【問題】

捜査段階における参考人が、捜査機関に虚偽の供述をした場合、証拠偽造罪(104条)が成立するか?


従来は、証拠偽造罪の成立を否定するものが多数でした(否定説)。理由としては、次のようなものが挙げられていました(参考:西田典之『刑法各論[第4版]』426頁以下。ただし、西田先生は肯定説)。


1.虚偽供述は偽証罪に限って処罰するのが刑法典の建前。

2.104条にいう「証拠」とは、「証拠方法」(参考人・書面など)に限られ、無形の「証拠資料」(供述・記載内容など)を含まない。


それでは、参考人が捜査官に対して虚偽の供述をしたにとどまらず、その虚偽供述が録取されて供述調書が作成されるに至った場合はどうでしょうか?この場合は、捜査官を介して、「供述録取書」という「証拠方法」が偽造された、とも考えられ、証拠偽造罪が成立する、とも言えそうです。


しかし、この問題についての裁判例として、千葉地裁平成7年6月2日判時1535号144頁があり、この場合も証拠偽造罪は成立しないとしています。次のようにいいます。


「参考人が捜査官に対して虚偽の供述をすることは、それが犯人隠避罪に当たり得ることは別として、証憑偽造罪には当たらないものと解するのが相当である(引用判例省略-ESP)。それでは、参考人が捜査官に対して虚偽の供述をしたにとどまらず,その虚偽供述が録取されて供述調書が作成されるに至った場合、すなわち、本件のような場合は、どうであろうか。この場合、形式的には、捜査官を利用して同人をして供述調書という証憑を偽造させたものと解することができるようにも思われる。しかし、この供述調書は、参考人の捜査官に対する供述を録取したにすぎないものであるから(供述調書は、これを供述者に読み聞かせるなどして、供述者がそれに誤りのないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができるところ、本件にあっても、被告人が供述調書を読み聞かされて誤りのないことを申し立て署名指印しているが)、参考人が捜査官に対して虚偽の供述をすることそれ自体が、証憑偽造罪に当たらないと同様に、供述調書が作成されるに至った場合であっても、やはり、それが証憑偽造罪を構成することはあり得ないものと解すべきである」


※ただし、裁判例の動向として注意すべきは、参考人が虚偽の内容を記載した上申書等を作成し、捜査機関に提出した場合は、証拠偽造罪が成立するとしていることです(後掲・只木257頁)。


最終的にどちらの見解をとるかは自由だと思いますが、この問題を考えるポイントは、


1.104条の「証拠」とは何か?「証拠方法」に限るのか、「証拠資料」も含むのか。→文言の解釈

2.刑法は虚偽の供述について、証人における偽証罪に限って処罰する趣旨なのか。→刑法典の趣旨

3.肯定説を採用した場合、処罰範囲が拡大するおそれはないか。→政策的考慮


だと思います。これらを踏まえた上で、自己の見解を打ち立てればよいと思います。


私としては、次のように考えています。刑法104条の「証拠」という文言からすれば、証拠方法に限定するとは限られず、証拠資料も含むことはできます。また、偽証罪の存在をもって、(宣誓を受けた)証人以外の虚偽供述が処罰されないともいえないでしょう。また、肯定説を採用した場合、処罰範囲が拡大されるおそれがあるとの批判が考えられますが、104条は故意犯であって、故意がない場合は処罰されないことからすれば、肯定説を採用しても、処罰範囲が拡大されるとは言えません。逆から言えば、虚偽であることを知りながら、あえて虚偽供述をした参考人について、可罰性がないとはいえないでしょう。以上から、解釈論としては、虚偽供述の場合も、証拠偽造罪が成立すると解すべきです。


(以下のパラグラフは、解釈論を超えています)

さらに、この問題についてはここ10年は判例等はありません。しかし、ここ数年で犯罪をとりまく状況は大きく変化し、特に犯罪の組織化は顕著なものです。オウム真理教事件、薬物事件、振り込め詐欺事件等は、全て巨大犯罪グループによる犯罪です。そして、組織犯罪において、参考人の虚偽供述が捜査に与える影響は決して無視できません。以上からすれば、従来の裁判例が採ってきた否定説が変更される可能性はあると思います。


【参考文献】

只木誠「参考人の虚偽供述と証拠偽造罪」『刑法の争点』(有斐閣・2007年)256頁以下→肯定説。

野村修也先生によるご解説。


09年経済展望 中小企業の資金繰り対策<1/9 22:47> (日テレNEWS24)

http://www.news24.jp/126675.html


ところで、このインタビューの収録はどこで行われたのでしょうか?

背景を見ると、気になります。どこかの博物館?

青柳幸一「裁判員制度と報道」ジュリスト1370号172頁以下

「最高裁判所も、表現の自由が『基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであ』(最大決平成10・12・1民集52巻9号1761頁)ることは認めている。ただし、職業の自由の規制の合憲性をめぐる判決における『二重の基準』論を容認するかのような判示は『「口先だけの告白」にとどま』り、表現の自由の重要性の是認が、表現の自由を規制する法令の合憲性を審査する最も厳格度の高い『厳格審査の基準』とは、結びついていない。他方、憲法学説は、一般に、表現の自由の『優越的地位』を認め、表現内容に基づく規制の合憲性を『厳格審査の基準』で判定する。しかし、表現の自由の原理論や審査基準論が十分に議論され、理解されているとは、なお言い難い。例えば、『優越的地位』論は表現の自由の絶対的な保障を意味するわけではない。また、『合理性の基準』の下の観念的・抽象的な審査が問題であるばかりでなく、『厳格審査の基準』を違憲という結論に直結するような一面的な審査にも問題があり、いずれの場合にも、事案の内容に即して個別的・具体的に検討することが必要である」


気合いの入った論説が多数並んでいます。

刑事訴訟法の判例、理論はこれから10年で大きく変わると思われます。


ジュリスト1370号

http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/detail/017781


【特集】

刑事訴訟法60年・裁判員法元年


行政法のケーススタディーでよくある入管関係。


在留特別許可について、認められた事例と認められなかった事例が、法務省のホームページで公開されていましたので、ご紹介します(はじめて知りました)。


在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について(法務省ホームページ)

http://www.moj.go.jp/NYUKAN/nyukan25.html