜ」の代わりに、「どのように」「何が引き起こしているのか」と尋ねる。相手が何らかの主張をしたら、なぜそう思うのか根拠を聞くよりも、何がそう思わせているのかどのようにしてそれがわかるのかを質問する。

多くの場合、
・トリガーによってダイレクトに症状が現れる
・内部表象(の連鎖)によって症状が現れる
・ビリーフが関係している
・葛藤がある
あるいは、これらの組み合わせとなる。


要因がわかった段階で、介入(チェンジ・ワーク)を行う。どのワークを選ぶかは、症状の性質や、何によって引き起こされているか、クライアントのタイプや希望による。

使える道具は、以下3つになる。
・フィルタ(言語)へのアプローチ
内部表象へのアプローチ
フィジオロジーへのアプローチ

● 介入のワークの詳細

NLPのワークは無数にある。ワークには基本的な要素と、それらをある角度から応用したものがあり、それらを組み合わせて作られている。新しく組み合わせることで、新しいワークを作り出すこともできる。

現存するワークは無数と言っていいほどあり、そのパターン・カタログを作ったところで、あまり役には立たないだろう。所詮は要素としては、ステート言語表象、フィジオロジーの4つのみなので、英語名のパターン名を列挙するよりも、モジュールのレベル分けをした方が見通しがよい。ワークには小さなモジュールから組み合わせたものへ4段階に分けると整理しやすい。

1. 土台となるワーク・スキル
2. 基礎的なワーク
3. 応用的なワーク
4. 目的別のワーク

それぞれには以下のようなワークがある。

●1 土台となるワーク
・ステート
インステート(状態を発生させる)
ブレークステート
アンカーリング

・内部表象を使う
アソシエイト/ディソシエイト
サブモダリティ(対照分析)

・言葉の使い方
メタモデル
ミルトンモデル
スライト・オブ・マウス(リフレーミング)

・フィジオロジーを使う

・コミュニケーション
ミラーリング、マッチング、ペーシング
キャリブレーション
メタプログラム

●2 基礎的なワーク
1の土台となるワークを組み合わせて、以下の基礎的なワークとなる。

・コラプシングアンカー
・マッピングアクロス
・ストラテジー
・スイッシュ
・タイムライン
・モデリング
・ポジションチェンジ
・リフレーミング
・催眠
・パートワーク
・パワー・クエスチョン

●3 応用的なワーク
1,2を組み合わせて手順化したものが以下のワークになる。

・六段階リフレーミング
・ビリーフチェンジ
・価値観の順序
・ガイデッドサーチ、リインプリント
・ディスニー・ストラテジー
・ダイナミック・スピン・リリース
・コア・トランスフォーメーション
・ホールネス・ワーク

●4 目的別のワーク
特定の目的のために使うワーク群になる。

衝動を破裂
フォビア
アレルギー
批判
許し
グリーフ

● ワークの効果の検証
介入が終わったら、効果の確認をすることが重要である。というのも、本当は効果があったにも関わらず、なんとなくでよくわからずに終えてしまうと、このワークは効果がないと思い、続けるモチベーションが減少してしまう。
また、症状が消えた場合、それはいいことではあるものの、初めからなかったと思い込みやすい。そうすると、将来同様の問題が起きたときも、そのテクニックを使うこともなければ、「自分は変わることができた」という自信を得る機会も失われてしまう。
つまり、変わったことの確認は、手法やセラピストへの信頼だけでなく、変化できる自分への信頼にもつながる。

そのため、事前と事後を比較して、どのような変化があったのかを確認することが重要である。これを行うには、症状の重さを主観的に10段階で評価してもらい、0は症状なし、10は耐えられない状態として、事前と事後に、そのスコアを測る。

またセッション・ルーム内だけでの効果としないために、フューチャーペース(未来ペース)も重要である。未来に問題の状況に遭遇したと想像し、そのときにどのように反応するかを確認し、ワークの効果を検証する。もしここで問題があるなら、足りない部分について再度介入が必要である。

また今後も効果が継続するために、症状を過去のものとしてしまうような「前提」の言葉遣いや、課題を与えたり、未来日記を書かせたりすることもできる。


 

NLPには専門用語が多い。他の心理療法でもそれなりに専門用語は出てくるが、NLPは非常に多い。英語だから難しいというよりも、英語の通常の意味に、追加で意味が付与されているためで、英語圏の人でもすんなり理解できるとは思えない。用語集が非常に長い。言語学者がわかりづらい用語を生み出すのは皮肉だ。
NLP用語(もしくは出所はNLP以外だが、NLPで採用されている概念)には、通常の使い方とは違うために、最初に聞いたときに意味が分からない、もしくは混乱するものがある。

しかし、実際の中身は、すでに知っていることばかりなのだ。何ら新しい発見があるわけでもないのに何でも名前を付けるところが、NLPの特徴と言えるかもしれない。NLP以外の心理学でも、専門用語は多く作られているのだが、どちらかというと説明のための概念という形で使われており、一方NLPではそれを動詞として使い、より実践的になっている点が特徴かもしれない。

用語を統一して共通言語にしたり、バラバラだったものを体系化したり、用語がなかったところに用語を適用したり、一般的な言葉をセラピー用語にしたりしている。

すでにある概念に短い名前を付けると、道具になる。
NLPが広まった理由の一つには、概念はほとんどすでにあったものだが、名前を付けてパターン化し、道具にしたことではないかと思う。

NLP用語は単なる概念というよりも、そこに実践的な意味合いを含んでいる。その言葉自体がリフレーミングを引き起こす。端的に一言で言うだけで、その中に多くの意味・含意がある。とはいえ、操作的、機械的な印象がある。


●メタモデルという言葉
メタモデルとは、情報収集のための質問のことだが、これが「モデル」と言われると、どうにも理解しにくい。

メタとは、上、超える、違うレベル、外側の視点に立つなどの意味がある。文脈(コンテキスト)、背景、別階層も「メタ」になる。
メタモデルというと、モデルを超えた、モデルの背景ということ。ここで言うモデルは、個人個人が持つ地図、世界観のことで、それを超越し、切り離した視点から見ることになる。とすると、メタ-モデル・モデル、つまりモデルについてのモデルとなるが、略してメタ・モデルということだろうか。最初と後のモデルは微妙に意味が異なるのが混乱を招く。後のモデルは、ミルトン・モデルや、モデリングのワークで使っているモデルと同じ意味。

●キャリブレーション
英語で、較正、校正、調整などの意味で、計測装置の示す値が正しいかどうかを、基準となる標準器や標準試料を使って比較し、その差異を修正することだが、NLPでは転用されて、相手の表情など非言語的な手がかりから相手のステートを正しく判断することとなる。原義からすると誤用にも思える。

●スイッシュ
辞書を調べても出てこないが、そのワークをする時に、「シュッ」という音で切り替えることから来る擬態語のようだ。ちなみに、このスイッシュのワークは、癖となっている行動の直前にある表象と、望ましい状態のイメージを連結させ、癖となっている行動を是正するワークである。

●ニューロ・ロジカルレベル
日本語にすると、神経学的論理レベルとなるが、さっぱりこれでは意味がわからない。環境行動能力信念/価値観アイデンティティの5段階を意味するが、ニューロを付けているのは、NLPのNeuroと同じ由来だろう。

・厳密な論理的構造と適用時の構造
適用のしやすさで区分されているものは、決して、正しい分類とは限らない。
マイケル・ホールが指摘したように、ニューロ・ロジカルレベルは、厳密な論理レベル構造ではない。
スライト・オブ・マウスの14パターンも分類が意味的には重複しているが、MECE(漏れなくダブりなく)を意識した論理的な分類よりも、適用する上での都合で分類しているようだ。

 

 


 

NLPの成立のプロセス自体がNLPである、という入れ子構造、自己増殖的なところがややこしいところである。NLP自体がモデリングによって形成されたが、NLPのワークにもモデリングがある。また、NLPを成立させたモデリングも、セラピストのモデリングと精神正常者のモデリングとでは目的が異なる。

まず、WhyよりもHowを重視するスタンスがあり、2人(サティアとパールズ)の天才セラピストをモデリングしたことで、メタモデルを発見。モデリング自体もNLPのワークとして採用される。メタモデルを見出した後は、モデリングと合わせて、新たなワークを開発する道具となる。メタモデルは、それ自体がセラピーになると同時に、クライアントの状態を正確に把握するための道具になる。

メタモデルを使って、症状の構造を発掘する。それによって、諸々の表象を操作するワークの発見となった。例えば、恐怖症を克服した人の内部表象(例えばアイパターンから、過去の記憶を構築的視覚で見ていることを発見)からフォビア・ワークを開発した。
ミルトン・エリクソンのモデリングから、催眠言語の発見があった。

NLPは、心理療法家だけでなく、様々な思想家からも影響を受けている。

◎ノーム・チョムスキー
深層構造と表層構造

◎コージブスキー
地図は領域ではない
Be動詞の問題。名詞化の問題。

◎フリッツ・パールズ
メタモデル
エンプティ・チェア

◎バージニア・サティア
メタモデル
感覚表象(VAK)

◎グレゴリー・ベイトソン
ダブルバインド、ロジカルタイプ、システム理論

◎ミルトン・エリクソン
ミルトンモデル、催眠

◎アドラー
直接的な影響は言及されていないが、アドラーの個人心理学と共通する要素は多い。精神分析のように、幼少期を時間を掛けて原因を探っていくのではなく(原因論)、過去ではなく、現在において何らかの目的のために症状を起こしている目的論)というアドラーの考え方は、NLPにおける過去の捉え方と似ている。

◎カール・ロジャース
クライアント中心療法(クライアントが解決策を持っている)。

◎イワン・パブロフ、行動療法
アンカーリング

◎ジョージ・ミラーユージン・ギャランタカール・プリブラム
TOTEモデル

●NLPのオリジナリティ

NLPで説かれる多くのワークや概念はすでにその前にあったものである。独自の枠組みで、セラピストのテクニックを体系化したことや、概念に命名を行い、実用化した点が特徴として挙げられるが、その一方、NLPのオリジナリティはあるのだろうか。

・ 心的表象

心的表象については、グレゴリーベイトソンマーシャル・マクルーハンなどが、長年話題にしていたが、そのアイデアを理論化したもので、NLP独自と言っていいのではないかと思う。もちろん、イメージを使ったワークは、既存の伝統的な瞑想の中にも見られるし、普通の人でも、誰から教わることなく、日常的に行っているものも含まれる。表象をリンクさせる方法は、行動療法で、古典的条件づけやオペラント条件付けですでにあったものではあるが、明確に表象を使う点で、より効果的になったと言える。

このカテゴリには、フォビアのワークや、アレルギー・嫌悪・批判への対処なども含まれる。

・ ニューロ・ロジカルレベル
ロバート・ディルツによる考案だが、発明かというとそうでもない。

・その他
NLPは、モデリングを使ったり、既存の概念やワークを組み合わせることで無限に新しいワークを開発することができる。

その中でも独自性があると言ったら、

アイ・ムーブメント(スティーブ・アンドレアス) ※EMDRと類似しているが背景となっている考え方は異なる。
コア・トランスフォーメーション(コニレイ・アンドレアス)
ホールネス・ワーク(コニレイ・アンドレアス)
ダイナミック・スピン・リリース(ティム&クリス・ハルボム)

● NLPの進化
 初期に登場したNLPは、後の研究者・開発者によって改良が加えられていっている。

・実践方法
 第一世代:だけで行う
 第二世代:を使う
 第三世代:の力を使う

・適用分野
 第一世代:セラピーとしてスタート。その後、セラピスト以外の様々な分野の成功者もNLPの「モデル」になる。
 第二世代:コミュニケーションツールとしても活用
 第三世代:フィールド(場)をベースとしたシステム全体的な見方が取り入れられるようになった。


● NLPに含まれない、あるいは重視されない主な要素・エクササイズ

・マインドフルネス
・精神分析、交流分析
・シャドーワーク(防衛機制、抑圧・転移・投影)
・嫌悪療法
・夢分析
・TFT
・EMDR
・エネルギーワーク
・セルフイメージ強化
・パーソナリティ、タイプ論
・自己暗示
・動機付け
・交渉
など

認知行動療法とは共通点は多い。ビリーフチェンジ論理療法は、非合理的なビリーフにアプローチする点では共通点があるが、視点が異なるのと、表象やタイムラインを活用する点でNLPの手法が勝っているように思える。

●コミュニケーション等

日常のコミュニケーションに応用できるものは多い。しかし、NLPでのコミュニケーション・スキルは、セラピーから来ているため、セールスにおけるコミュニケーションのプロをモデリングしたりはしていない。セラピストがクライアントに対して行うコミュニケーションのパターンと、日常生活やセールスにおけるコミュニケーションは共通点もあるが異なる。


最近だとロバート・ディルツがSFM(Success Factor Modeling)によって成功者をモデリングしたが、すでにナポレオン・ヒルがThink and grow richで成功者をモデリングしているので、成果というと少し疑問がある。

 

 

NLPにはあまり理論らしいものはない。ここで述べるのは、前提というよりも、説明に用いている枠組みで、これ自体は、非常にシンプルで直感的に理解できるので、詳細はともかく、あまり反対する人はいないだろう。

● 変化のプロセス
 

①目標の設定
②観察力
③柔軟性の発揮


この枠組みに特別なことはない。目標を設定し、現状を知り、対策を打つ、という極めて一般的なことだ。ただし、それぞれのプロセスにおいて、詳細な手順がある。
特に「柔軟性」は重要で、目標達成の妨げになるようなことが起きても、失敗とは見なさず、フィードバックとみなす。問題や制限を見れば、チャンスとみなす。そして、硬直した、決まったパターンで反応するのではなく、ものの見方、考え方、行動を柔軟に切り替えていく。



● コミュニケーションモデル

 


心の構造は、あまり複雑にはしていない。


・要素
要素としては、
 ・フィルタ(主に言語)
 ・内部表象
 ・フィジオロジー(身体の動作)
 ・ステート(心理状態) :最終的にここを変えるのが目的
といったシンプルなモデルになっている。
実際に使う道具もこれらになる。

ちなみに、思考感情といったものも、内部表象に含めている。思考Ad(オーディトリデジタル)として聴覚の一種、感情Ki(内部的な体感覚)にしている。直感についてもKiに含めている。フィルタは無意識的なプロセスで、記憶や言語など潜在的に埋め込まれたものを指すが、顕在化されたものが内部表象といっていい。表象重視な点は、NLPの特徴である。そうすることによって、思考・感情を操作可能な客観的な対象として扱うことができる。言語を、本質的な物ではなく、単なる音の羅列として認識する、地図は領域ではないということを気づかせてくれる。

・すべて表象にしてしまう問題点
とはいえ、区別した方がいい場合も多い。感情を体感覚にするのは、客観的に見れるようになるため、感情に対処するのに良い点がある一方、実際の触覚と区別できないのは問題である。失感情症ではこの区別ができない。
私も、お腹に軽い痛みを感じたとき、緊張感と同じ部位だったため、自分は何をそんなに焦っているのだろうかと悩んだりしたが、原因は実はコーヒーだった。それが同じ部位を刺激していたのだった。

抽象概念にも表象はある。しかし、そのイメージをその概念を知らない人に見せても、同じ理解に達しない。意味理解は表象より深いところにある。

ステートは、心理状態、「感じ方であり、気分である。ある瞬間その人物の内部で起きるあらゆる神経学的・プロセス身体プロセスをまとめた総計」と定義されている。なので、感情の体感覚的側面は内部表象、その認知的側面はステートに含めているという感じになる。「意志」という要素に関してはどこに分類されるかの言及はない。それがどう現れるかでステートになるのか内部表象になるのかというところだろう。

構造


単純に言えば、刺激-反応モデル、連想の連鎖である。

刺激→◆→反応・行動

この◆の部分を変えて、適切な反応を生み出す。◆は単純な場合もあれば、連鎖反応の場合もある。

トリガー
 ↓ フレーム、スキーマ、ビリーフ
意味、内部表象、ステート、生理状態、行動 =アンカリングされているもの

トリガーは五感・記憶・意味・思考・内部表象・ステート・行動を含むので、これが再帰的に繰り返される。
フレームはどのトリガーにも適用されるが、ビリーフは、言葉や意味に適用される。

外界の刺激 →(フレーム)→内部表象→(フレーム)→意味→ステート→行動
 

と順序よく並べるとわかりやすいが、現実は、心の中で、メタレベル、再帰的に繰り返されるので、概要を知るにはいいが、実際はそこまで単純ではない。

これは自動的に行われるが、自動化を止めたり、方向性を変えたりするのが、気づき意識の役割である。複数の選択肢があるなら、次のトリガーは自動的には起動できない。意識の判断が必要となる。意識がなければ、無限に連鎖することもあれば、それ以上連想が働かずに止まる場合もあれば、別の強い重要な刺激で、別の連鎖に移ることもある。

チャンク


情報の塊のことだが、NLPでは、抽象-具体全体-部分目的-手段要約-詳細といった階層(レベル)を指す。
上位に上がることをチャンク・アップ、下位に向かうことをチャンク・ダウンと言う。

● ニューロ・ロジカル・レベル
 

ロバート・ディルツ氏が考案した、人のレベルを6段階に階層化したモデル。
環境行動能力信念・価値観アイデンティティスピリチュアルからなる。
それぞれのレベルは、下のレベルを統合、組織化、方向づけを行う。
自分自身あるいは他者について、現状、あるいは望ましい状態について分析する際、この6つのレベルのそれぞれについて、どのような状態かを認識する際に用いられる。

● パート、パーツ

 

無意識の一部分を人格として擬人化したもの。それぞれのパートが独自の信念・価値観・欲求を持つ。人の心をパートの複合体として捉える。

● リソース
 

目標達成/問題解決に利用できる資源・手段をリソースと言っている。
具体的には、知識、スキル、環境、方法、協力者、身体、エネルギーなど活用できるすべてのもの。

 

 

 

NLPは方法論、枠組みだけを提供し、思想や理論はないと述べたが、実際のところ、背景となっている思想はある。ただし、それを絶対的真理として提示するのではなく、「前提」と表現している。「前提」というのは、証明されたものではなく、仮に正しいものとして前提に置くという意味で、その前提を覆せば、結果も崩れるということである。
本来、前提というものは、無意識のうちに刷り込んでしまうものである。例えば、「神を信じるか否か」という質問は、神が存在することを暗黙の前提にして、「信じません」という回答は、不届き者の刻印を押されてしまう。

NLPへの批判として、「失敗はない。フィードバックがあるだけ」が取り上げられることがあり、失敗を認める必要がある場合もあると言う。全くその通りだ。だから、「前提」であって、その格言は「真理」とは言わない。

それを明示しているということは、種を明かしているようなもので、これらは真実というわけではないことを明言して、真理を主張することを避けているとも言える。

根底には、

固定的な見方から解放すること
内面に力があること
他者への愛
全体性を考慮する

という考え方がある。結果として自由を手に入れることができる。

前提には以下のようなものがある。

●タイプ1 物事の認識の仕方(柔軟な見方)

・地図は領域ではない(Map is not territory)
 これは哲学者コージブスキーの言葉であるが、非常に深い意味がある。メタモデルやリフレーミング、もっといえばNLPの最も根底にある前提だといっていい。
 私達が使っている言葉は、それが象徴する出来事や事象そのものではない。
 これも「前提」とあるとおり、NLP自体も一つの地図である。現在の見方が絶対ではなく、柔軟に見方を変えていくこと。また人によって地図は違うことも意識する。原理主義者は、自分たちの教義を絶対的な地図とみなす。

・心と身体は1つのシステムである。
 心と身体、どちらかに還元するのではなく、相互作用を見ていく。システム理論が取り入れられている。

・行動をキャリブレートする。
 相手の言っている内容だけでは本心はわからない。むしろ、ノンバーバル(非言語的要素。表情、姿勢、口調、声のトーン)などに現れてきている。

●タイプ2 自己責任、リソースと柔軟性、可能性
これも物事の認識の仕方の一つだが、外側に力があるのではなく、自分に原因、力、自由があることを知る。NLPではよく「原因側に立つ」という言い方をする。一度失敗しても、自分が駄目ということではなく、アプローチの方法を柔軟に変えていくこと。これは他者に対しても同じで、相手自身がリソースを持っていることを認識する。

・あなたの心・精神を管理しているのはあなた自身。よってその結果もあなたの責任である。
・意識が向いているところにエネルギーは流れていく。

 
・人は、成功や自分が望むアウトカムを達成するために、必要なリソースを全て持っている。

・誰かに出来ることなら、自分にもできる。
・問題、制限とは『チャンス』である。
・失敗はない、フィードバックがあるだけ。
・必須多様性の法則:最も柔軟(フレキシブル)な行動をとることができる人のシステムが、システムをコントロールすることができる。


・すべてのプロセスは、選択肢を広げるようにデザインされている必要がある
選択肢が一つだけではうまくいかない場合に進めなくなる。柔軟に進めるために常に選択肢が広がるようにする。またワークの結果として到達した状態では、どの行動も取ろうと思えば、選択肢として取れる状態であること。

・クライアントからの抵抗は、ラボールが不足しているということ。
・相手の反応が、あなたのコミュニケーションの成果である。


●タイプ3  他者への認識、愛
相手の見かけではなく存在を尊重し、どのような行動を取っていたとしてもそこには肯定的意図がある。

・相手の世界観を尊重する。
「地図は領域ではない」ので、相手は自分とは違う地図を持っているかもしれない。相手の地図がおかしく見えたとしても、相手の見方を尊重する。

・その人の行動がその人自身ではない。
行動はその人の一面を現しているだけですべてではない。一面だけで判断するのではなく、全体で判断すること。

・人は、持てる限りのリソースを使って最善を尽くしている。
一見破滅的な行動に見えたとしても、その人にとってはそれが最善であり、またその行動の背景には何らかの肯定的意図がある。

●タイプ4 エコロジーへの配慮
NLPでは全体性を重視する。自分にとっての目先の結果だけではなく、周りへの影響、将来への影響も考慮に入れる。その点の考慮不足で、あとで良くない結果が出たり、あるいはそれを予期して自分自身でブレーキを掛けたりする。したがって、NLPのワークをする際は必ずエコロジー・チェックが入る。
唯一、NLPが、価値の中身に言及しているとしたら、エコロジーである。しかし、エコロジーは単に、自分、家族、国、地球への影響を考えるというだけで、どうあるべきかは本人が考える。

・行動と変化は、状況(コンテクスト)とエコロジーの観点から判断(評価)される。

・すべてのプロセスは、全体性を広げるためにある。

以上のようにNLPの18の前提を4つのタイプに分けたが、実際、それぞれは別のカテゴリにも入れられる。