メタモデルは、グリンダーとバンドラーがNLPで最初に開発したモデルで、相手の経験をより具体的に理解するための情報収集のための質問からなる。
相手が言葉を発した際、その言葉の中にすべての情報が含まれているとは限らない。たとえ、多くの言葉を発したとしても漏れている部分はある。この情報が網羅されているものを「深層構造」と言い、言葉として発せられたものを「表層構造」と呼ぶ*。
メタモデルは、欠けている情報を埋め合わせて、「深層構造」にある経験を取り戻す。しばしば深層構造は、本人も自覚していない無意識にある。
*表層構造・深層構造は、言語学者チョムスキーの「生成文法」からの概念の借用である。なおチョムスキーは「深層構造」は完全な文、「表層構造」は、実際に言葉として表現する際に、変形された文のことを言い、NLPで使われている内容とは微妙に異なる。
● 削除・歪曲・一般化
元来人が言葉を使うときは、情報の一部だけが選ばれ、他の情報が削除され、例外が考慮されずに一般化され、単純化する過程で意味が歪められる。
カテゴリ | 項目 | 意味 | 質問 |
削除 |
不特定名詞 | 対象を特定しない名詞 | 具体的に誰が?いつ? |
不特定動詞 | どのように行われるか特定されていない | 具体的にどのように? | |
比較 | 比較対象が明示されていない | 何と比べて? | |
判断 | 評価者や基準が欠落 | 誰が、何を基準に? | |
名詞化 | プロセスを、固定的な名詞にしてしまう | 誰が、何について、どのように? | |
一般化 |
可能性の叙法助動詞 | できない | できたとしたら? 何が~をさせないのか? |
必要性の叙法助動詞 | しなければならない | ~をする(しない)とどうなるか? | |
普遍的数量詞 | いつも、すべて、みんな、一つも~ない | 本当にいつも起こる? 決して、たったの一度も? |
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歪曲 |
複合等価 | X=Y | どうしてXがYを意味するのか? XがYでなかったことは一度もないのか? |
因果 | X→Y | どうしてXがYを引き起こすのか Xが原因でないとすると、どうなるのか? |
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前提 | 何かを前提としていることが隠されている | どうしてそうわかるのか? | |
読心術 | 人の考えや感情を根拠なしに決めつける | どうしてそうわかるのか? |
●メタモデルの利点
1.相手の言いたいことを明確にする
それによって正確なコミュニケーションを可能にする。
2.相手の制限となるビリーフを解体し、選択肢を広げる
ビリーフは極端に歪曲、一般化されている。メタモデルの質問によって、根拠がないことがわかれば、それによって制約が解除され、より選択肢が広がる。
3.議論に強くなる。詐欺に引っ掛からない
ひろゆきの有名な言葉「それって、あなたの感想ですよね」というのは、メタモデルで言う「判断」を問うもの。議論においては、自分の意見を通すために、根拠のない歪曲や一般可が横行する。
●削除・歪曲・一般化の関係
削除・歪曲・一般化は全く別物というわけではなく、どれ一つとっても、他の代表になれる。
歪曲も一般化も、削除の一種である。例外、他のパターンを削除している。
歪曲は一般化の一種である。一つの因果関係、等価を一般化している。
削除は一般化の一種である。抽象表現で一般化している。
一般化は歪曲の一種である。歪曲した因果関係を一般化している。
削除は歪曲の一種である。重要な情報をないかのように歪曲している。
●なぜ削除・歪曲・一般化を行うのか
私たちは常に、選択・決定を迫られている。考えることは労力を使うし、選択・決定には責任が伴う。時間もかかる。すなわち苦痛がある。よってそれを極力避けたい。
何も決定しないと、課題が残り続ける。そして何も進まない。この状態はモヤモヤしている。
削除してしまえば、検討材料は少なくて済む。一般化してしまえば、すべてのケースに適用できる。決まり・ルールがあれば、思考をせずに判断できる。
削除・歪曲・一般化は、選択・決定を簡便化し、労力少なく生きていく方法の一つである。
メタモデルの削除・一般化・歪曲は人間が法則を見出すときに使われるプロセスでもある。
つまり、経験から、ノイズを省いて、必要な部分のみを抽出し、それを一般原則化し、事象に対して意味を付与するか、因果関係を導き出す。これが学習と言われるものである。
しかしながら、その法則は、常に成り立つものではなく、それどころかほとんど成り立たない場合もある。自己実現的な法則もある。「自分はできない」などは、自分でその法則を証明できてしまう。
動物は本能と、過去の経験から学習した内容に従って判断する。あまり迷いはない。
人間は思考能力があるために、悩む。ああでもないこうでもないと。知らないことは苦痛である。だから知ったふりをする。
悩まない人は、即断する。が、短絡的で、熟慮が足りない結果多くの失敗をする。そして懲りずに失敗を繰り返す。
◎問題となるパターン:
・情報収集が足りないケース。
・論理的思考能力を欠いているケース。
・思い込みが強すぎるケース。
・決定・責任を恐れているケース。
・決定に関する方式が確立されていないケース。好みや価値観が統一されていない。
◎優れた人は、
・情報収集に優れている(深層構造へアクセスできる)
より多くの情報のソースを持っている。
非言語情報も用いる。
直感を持つ(直感は、非言語と言われているものも含むが、それを超越した情報のソースにアクセスし微妙なサインをキャッチする)
・思い込みを排除して、合理的に判断する(一般化・歪曲を排除)
より多くの視点を考慮できる。
・決定を恐れない。
・確率や統計により、有利なものを選択する。
・好みや価値観を認識して、決定ができる。
・必要なら、躊躇なく、決定を先延ばしできる。
・柔軟性がある
・わからないことを受容する。好奇心がある。
●メタモデルの使い方
NLPの創設者のジョングリンダーが、生徒にメタモデルを練習してくるよう宿題を与えたら、周りの人と仲たがいしてしまったという報告が多々あったという。
メタモデルを人に対して使うときは、注意する必要がある。
例えば、だれかが
「みんな、そう言っている」
と言ったとき、これはメタモデルで言う一般化にあたる。多くの場合、発言者は、みんなに確認は取っていない。
・みんな、そう考えるに違いないという思い込み。
・みんな、そう思っているように感じる。
・周りの数人から聞いた。
・周りの数十人から聞いた。
ただ、それを指摘するのは、挑発的で、酷く屈辱的になり得る。
言い方は、謙虚に純粋に、
「みんな?」
という聞き方がいい。
そうすると、本人自ら、いや全員ではない、と気づく。もっとも全員だと言い張るケースも多いだろう。
メタモデルの質問が挑発的にとらえられるのは、質問=相手の意見の否定と捉えられてしまうからだ。
もし、「私には、●●の才能があると思う」と言われたときに、「どうしてそう思うの?」「何で?」と聞くと、それは、才能がないという前提で聞いている、そう思えない、と取られかねない。なので、「そこ詳しく聞きたいな」ぐらいな言い方にする。
● メタモデルで「なぜ」は使わない
メタモデルになぜ、「なぜ」「何で」の質問は基本的にない。「なぜ」「なんで」は相手の責任を問うことになりかねず、言い訳をでっち上げ、本当の情報が得られず、本来ほしい真実が得られなくなるからである。
ではなく、「どのように」、あるいはビリーフに対して、どうしてそれを信じているのか。
何かを行った動機を聞くには、「なぜ」よりも、「何のために」「それを通して得たいものは何か」「何があってそうしたのか」と問う。