真実のノート -11ページ目

16話『愛だけを見詰めて』

「久し振りだよね 美紀ったら 隣町の病院なのに 全然 連絡くれないし」

「ごめん ってか 佐奈も椎葉君と一緒に 暮らし始めたら 全然 連絡くれないじゃん!」
美紀の言葉に 私は 墓穴を掘ったな そう思い、思わず 鼻の頭をかいた。
そんな私を見て 美紀は クスッと笑いながら
「まぁ~元気なら いいけどさぁ~」
そう言いながら 頬杖を付き 窓の外に 降り続く 大粒の雪を目で追いかけている…
「それは そうと 仕事も恋も 順調?」

定員が テーブルに置くコーヒーを見ながら 私が聞くと

「仕事は やっと 慣れてきたかな! 恋も まぁまぁかな 」
美紀が 答える

「まぁ まぁか それが 一番だよね」

「佐奈は どうなの?」

「うん 仕事は 美紀と同じで やっと慣れたよ まぁ~時々 関根さんに 怒られるけどね! あっ 関根さんって言えば 来年 結婚するんだよ」

「えっ 本当に!? でも そろそろ あの人も いい年だもんね」

「うん 相手は うちの病院の 外科医で 10才も 年上よ でも 幸せそう」

私は 関根さんが 初めて 結婚の報告をしてくれた日を、思い出していた。
あの日は ちょうど 関根さんと 私が 夜勤の日だった
カルテに記録を 付けていると 関根さんは 1つ コホンと 咳払いをして
「あっ あのさ 私 来春 結婚する事になるわ」

突然、そう言ったのだ。
「えっ!! えぇーっ!!」

付き合ってる人が いる事さえ 知らなかった私は 声を大にして 驚いた

「相手は 誰です?」
カルテを閉じながら 聞くと

「佐奈も知ってるけど 外科医の、前田先生」

目を左右に 泳がせながら関根さんは そう答えたのだ

(外科医の前田先生って 言えば…)

うちの病院の ブラックジャックと 噂される程の名医だ だが 普段は ボサボサ頭で ぼーっとしてる

そう言えば 前 そんな前田先生の髪の毛を 関根さんが 整えてる所を見た事がある

なる程ねぇ~ 付き合ってた訳かぁ~

私は

「へぇ~ それは それは おめでとうございます」


そう言いながら ニタァと笑った。

「何よ その意味深な 笑いは!! 私だって やる時は やるのよ!」

関根さんは 頬を うっすらと染めながら そう言うとカルテを開いた

「あっ カルテ 逆さまですけど…」
私が 指をさすと

「わっ わかってるわよ!今 戻そうとしたのよ」

関根さんは そう言って 眉間に 縦シワをたてた。

私は そんな 関根さんを見て

(可愛い!)

思わず そう思ってしまったんだ


「で 関根さん 仕事は?」
美紀の質問に 私は

「あの人が ナース辞めると思う?」

逆に 聞き返すと

「棺桶に 片足突っ込んでも あの人なら 辞めないね」
美紀が 言った。

「でしょう!!」

私は そう言った後 白衣を着て ナースキャップをかぶって 片足を 棺桶に突っ込んでる 関根さんを 想像しながら 大笑いしてしまった。

「ぷっ あははは!!」

続いて 美紀も笑う


久し振りに 会った 私達の会話は その後も、止まらず 時間が経つのも忘れて弾みまくった。


そろそろ帰ろうかと、喫茶店から出て

「またね」

私がそう言うと

「ねぇ 佐奈 今 幸せ?」
美紀が 突然 真顔で 聞いてきた
「どうしたの 急に!?」

「いいから 答えて」

キョトンとして 聞き返した私に 美紀が 不安そうな表情を浮かべて 叫んだ

「美紀?どうしたの!?」

美紀を 見詰める私

「ごめん 佐奈 私が あの時 佐奈に 本当の事 教えたのは 正しかったのか!?今も 時々 迷うの…」

美紀が うつ向く

(美紀)

私は そんな美紀に

「何 言ってんの あの時 美紀が 本当の事 教えてくれたから 今 私 最高に幸せなんだよ」

そう言って 抱き締めた

「有り難う 感謝してる」
最後に 私が そう言うと
「佐奈 椎葉君と、幸せに なってね」

美紀は そう言いながら 私の胸で、泣いた。


美紀


いつも 心配ばかりかけて

ごめんね


だけど 私は あんた見たいな 友達が 居てくれて

幸せだよ


ずっと あんたとは


親友 やってきたいよ


私は、美紀を抱き締めながら 心から そう思った。



雪は 夜になっても 降り止まず、 この町を 白色に 染めてゆく…



美紀と別れ アパートに戻ると


「お帰り 佐奈」

誠が 笑顔で 迎えてくれた

「誠…」

私は 靴を脱ぎ捨て 誠の胸に飛び込んだ。

「どうした 佐奈 久保田となんか あったのか?」

肩を抱きながら、ビックリした様に 誠が 私の顔を覗き込んだ。
私は

「違うよ 幸せ過ぎて 突然怖くなったんだよ」

そう 言った。

だって いつも 誠は 優しいから

優しくされると 幸せで 怖くなるんだよ

「馬鹿だなぁ 佐奈は」

そう言いながら 重なる唇
しっかりと 抱き締めてくれる 大きな手

「ヤバい まだ レポート途中なのに 佐奈が 可愛い事言うから 止まんなくなってきた」

誠は そう言うと ベッドに私を 押し倒した。


「誠…」


「佐奈…」


名前を呼び合って、見詰め合う瞳

激しく 重ねられる 唇

背中に 回した 私の両手が誠を しっかりと抱き締めた。





もう 貴方無しでは


私は 生きられない


弱くて 脆くて


崩れてしまう


だけど 貴方が 側に居てくれれば

私は どんな事が あっても

強くなれる…


「誠 離れないで」

そう 叫んだら 涙が 零れた。


「言っただろう もう 離さないって」


荒くなる 呼吸の中 誠が
耳元で 囁いてくれた。


窓の外…しんしんと降り積もる雪に

私は 誠との 永遠の 幸せを願いながら


その夜



何度も 誠を 求めた

16話『愛だけを見詰めて』

そして 季節は変わり 寒い冬がやって来た

その日は 朝から ハラハラと雪が 降っていた。

「なぁ~亜弥ちゃんの 墓参りしてない 俺」

ちょうど 珍しく 誠と私の休みが 重なった日
ベッドの上のピュアを抱きながら 誠が 呟いた。

今日は 久し振りに 午後から美紀と会う 約束をしている

私は 壁の時計を見上げ 時刻を確認すると
「そうだね 誠、命日の日は 学校だったもんね 今から 行こうか!?」
そう言った
「ああ 午後からは 俺もレポート書かないと、いけないしな」
誠も 私と同じく 時間を確認すると ハンガーのコートを手に取り、立ち上がった。



外に出ると雪の粒が大きくなってて
「これは 珍しく 積もるかな!?」
誠が 上を見上げながら 口を大きく開ける
「雪、美味しい?」

「うまい! 佐奈も 食ってみ!」

「本当?」

誠の言葉に 私も 空を見上げて 口を 大きく 開けた。

「うまいだろ?」

「良く わかんない」

「味覚 無いな お前」

「うるさい ってか それって私の料理が 不味いって事!?」

「どーだろ…」

「ちょっと 誠!!」
私は 頭に来て 誠のケツに蹴りを入れる

「いてーな!! すぐ 怒る!!」

その後

「鬼看護師」

誠は ボソリと呟いて 車のドアを開けた
「私は 白衣の天使よ 天使」

そう言うと 笑いながら私も 助手席に乗り込んだ。



アパートから 少し 離れた所にある 閑静なお寺に 亜弥のお墓は ひっそりと たたずんでいる。

お墓に積もった 雪を パンパンと手で払い お花を供え、誠と一緒に お線香を炊き、合掌した。

「お前が 看護師を目指したのは この娘に 出会ったからなんだろ?」


「うん そうだよ 亜弥に出会わなければ 今 私が 看護師でいる事は 無かったな」


「そうか 感謝しなきゃな俺…」


「誠?」


「あっ だってさ 佐奈に夢くれたんだろ? 亜弥ちゃんは…」

お墓の前で 手を合わせながらの誠の言葉に

「うん 亜弥は 私に夢をくれたの…」

そう言って 私は 瞳を静かに閉じた。

亜弥の事を 思い出す度に
「トナカイさん!」

亜弥が 何処かで そう言って 笑っていてくれるようで…

つい 亜弥は 生きているんじゃないか?
そんな 錯覚に捕らわれてしまう
だけど 目を開けると いつも 切ない現実に戻ってて

やっぱり 今日も


「泣き虫 佐奈」

誠が 囁いて、頭に手を置いた。


駄目だ また 泣いてしまった。

「亜弥ちゃん こんな 泣き虫佐奈ですけど 見守ってやって下さい」

誠が そう言って 頭を下げた。

「なによう…」

口を 尖らせる私

でも 亜弥 これからも 見守っていてね

私は 白い結晶が 舞い降りる 灰色の空を見上げて そう 呟きながら 指先で涙を弾き飛ばした。





亜弥のお墓を 後にして
美紀との 待ち合わせ場所である喫茶店迄 誠に、車で、送って貰い
降りると 美紀も ちょうど今 来たらしく
「お熱い事で…」
そう言いながら 私達をニヤケ眼で見た

「おう 久保田 久し振り」
誠が 運転席から 顔を出し美紀に 笑いかけた。

「相変わらず 憎らしい程いい男だわ 椎葉君」

美紀が 小声で 私の耳元で囁く
「そうかな?」
私は それを、オトボケと、苦笑いで ごまかした




喫茶店の中は…暖房が 効いていて 暖かい
私達は コートを脱ぐと 定員に ホットコーヒーを、2つ 注文し、定員が去るのを待って
「おっひさぁ~!!」
手のひらをパチンと合わせ微笑み合った。

16話『愛だけを見詰めて』

そして…4月
私は 看護師として 街の総合病院で働き出した。

誠は あの後 パパとの話し合いの結果 東京の大学に戻る事を決意した。
一緒に暮らす為のアパートを
どこに 借りるのかが 群馬で就職した私と 東京の大学に通う 誠の最大の悩みだったが、夜勤のある私の為に、誠が 群馬から通うと言ってくれたので 少し気が引けた。
本当は ちゃんと 誠が 卒業する迄 待つべきなんだろうけど ワガママな私は待つ事が出来無かった。
ずっと 離れていた時間が長かったせいか?
誠の側にいる時は 幸せで安心なのに 離れてしまうと とても 不安になった 一緒に暮らす事で
誠が もうどこにも行ったりしないと言う実感が早く欲しかったんだ


2人だけの部屋に 最初に足を踏み入れた時
私達は 手を繋いで いっせーの!と 掛け声をかけて片足を揃えて 部屋に入った。 本当 こんな馬鹿らしい事でも 幸せで 涙が出てしまうんだ 私…
誠は 「ほら また 泣く!」と言いながら 目下の涙を指で 優しく すくい取ってくれた。


最初は 何も 無かった 私達だけの空間に 次第に 生活用品が 増えてゆく
「今度は タンスだな!?」そう言う 誠に 私は 6畳1間の部屋を見渡し
「これ以上 部屋を狭くしないで!」
そう言いながら 笑った。

勝手にバイトを増やしては私に怒られて
「ああ 早く 一人前になりてー」誠は そう言って ふて腐れていた。

勤務時間が合う時…朝 早い誠に お弁当を持たせ 「行ってらっしゃい 」そう言いながら 手を振ると
「なんか 違うんじゃねーの!?」 誠は そう言って 私にキスをした。そして 目を丸くして 驚く私を見て 意地悪そうに笑い
「行って きまーす」
そう 言い残して 出て行く
「ただいまー」
そう言って 帰ってくる誠に 「お帰りなさい」
そう言える自分が 嬉しかった。

2人で テレビを見て 大笑いした。
部屋のお風呂が、壊れて慌てて2人で、銭湯に行った

休みの日が 中々 合わない私達は 暇を見付けては ちょっとした ドライブにも出掛けた。

夜景が 綺麗な場所で車を停めると、誠は 「少し散歩しようじゃん!」そう言って私の手を引いて 近くの公園を歩いてくれた。

少し 先を歩く誠の背中を見ながら 大きな手に引かれて 歩いてると、幸せが込み上げて、勝手に顔がほころんだ。
すると 誠は 何故か 立ち止まり 私に歩幅を合わせて 歩き出したんだ
「突然、どうしたの?」
私が 聞くと 誠は
「同じ 歩幅で 歩きたいんだ」そう言って 微笑んだ「あっ ERiの言葉だ」
私が そう言うと
「うるせーっ」
誠は 照れたようにそう言って私の肩を抱く

全てが 愛しくて

全てが 優しい



幸せな時間は 日々と

季節を 重ねながら


刻々と 流れていった。