真実のノート -9ページ目

最終話『真実のノート』

…俺達の幸せの裏側で 泣いてる奴がいる

誰にも言えず 俺は ずっとその事が 気にかかっていた。

だけど 俺達にとって 叔父さんは もはや かけがえのない人で 母が 叔父さんを愛してる事は 子供だった俺にも 十分 わかっていた
だから、このまま 幸せなら それでいい そう思うようになったんだ

あの日 佐奈 お前をこの目で 見る迄は・・


叔父さんの本宅が どの場所にあるかは 叔父さんのカバンの中の書類を こっそり 調べて知っていた。

あの日 電車を乗り継ぎ 本宅を 見に行ったのは 叔父さんのもう1つの生活の
場所を 一度でいいから 見てみたい そんな好奇心からだったんだ


叔父さんの家は 鉄格子のような 門構えの 立派な 屋敷だった。 余りの 大きさに 驚いていると 向こうの方から 金色の髪の少女が 来るのが見えた
(不味い!!)なんとなく俺はそう思い 側にあった 桜の木の影に 隠れたんだ。

最終話『真実のノート』

だが 幸せなはずの母は、時々 暗い表情を 浮かべ 何かを思い悩んでいた。

そして ある日 ふと 夜中に目覚めた時
「今日 芳江さんから、電話がありました 佐奈お嬢さんのお誕生日だったと言うじゃないですか! 貴方 知ってらしたのに 何故 帰らなかったんですか」

隣の部屋から そんな母の話し声が 聞こえたんだ

「いいんだ 秘書に プレゼントは 持たせたから そんな事より 恵子 お前が 寝込んだと聞いて 心配で 東京から 飛んで来たんだよ大丈夫なのか?」

「ただの風邪ですわ 心配有りません そんな事より今からでもいいですから、佐奈お嬢さんの所に 顔を出してあげて 下さい
芳江さんが 怒っています」

「いいんだ 気にするな 元々 形だけの 夫婦だ それより 側に 付いてて やるから 横になって 眠りなさい」

「貴方は 何も わかってらっしゃらないわ 芳江さんは貴方を 愛してます 邪魔者は わたしと誠の方です」

「もう 言うな!! わたしが大切なのは お前と誠だ」

「いいえ 勝利さん このままでは いけません 貴方は家族のいる方なんです!! 私達の為に 佐奈お嬢さんが…」

「恵子…頼む どうしようも無いんだ わたしは お前を…」


「勝利さん…」


そんな夜中の口論を俺は 耳をすませて
聞いていた。そして
叔父さんと母の 話しの内容で 俺は 初めて 母が 叔父さんの愛人だと知ったんだ。


母の苦悩の理由


それは 自分の幸せの裏にある 叔父さんが犠牲にしてしまった家族への 懺悔だった。

最終話『真実のノート』

遠くで 救急車のサイレンが 聞こえる…

「誠!! しっかりしろ!!」
これは…

父さんの声だ…


「いやぁー!!!!まこと!!!!」


か…あさん…



ま……こと



ま…こ…



段々と 遠くなってゆく声


俺……もしかして



死ぬのか?



佐奈が…待ってるのに



俺の 帰りを待っててくれるのに…


もう…お前の元に 帰る事は



出来ないのか?





その時



「椎葉 誠さん」


肩を 叩かれ 振り向くと

何故か 背後に 白髪の老人が 立っていた。


見覚えのある老人の顔に

「貴方は いつも行ってた喫茶店の…?」

そこまで 言いかけると


「はい 老人マスターです」
マスターは そう言いながら

深々と 頭を下げた。


そして、手に持った 一冊の 青いノートを 差し出し

「貴方には 最後に 想いを伝えたい方が いらっしゃいますね」

そう言った。


(想いを伝えたい…)

最後…そう思った瞬間
佐奈!!


あいつの顔が 暗闇の中に

浮かびあがった。


俺が 死んだら あいつは

どうなるんだ!?
その時

(誠 貴方が 居なければ 生きていけないよ!!!!)


暗闇に幻影の様に浮かびあがった あいつが そう叫んで 涙を流した。


「さあ 貴方の最後の願いを この真実のノートの中に託しましょう」


マスターは そう言うと


ノートの1ページ目を 開き俺に向ける



「真実のノート…!?」


真実…

しんじつ…

そうだ あいつを 愛した俺の全てが 真実だった





遠い昔、桜吹雪の中、金色の髪が 風に
揺れていた


佐奈…俺が お前を 初めて

見たのは 中学3年になったばかりの春だった。



桜の木の影に 隠れて 見ていた 俺の目に 映る お前の髪は とても 眩しくて 思わず 目を細めたんだ…


「あれが 叔父さんの子供か」
そう呟きながら、段々と遠くなるお前をずっと見詰めてた
だけど あの時 俺の目に 映った お前の後ろ姿は
まだ 好奇心の対象にしか 過ぎなかったんだ。


何故 お前の存在を知ったのか?


それは まるで 本当の父親の様に 優しくしてくれる叔父さんと 母の喧嘩を 盗み聞きしてしまったから…

物心ついた時から 叔父さん(神林勝利)は ずっと 俺の 側に居てくれた。
たまに 「お父さん」
そう呼んでしまう時があって そう呼ぶと 母は 慌てて 「この人は 父さんじゃ無いわよ」そう否定して 俺を叱りつけた。
「何も そんなに 怒らなくても…」
叔父さんは そう言って しゅんとする俺を いつも…かばってくれたんだ。



何故 いつも 頻繁に家に来るのに お父さんじゃ無いんだろう?

子供心に 俺は そう思っていた。

だって そんな叔父さんの横で 母は いつも 幸せそうに笑ってたし

叔父さんも そんな母を
とても 大切にしてくれていた。

俺と母と 叔父さん 3人は
誰の目から見ても、 仲の良い幸せな家族だった。