残暑が終わり
 
日が暮れるのが早くなってきたなぁと
 
感じだした、9月の土曜日
 
 
 
 
 
 
来院された神谷さんは
 
何時になく暗い顔をしていました
 
 
 
 
 
 
藤井くんとお付きあいを始めてからは
 
彼とのデートの話を伺いながら、
 
鍼灸の施術をするのが常でしたが
 
 
 
 
 
その日の神谷さんは
 
口数も少なく、黙ってベッドに横になりました
 
 
 
 
 
 
私は、わざと何時もよりゆっくりと
 
施術の用意をしながら
 
「なにかありましたか?」
 
と聞きました
 
 
 
 
 
 
彼女は、はぁ~っとため息を付き
 
「前にお付き合いしていた彼が
 
赴任先から帰ってきたんです。」
 
と、言いました
 
 
 
 
 
「連絡があったんですね?」
 
という問いかけには返事をせず
 
彼女は、またため息を付きました
 
 
 
 
 
私は黙って施術を始め、
 
彼女の体の緊張がほぐれて
 
自分から話してくれるのを待ちました
 
 
 
 
 
うつ伏せになり、背中のお灸が始まると
 
「待っていたんです。」
 
と、神谷さんは話し出しました
 
 
 
 
 
以前お付き合いしていた彼が
 
アメリカに赴任することになった時
 
 
 
 
プロポーズしてくれるんじゃないかって
 
期待して待っていたけれど
 
その日が来ないまま
 
彼は行ってしまった
 
 
 
 
 
 
ついて来てほしいとも
 
迎えに来るとも、言ってはくれず
 
連絡するよとだけ言って
 
彼は行ってしまった
 
 
 
 
 
最初の1年は、お互いに
 
連絡を取り合っていたけれど
 
そのうち、この宙ぶらりんな関係を
 
どう捉えていいのか分からなくて
 
苦しくなり、返事をしなくなった
 
 
 
 
 
自分は、
 
結局プロポーズしてもらえないまま
 
振られたのだ
 
そう捉えることにして
 
彼を忘れる努力をした
 
 
 
 
 
 
その彼が、アメリカから
 
日本に転勤になって帰ってきた
 
 
 
 
 
 
連絡があり、懐かしくて
 
誘われるまま会いに行ってしまった
 
 
 
 
 
 
彼が待ち合わせに指定してきた場所は
 
以前の彼なら、行かないだろうなと思うような
 
おしゃれで高級そうな
 
ホテルのレストランだった
 
 
 
 
 
 
 
「久しぶり。なんか、
 
めっちゃきれいになったね。」
 
と言って、笑顔を見せた彼は
 
以前より、太って柔らかい雰囲気になっていて
 
話していても楽しく、あっという間に時間が過ぎた
 
 
 
 
 
ふと時計を見ると、もう3時間経っていた
 
 
 
 
楽しい時間を過ごしたことに
 
急に罪悪感が出てきて
 
「もう、帰らなきゃ」
 
と言った時、彼が
 
「また会えるかな?」
 
と聞いてきて、近い距離で眼と眼が合い
 
ドキンとした瞬間、藤井君の顔がよぎり
 
胸が締め付けられるように苦しくなった
 
 
 
 
 
結局、それに対して
 
きちんと返事をしないまま
 
駅で彼と別れた
 
 
 

 
「ありがとう。また連絡するよ」
 
と、彼はにこやかに手を振った
 
 
 
 
 
電車に乗り、カバンから本を出そうとして
 
手を止めた
image
 
私は一体、何をしているんだろう
 
 
 
 
 
藤井君と付き合っているのに
 
元彼と食事に行って・・・
 
 
 
 
 
 
私は一体、何をしたいんだろう・・・
 
 
 
 
 
そう思って
 
自己嫌悪を感じたまま
 
ここ数日を過ごしていた
 
 
 
 
 
 
そんな神谷さんの話でした
 
 
 
 
 
その日は、とうとう最後まで
 
彼女は眠らず、私もいつもの映像を
 
見ることはありませんでした
 
 
 
 
 
 
待合に戻り、ハーブティをお出ししましたが
 
神谷さんはお茶には手を付けず
 
じっと私を見て
 
 
 
 
「先生、私のことどう思いますか?
 
先生ならどうしますか?」
 
 
 
 
と聞きました。
 
 
 
 
「私なら、迷った時点で
 
どっちも大して好きじゃないんだな
 
と思うでしょうね。」
 
 
 
 
 そう答えると
 
神谷さんは無言で立ち上がり
 
また連絡します
 
と、一礼して帰って行きました
 
 
 
 
 
 
 
 
 
続く
 
 
 
 

 

 

 

ある日、突然我が家の寝室にカシエルが?! 龍を呼び起こす白い麒麟、索冥を追って はじめましての方へこれまでの私について 霊能者なおこの事件ファイル 江島直子著「鳳凰メソッド」サイン入りメッセージカード付き VenusWebShop 江島直子のオリジナルグッズを販売しております