真実のノート -10ページ目

最終話『真実のノート』

だけど「母さん また 来るよ」

そう言いながら ニコリと微笑む俺に 母は

「今度は 佐奈さんと一緒にね…」
そう言って 微笑み返してくれたので、安心する事ができた。


外は 冷えるから玄関先でいいと言うのに 父は
「門迄 送るよ」
そう言いながら ドアを開ける そんな父の後に続いて俺は 門迄続く 見事に広い庭を歩いた。

昨日降り積もった雪は 日中に差し込んだ 太陽の光に寄って、見事に溶かされていた
「なあ 誠 今も ふと 思うんだが 人間に取って 真実とは 何だと思う!?」
ゆっくりと 歩みを進めながら 父が 問いかける

俺は 父の質問に

「さあ 良く解らないけど人が 人を大切に思う時に生まれる物 かな…」

と 答えた。

「お前に取っては 佐奈なのか?」

「父さん…」

俺は 父の言葉に 少しの間 間を置くと

「はい 真実とは 色々な意味合いがあり 一口では 言えないけど、俺にとって 佐奈を 想う この気持ちだけは 一番強い かけがえのない 真実です」

そう答えた。

「そうか お前が そう言うなら わたしは もう何も言わん 何が 幸せなのか? 一番 知っているのは お前自信だものな」

父が 目尻に何本もシワを寄せ 優しく微笑む

「すいません 父さん」

俺は 父の気持ちを思うといたたまれなくなり
頭を 下げずには いられなかった。

「謝るのは わたしの方だよ 誠 今迄 苦しい思いをさせて、すまなかった 」
父の手が 俺の両肩を包んだ。
(父さん…)
そんな 父の手を 小さく感じた俺の心に 若干の寂しさが 押し寄せる

だが 心根の偉大なこの父を これから 俺は 目指すのだ
何よりも 1人の人間として政治家として 尊敬する父
佐奈 俺達は 何て 素晴らしい 父を持ったのだろう
ふいに 今頃 ふて腐れながら 俺の帰りを待ってるだろう佐奈に 語りかけた。

門の前迄 来ると

「父さん また」

俺は 軽く 父に手を振った
「ああ またな 誠」

父の笑顔が 両脇の街灯に照らされて 青白く 浮かんだ。


そして 父に背を向けた その時



「神林!! 死ねぇーっ!!!!」


闇を切り裂く 大きな 叫び声と共に 植え込みの中から 黒い 物体が飛び出し 父に全速力で 向かってきた。

持つ手に キラリと光った物
(包丁だ!!!!)

「父さん!!!!」

俺は 咄嗟に 父の前に立ち塞がった!!

「誠!!!!」

父の叫び声が 背後から、聞こえる


「うっぐぅ!!!!」

その直後 腹部に鈍い痛みと、何かが埋め込まれた様な、違和感が走った。
「ハアハア…」
見ると、荒い息を切らせながら、俺の胸に顔を埋める 男がいた。
「ちくしょう!!」
男は 俺の腹部から 包丁を引き抜くと 背後の父に 更に 襲いかかろうとした。 「!!!!」
俺は 最大の力を降り絞り男の両手を 掴んだ。
「離せ!!」暴れる男
「誰だ!! お前は!? 」

男に向かい 叫んだ 直後に視界が歪んだ!!

「神林!! お前が 裏金を告発したせいで 俺は 何もかも無くしたんだー!!!!」

男は 叫び声をあげると
俺の手を力づくで 振り払った。 (まずい!!!!)俺は振り返るとぼーぜんと立ち尽くす父に
「父さん 逃げろ!!」
力いっぱいに叫んだ!!「死ね!!神林!!」男が父に向かい振り降ろそうとした
刀を 掴む俺
「邪魔するな!!」
男が 再び もがき、振り払おうとした直後「うっ!!」
胸に グサリと 衝撃が
走り抜けた その瞬間
意識に一瞬の、暗闇が襲う


(父さん に…げ…)


(……ろ)


次第に混濁してゆく意識の中、俺は父に向かい、祈る様に叫んだ!!スローモーションの様にゆっくりと、沈んでゆく身体…気が付くと
アスファルトの上に

血に 染まる 手のひらが 見えた
(俺の手のひらか?)

その向こうで 数人の男に取り押さえられている 男の姿が 半透明に 歪みながら 見えた。


(良かっ……た)



そう思うと 同時に 徐々に

忍びよる 暗闇は



渦を巻きながら


俺の 身体を 包み込んだ。

最終章『真実のノート』

・・・・誠・・・・


その日 俺は 久々に会う
父と母と一緒に
話しを弾ませながら 夕食の楽しい一時を過ごしていた。

これからの進路の話しも一段落し、和やかな雰囲気に包まれた食卓には 母と、梅が用意してくれた
俺の大好物がズラリと並んでいる。

だが、楽しい会話の裏側で俺は 父と母の口に出来ない想いを ちゃんと 感じ取っていた。

この春、俺は 最大の親不孝をしてしまった。

ずっと 秘めていようと

忘れようと した 血の繋がった妹、佐奈への想い

それを 止める事が 出来ず俺は 父と母 そして、佐奈の母親を 泣かせてしまったのだ…

だが それと 引き替えに 今 最大の幸せが 俺の側に居る

(佐奈…)

楽しい会話を 弾ませながらも 俺は 腕時計に 視線を落とし 時刻を確認した
夜 10時35分

寂しがりやの佐奈は 多分 俺の帰りを待っててくれるはずだ

「そろそろ行くよ ご馳走様 美味しかったよ」

そう言うと 俺は 席を立った。

「気を付けて 帰りなさい佐奈さんに 宜しくね」

玄関先で そう言った母の表情は、どこか少し寂しげだった。


16話『愛だけを見詰めて』

朝、目覚めて カーテンを開けると、窓の外は 一面白銀の世界だった。

「うわぁ~こんなの初めてかも」
まるで、スキー場にでも 泊まりに来てるかのような景色に 圧倒されながら
「うぅ~寒い」
余りの寒さに 震え 温風ヒーターのスイッチを押す。
見ると 誠はまだ 気持ち良さそうに 眠っていた。

「さてと やりますか」
私は パジャマの上に エプロンを巻き キッチンに立った。
誠のお弁当と ついでに、私のお弁当を作る 鼻歌なんか歌いながら♪
結構 これが 幸せな時間なのだ



「誠 時間だよ」

いつもの時間に 起こして
2人で 朝食を食べて

2人で、歯を磨く

「なぁ 今日さ 帰り 父さんの所に寄ってくるから 遅くなるけど 佐奈は 日勤だっけ?」

「うん でも平気よ…パパの所に行くなら 久し振りに 夕食でも 食べて ゆっくりしてくれば?」

「そうだな じゃあ そうするかな」

そんな 何気ない やり取りをしながら 私は 朝食の後かたずけをしていた。


着替えを済ませると 誠は
「じゃあ 行って来ます」
にっこり 笑って ドアを開けた。

「あっ ちょっと なんか 違うよ!」

慌てて エプロンで 手を拭いながら 玄関に行くと

「おっ 初めて 佐奈の方から 気が付いたな!」

誠は よしよしと 私の頭を撫でて チュッと 軽くキスをした。

毎朝の事なんだけど 毎朝恥ずかしくて 赤くなってしまう
「行ってらっしゃい」
「じゃあな」

誠は そう言って 手を振ると ドアをパタンと閉めた。





昼休みになり 休憩室で、お弁当を食べてると

「コホンッ」

また 関根さんが 咳払いをしたので

「何ですか?この間、結婚の報告は聞きましたけど…」

そう 言うと

「あんた 隠してたでしょ?」

関根さんが そう言って 目を細めた。

「何をですか?」

「とぼけて 昨日 車ですれ違ったのよ 男の運転する横に 良く見たら あんたが乗ってたわ」

「えっ どこで!?」

関根さんの言葉に 驚いて目を見開く私

「さぁ~何処でしょう?彼氏でしょ?あれ 一瞬だったけど いい男だわ 私のと 交換しなさいよ!」

関根さんが 笑いながら 私の背中を 指先でつついた
「何 言ってるんですか
関根さんの彼氏だって ブラックジャックじゃ ないですかぁ~」

「馬鹿ね それは 手術の腕前の事でしょ? 外見は あれよ あれ…ほら フラ…」


「フランケン?」


「あっ あんた 人の婚約者馬鹿にしたわね!?」

「何言ってるんですかぁ~関根さんが 言ったんでしょ?」

2人で バカを言いながら、じゃれあった。


「でも ダメです あの人だけは 交換出来ません」
一息ついてから 私が言うと

「よほど 惚れてるな?」
関根さんが 冷やかすように 聞いたので

私は ためらう事なく


「はい」と 答えた。






夜になり 誠の帰りを待ちながら、私は 洗濯物をたたんでいた。

誠のシャツに アイロンをあてていると
やっぱり、幸せが 込み上げて来て

私は 誠のシャツに顔をうづめた。

今頃 きっと誠は、卒業を控え パパとこれからの話しをしているだろう


「やっぱり 誠が 居ないと落ち着かないな」

微かに 匂う 誠の香りに 寂しさを感じながら


「早く 帰ってこないかな」

そう呟いて


私は 立ち上がり 窓の外を見た



遠くで 救急車のサイレンの音が 聞こえる


何故か 胸騒ぎがして 不安になったけど


「まさかね…」


私は そう呟いて 再び 誠のシャツに アイロンをあてた。


ずっと これからも続いていくだろう

貴方が側に居る、変わらない幸せ


ただ それだけを



信じながら・・・