大山誠一郎『記憶の中の誘拐 赤い博物館』。
赤い博物館と呼ばれる犯罪資料館の館長・緋色冴子が、過去の事件の遺留品や資料を元に独断で再捜査を行い、唯一の部下である捜査員の寺田聡と共に未解決事件を解決するシリーズ第二作目です。
今回、前作と違うところは、前は緋色冴子が完全な安楽椅子型探偵で、赤い博物館から一歩も出ないで昔の事件を推理し、解決に導いていたのですが、今回はどの事件においても緋色冴子は部下の寺田に同行し、犯人を堂々と指摘する、割とオーソドックスなスタイルの探偵役のように変容している点です。
前作は前にドラマにもなってるんですがそっちの緋色冴子(松下由樹)にキャラが近づいたと少し言えなくもないです。
でも基本全然キャラクター変わってないですけど。
5つの短編で構成されていますが、まず一作目の「夕暮れの屋上で」は、過去に美術部の女子高生が屋上で死んだ事件を解決する話ですが、それまで絞られていた容疑者と事件の大前提が解決編で崩れ、ひっくり返るところが中々秀逸です。
そこできっちり伏線が効いてくるところも見事です。
「連火」はなんとも不思議な事件で、誰かに会いたいから放火事件を繰り返し、その度に火をつける家の住人に電話をして「火事だから逃げろ」と警告する犯人が過去にいて、その過去の犯罪を追及するお話ですが、設定が変わっているので最初から最後までずっと謎めいていて、とても面白かったです。
「死を十で割る」は、ある主婦がプラットホームで電車に飛び込み自殺する前にその夫がバラバラにされて殺されており、夫殺しはその自殺した主婦ではないかという疑惑が残ったまま迷宮入りしていた事件を解決するお話ですが、これもまた設定が凝っています。
登場人物が限られているので一応犯人は薄々わかったんですが、何故犯人は死体を不自然な形でバラバラにしたのか?という事から連なる犯人側の不思議な犯行事情が解明される解決篇での真相が実に意外性に満ちたもので、これも中々に凝った秀作です。
個人的にはこの中の最高傑作だと思います。
「孤独な容疑者」はある種の倒叙ミステリですが、なんとも変種な倒叙で、終盤に発覚する真相には、あっと言わされますな。
これも驚きの秀作です。
最後の表題作「記憶の中の誘拐」は、子供の頃、誘拐事件に巻き込まれた寺田の友人が事件の真相を知りたくて、再捜査を頼んでくるお話ですが、これも実に不思議なひっくり返り方をする作品で、終盤真相が解明されると、ちょっと唸らされましたね。
大山さんのミステリは、この作品に限らず、まずとっても読みやすいんですが、ところがこちらもいつもそうですが、ミステリとしては徹底的に凝りに凝っています。
設定の奇抜さ、推理の斬新さ、真相の意外性というものが錯綜的に絡み合って、実に良く出来た本格ミステリに結実していることが多いのですが、この作品も見事に随所に唸らされる面白さのある、本格ミステリ連作短編集の傑作です。