真実のノート -59ページ目

最終話『真実のノート』

一睡も、出来ず…


11月19日(水曜日)

午前5時11分



(ピピピ…♪)



メール音が、響く…


大「おはよう!彩香 あのな…言いにくいけんど…」

(ん?どうしたのでしょう?いつもと、様子が違う…)


彩香「どうしたの?」


大「うん…あのな…色々とごたごたがあって、整理しなきゃならんわ…俺…」


彩香「ごたごた? 会社の事?」


大「うん…まぁ~そんな所や… だから、ホテルとレストランの、ピックアップ明日にしてくれへん?」


彩香「いいわよ…大変ね」

大「後…今日 多分メールでけへん…ごめんやで
明日、メールするわ!」

10話『大阪空想デート』

(ピピピ♪)

夜になると、大からメールが届きました。


大「彩香!仕事終わったで最近…お前と、繋がる事がなんや…習慣になってしもたわ~」


彩香「私もよ…大と 繋がる時間が一番大切だわ…」

最近の私達は、メールの事を『繋がる』と言う言葉で表現する。

まさに、♪この空の下にいて…の影響だ…


大「なぁ~彩香!俺達…後もう少しで会えるんやな?」


彩香「そうね…大阪駅で待ち合わせして、大が向かえに来てくれるでしょう… その後は…? 」


大「まずは…初めましてやろ…」


彩香「そうだね(笑) 初めまして!だよね…でも
初めてじゃないから?」


大「せやなぁ~ 手を繋いで、俺の車に乗るんや…」

彩香「いいわねぇ~(笑) それからね、お互いを確認しあうの!」


大「なんやぁ~?触りっこかいな(笑) まかしとき!!」


彩香「違うよぉ~ Hねぇ~(笑) 携帯だよ!! 大の携帯には、私の受信メールが有るでしょう? 私の携帯には、大からの受信メールそれを 確認するのよ!! あっ 削除してるか?大の方は…?」


大「なんやぁ~ その事かいな~ 期待して損したわぁ~ ん? 削除なんかしとらへんよ!お前からの メールは、なんや大事で みんな、保存しとるわ… 変やな 俺… 最近…お前の姿ばっかり、頭に浮かんで来よるわ…」


(大…)
その姿が、『彩香』でも
いけない! 又 涙が溢れそうになる…


私は、懸命に 頭の中の 『彩香』を呼び出した!!


彩香「嬉しい!私もよ… あっ そうそう!私、大阪に行ったら、たこ焼き食べたい!! 」


大「パスタは ええんか? お前、パスタ好きやろ?」


彩香「ん~ じゃあ!パスタと たこ焼き食べたい!!(笑)」


大「へいへい!そんなもんで、いいんかいな?
安上がりやなぁ~ 彩香は(笑)」


彩香「後、お笑いライヴも観たい!!」


大「へいへい!おおせの通りに… ってか イブやぞ?レストランと、ホテルの予約取らなあかん!!!!」


(えっ!?)


そこで、私の指先は(ピタリ)と、止まりました。

(そんな事まで、考えていなかった!!)


「帰るし…レストランだって 適当な所 探して入ればいいよ…」

戸惑いながら、そう 送信すると…!?


大「適当なんて、でけへんよ!! それに、俺…お前を帰す気なんて、あらへんもん!! 話しもあるしな…」

と、返信。

(話…? 何の!?)

聞きたい… でも… 聞く資格がない…

私は…これ以上はない 自分に ガックリと肩を落とし
「分かったわよ」

と…送信しました。


大「ほな…レストランとホテル、 ピックアップしとくで!明日の夜知らせるわ!」


彩香「うん…分かった…」


それからの…たわいもない会話は…私(ともえ)にとっては…


…地獄の時間だった。


いつもの様に、大からの
返信は、段々と、ゆっくり
になり…

やがて…


…………………止まる。


私は…15分待ち…

今日最後の、メールを送信した。


「突寝の名人さん…
おやすみ…愛してるわ…」



(…………)



携帯を、(パタン)と、閉じた後…

一気に…溢れだした 涙と
共に…私は、悪あがきは止め…


この、短い恋の 幕切れを


明日に決めた…

10話『大阪空想デート』

タクシーにのり、家に向かう途中…

あの、喫茶店の前を通りかかったので…

私は 慌ててタクシーを止めた。


ドアを開くと…


(カランコロン)と いう鈴の音と
いつものBGM…♪

優しく、微笑む白髪のマスターが、「おや!いらっしゃい!」と、私を、向かえてくれました。

「今日もコーヒーかい?」

と 尋ねるマスターに、私は 静かに、首を横に振り

「今日は、ミルクでお願いします」

と 注文すると…

コスモスの揺れる、窓際の席に腰を、降ろした。


「あっ!!」

病院に居たので、携帯の電源を 、切っていた事を思い出し…

慌てて バックから取り出し、電源をONにすると…
大から、メールが2通届いていました。

目を、ディスプレイの上に滑らせると!?

時間は、もう 午後1時を回っていました。


12時05分
「お昼や!!彩香…又パスタかいな!? 今日は 何パスタや?」


12時45分
「おい!彩香…どないしたんや?俺の事 嫌いになったんか?」


(クスッ…可愛い…)

私は、わずかに口角を上げ
「ごめん!遅お昼!今日もパスタだよ…タラコとイカのパスタだよ…午後も 仕事頑張ってね!!」

と 書き 送信ボタンを、押した。



マスターが 銀色のおぼんに、ミルクを乗せ…

(ニコニコ)しながら、話しかけてきた。

「♪この空の下にいて… は、年がいも無く、わたしも大好きな、曲なんですよだから、一番最初に、貴方に曲名を聞かれた時は、 何故だか妙に嬉しくてね…」


(カチャッ)

ミルクをテーブルに置きながら、 マスターは、そう言って、顔をくしゃくしゃにして、微笑んだ。


(年を、重ねるのも悪くない!!)

心から、そう思える笑顔だった。


私は、携帯をバックにしまいながら、答えた。


「♪この空の下にいて… は、まるで… 私の心を生き写しにした様な、 そんな曲だったんです…」

私が そう言うと、マスターは
真正面の席に腰を降ろし
「貴方には、 苦しい程 愛しい誰かがいるんだね?」
と、問いかけながら
おぼんを、テーブルの上に追いた。



「!?」


確信をついた、マスターの問いかけに思わず顔をあげると 私は 何故か!?(この老人に全てを打ち明けてしまいたい!!)
そんな、衝動にかられた。

・・・余りに

私を見詰める、マスターの眼鏡の奥の、瞳が優しかったから…

そして、まるで午後の木漏れ日の様に、優しく私に問いかけたから…


次の瞬間!!

涙が、後から後へと、溢れだし…

私は、大との今までの、全ての事を、老人に語っていた。


老人マスターは、私の話しを静かに、聞き入れ…
「うん…うん…」

と、時々相づちを、打ってくれた。


心が癒され…


少しずつ…空(くう)に近くなってゆく…



ただ…誰かに、聞いて欲しかった…


こんな、おばさんの馬鹿で切ない恋を…


嘘を付き通す… 愚かな結末は、もう…直ぐそこまで来ている!!






家に帰ると…


私は、壁のカレンダーを見詰めた…



(後、イブ迄は、1ヶ月とちょっと…)



大と… 私の タイムリミットは?